悲観的よりも楽観的に
馬房から出てすぐの柵に二人が寄りかかると、雲が流れていく空を眺めながら誠が話し始めた。
「最近、責任というものの重さを改めて痛感したんだ。僕のスピーチを素晴らしいと言ってくれる人が多かったけど、その逆も少なくなかった。実際、あの日僕は舞台裏で震えていたんだ。僕の前にスピーチをしたカーネーションの代表を見て、自信が持てなかった。皆の前であんなに堂々と自分の意見を言える度胸は、僕には無い。あの時、美月が来てくれたおかげで何とかなったけど、もし美月が来なかったら……きっと僕は逃げ出していた」
「スピーチって、ただ原稿読み上げるだけだろ? 何をそんなに緊張する必要があるんだよ」
「その口ぶりからして、君はやっぱり来てなかったんだね。あの日のあの場所は、とても窮屈に思えた。色んな人の色んな思いが集まった場所で行うスピーチは、普通のそれとは違う。君のような人には理解してもらえないかもしれないけど、自分より目上の人と話す時、言葉選びに凄く緊張するんだ。こんな言い方では駄目か、こう言えば嫌な気分にされるか、なんてね。そういう気分にする人が、あの場にいた一般生の子達だ。僕を慕ってくれる人。僕に興味を持ってくれてる人。僕を良く思ってない人。僕に対する想いは違えど、みんな僕の言葉を良くも悪くも聞きたがっている」
誠は見上げていた視線を真下に下ろし、震える両手を強く握り合わせた。
「僕はヒマワリの代表だ。僕を慕ってくれてる人がヒマワリには大勢いる。僕がたった一つでもミスを犯せば、僕を慕ってくれる人達に迷惑が掛かる。それで僕を嫌いになってもいい。恨んでもいい。でも、信頼や期待を寄せるのだけは勘弁してほしい。アナタならきっと出来る。アナタならミスを簡単に取り返せる。そういう妄信を続ける人は、やがて心に深い傷を負う。そんな人が今後現れてしまうかもしれない事が、僕は恐ろしいんだ……」
「つまり、自分にが荷が重いから別の誰かに代表の座を渡したいのか?」
「それが出来れば簡単な話なんだけどね。なんというか、その……僕を慕う人は、酷く僕を過大評価してるんだ。特に僕の幼馴染の美月は、ただの石ころな僕を最高級の宝石のように演出する。一度神輿に担がれたら最期。担いでくれる人が倒れるまで、神輿から降りる事は出来ない」
「ふ~ん。大変なんだな、代表様って」
「そうなんだよ……」
肩を下ろして深くため息を吐く誠に、天明はかける言葉を考えた。
考えに考えた結果、あまり深く考えた言葉を言う必要は無いと確信した。
「やっぱ弱虫だな。お前って」
「何も言い返せないよ……」
「いっそ今のお前をみんなに見せたらどうだ?」
「ッ!? それじゃあ―――」
「まぁ待てって。人って奴は、善人だろうが悪人だろうが、好きな人と嫌いな人ってのが必ずいる。お前がどんなに立派になっても嫌いな奴は嫌いなままだし、お前の弱さを見ても好きな奴は好きなままなんだ」
「そうとは限らないだろ! 今は慕ってくれてても、ちょっとした事で嫌いになるかもしれない!」
「そん時はそいつがお前を慕う気持ちがその程度だったって事だ。んでもって、外面だけで好かれようとする奴は総じて嫌われる。内面の強さや弱さが露呈して、初めて好きか嫌いかを判断し始めるんだ。お前は見た目は良いし、性格だって良い。そんなお前が実は弱虫泣き虫だと知れば、大抵の奴は母性爆発だ。お前に危害を与えようとする害悪から守ってくれるかもな」
「……少し、楽観的じゃないか?」
「いいんだよ、楽観的で。悲観的に考えるよりも、ずっと生きやすい。まぁ、要するに。お前を嫌う奴は悪者だけだ。そんな奴に好かれる必要なんか無い」
「……それでいいのかな?」
「俺に同意を求めるな。お前が代表から蹴落とされた責任が俺にも飛ぶだろ」
「……フ、ハッハハハ! それ、いいね!」
「良くはないだろ!」
天明の否定の言葉を受けても、誠は大声で笑っていた。そんな誠を見て、天明も小さく笑みをこぼした。
「やっぱり君は僕の憧れだ! さっきまでどん底の気分だった僕を笑わせてくれたんだから!」
「まぁ、憧れて当然だな。弱い奴は強い奴を見上げるもんだからな」
「そんな風に言うのかい? 立場で言えば、僕は君よりずっと上なんだよ?」
「お前の事、早速嫌いになってきたよ」
「冗談だよ、冗談! 君には、慰めてもらってばっかりだ。何かお礼をさせてくれ。ヒマワリの代表として、君の願いを一つ叶えたい」
「願いって言ったって……あ、そうだ。それじゃあ早速で悪いんだけどよ―――」




