第1話:行ってきます
それは突然のことだった。
ある日、得体の知れない円柱のような
形をしたものが、空から降ってきた。
"彼ら"はその中から出て人々の目の前に現れた
突然人々に襲いかかる緑色の肌をしたヒトガタ
人々は彼らをこう呼ぶ
──『ゾンビ』、と
〈ツァーリ・ゾンビ〉
チュンチュン チュンチュン
小鳥の囀りが良く聞こえる
「いい朝だな」
俺、リオネル・ユーゴーは目を覚ました。
「リオン、朝ご飯よ 早く降りておいで」
「はーい」ドダダダダ
「お、来たな おはようリオン」
「おはよう、父さん」
「よし、身支度も出来たしそろそろ行こうかな」
「随分と早いなリオン、今日も朝早くから仕事か?」
「そうだよ、父さんが出稼ぎに行く間は、ジョンたちの世話は俺の仕事でしょ」
「はは、そうかありがとうな でも昨日もぶっ通しで働いてたろ あんまり無理はするなよー」
「はーい、そんじゃ行ってきまーす」
「ほら、メルもお兄ちゃんに向かって
行ってらっしゃい だよ」
「いってらっしゃい!」
「ん、ゾンビが出る6時頃までには帰ってきます」
バタンッ…
~リオネル出発後の家にて~
「あの子、最近仕事ばかりなの
あの子にはもうちょっと色んなところに
旅をさせてあげたいわね」
「ああ、僕が君の治療費を出せるまであと少しだよ
そうしたら、家のことは2人で頑張って、子供たちには色んなところへと旅立ってほしいなぁ」
「そうね、あなたも気をつけて行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくるよ」
キィー、バタンッ
ドアの閉まる音が、静かに家に響いた。
~家の宿舎~
少し、鳥が騒がしい気がした。
モォ〜〜 モォ〜〜
「おはよお前ら、今日も元気だな」
モォ〜〜〜!
「やめろよくすぐったいなぁ」
我が家では主に牛を少し飼っている
ゾンビの一部を体内に吸収すること、またはゾンビに噛まれることで、ゾンビになったり体の一部が腐敗したりするため、そのような事態を防ぐために牛革などの硬い革を使った服を身につけて肌を噛まれないようにしているんだ。あと、ここらはちょい寒いので。
んー、今日は川沿いのルートでいいかな
「よいしょっと、ふぅー ほら、行くぞ」
モォォー!モォォー!
どうしたんだろう、こんなに暴れて
今日は何やら落ち着きがないな、
「落ち着け、落ち着け」
「ん?おや、リオネルくんじゃないか久しぶり」
「あ、お久しぶりですドープさん」
彼の名はドープ・ウガルテ、父さんの友人であり、
都市部の軍部に所属している魔法使いだ
「何をしてるんだい?」
「これは、水溜まり場まで送ってく途中なんです」
ぶぉぉぉお!ダシンッダシンッ
ジョンがまた暴れてら、そんなに早く行きたいかね
「今日はジョンの落ち着きがないようで、それではドープさん、また後で!」
「あぁ、またね」
~ビル高原~
「さぁ、水浴び場に着いたぞ」
そこには一面の緑が広がっていた
しかし、少し空が暗いな
風もすこし湿っている
ブフォ〜〜 モォ〜〜
「あははっ水にゆったり浸かって楽しそーだな」
…木が激しく揺れている
「ん、なんか今日はいつもより疲れたな」
…鳥が激しく飛んでいる
「木陰に入っとくか、よいしょっと」
…今日は動物たちの様子が変だったな
「ンー! はぁ、眠いし寝よっ」
そうして俺は眠りについた
まさか、このあとあんな目に遭うなんて
思ってもいなかった。
~時が過ぎて~
カァーカァー カァーカァー
烏の鳴き声がよく聞こえた。
俺、リオネル・ユーゴーは目を覚ました。
時計の針はもうすぐ午後6時になろうとしていた。
「どうしよ、いつもはこんなことないのに!
早くしないとゾンビが!」
…その時だった
カチッ ピーッピー
時計が6時の合図を示した
目の前に誰かいる。
肌が垂れている、臭い独特の匂いを発している…! しかも肌が緑色だ、何か言葉を発しているのか。
なんだ、あれは…!まさか!
「ゔぉぇぇぇえ゛!」
ある日、ソレは人々の目の前に現れた
突然人々に襲いかかる緑色の肌をしたヒトガタ
人々はソレをこう呼ぶ
「っ、ゾンビだ!」
ザッザッザッザッ
「ひぃ!くるなぁぁぁあ!」
俺は必死に逃げ回る。
しかし、ゾンビは集団行動を取るため、もちろん1人ではなかった。その常識を再確認したとき、俺の心はもう壊れていた。恐怖しか感じられなかった。
ジョンたちはもうゾンビたちに切り刻まれていた。
怒りが込み上げてくるはずが、今の自分には到底感じられなかった。
こんな状況でも、俺は何もできないのか…
ゴリッ ズザァァァァァア!
「っ、イッッタァ! 」
どうやら石に躓いたらしい。
痛みでどうにも動けない…!
「ゔぁぁあぁぁぁあ゛!」
一匹のゾンビが目の前に来て俺は、…
「ぁ、」
無様な嘆き声しか出すことができなかった。
あぁ コレで、死ぬのか…
そう思う間に沢山のゾンビがこっちに寄ってくる。
最後に家族と会いたかったなぁ
ホロリッ
そう思うと 涙が一滴、静かに地面へと落ちた。
スゥー
『括弧』
ガコン! ガコッ ガコッ ガコン!
目の前には無数の、少し黄ばんだ正方形が俺を囲んでいた。俺はその重複した立体の中にいるようだ。
スタッ
黒髪で身長の高い男が目の前に降りてきた。
知らない人だ。 でも、今のは魔法…?
「位置悪いんだよガキ、もう少し上手い位置で
転べないかねぇ」
少し空が明るくなったように思えた。
「す、すみません」
「いい、じっとしてろ」
よく見ると、さっきまで目の前にいた沢山のゾンビが吹き飛ばされている。なんなんだ、この人は…!
『矢切』
フンッ!
ザンザンザンザンッザンザンザンザンッ
…は?全てのゾンビの首を吹っ飛ばした…だって?
四方八方に同時に攻撃を繰り出したってことか?
すごい…
どうやらこの人のおかげで身の回りのゾンビは
全滅したようだ。
「あ、あの ありがとうございました」
「礼ならいらない」
「まずは名前からだろ、お前、名前は?」
「リオネル・ユーゴーです あなたは?」
「俺の名はレイ・ブラントだ、よろしくな」
「よろしくお願いします」
「話は戻るがもし礼を言うなら、お前の母親にだな」
「え?なぜですか?」
「お前がいないことをいち早く知らせてくれたからだ。おかげで俺は早くここに来れた」
「そして聞いたぞ お前の母親、体が悪いんだってな」
「はい」
「その件だが、俺が軍に手術金の一部を負担してくれるように頼んだが了承してくれるそうだ。」
「ありがとうございます! でも、どうしてそんなことを…?」
「お前を都市部に連れて行くことを条件に、だ」
「はい?」
「お前は都市部にある俺らの軍部養成所に入ってもらう、対ゾンビ部隊だ」
「え?」
「いちいち驚くなよ、うるせぇ」
「いや、そりゃこうなるでしょうよ」
「まぁ細かいこたぁどうでもいい、対ゾンビ部隊も人手不足だ 近年都市部で増えているゾンビテロ
お前はそれらを滅する兵士となれ」
「は、はぁぁぁぁぁぁあ⁉︎」
今日が人生で1番驚きがあった日だ。
そして、明日はもっと驚きがあるんだろな
…家のことは3人に任せてもいいよな
…うん、きっと大丈夫だ。
俺は強くなってゾンビから人々を守る
ために戦うんだ。
そのためなら、家族と一緒にいれる時間が少なく
なってもかまわない!
強くなれ!戦え!戦うんだ!
~翌日~
「それじゃ色々と気をつけてね」
「あんまり無茶するなよ」
「むちゃすんな!リオン!」
「みんな、ありがとう」
「そろそろ行くぞ、」
「おぅ!」
「「「元気でね、行ってらっしゃい!」」」
「行ってきます!」
俺の新しい人生が今幕を上げた
突如軍部へと送り込まれたリオネル・ユーゴー
そこでの出会いは希望か絶望か
そして、魔法使いやゾンビとはいったいなんなのか
次回:歴史