6日目:トレド観光
朝早くホテルを出て、バスはバルセロナ空港に着いた。
バルセロナ空港からマドリッド空港へ移動した。
昼食後、バスは1時間15分かけてトレドに移動した。
トレドは、かつてはスペイン帝国の首都だった。そのため、街並みが素晴らしく歴史の宝庫となっているのだ。
川に囲まれた小高い丘のところにあるので、天然の要塞都市です。
その街並みは、絶景と言われていて素晴らしかった。対岸の街を望む高台からみんなで写真を撮ったりした。
トレドの街中の細い道をくねくねと歩きながら、トレド大聖堂を見学。
今度の名前は聞いたことのある、エルグレコの名画を鑑賞したりしながら散策した。ヨーロッパの旧市街地はどこも細い道が入り組んでいて、外敵から襲われることを想定して造られた街なのだ。
歩き疲れて、皆のろのろと歩きながら、美紀とは二度ほど目線が合って、笑顔を交わし合った。遠くからそれとなく、美紀の写真も撮った。
しばらく歩いていると、後ろから、
「ねぇ、写真撮ってもらえる?」と声がした。振り返ると、美紀が友達と並んで立っていた。
「ああ、良いですよ。」
英一は自然な顔でスマホを受け取り、シャッターを押す。美紀はさっきより少し控えめな笑顔を見せた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。綺麗に撮っておきましたよ。」と言ったら笑顔が返って来た。
それから特に言葉を交わすことはなかったが、視界の端に彼女が何度も入る。
彼女の肌や髪の色と不思議と市街地によく馴染んで見えた。
「気を付けてくださいね。石ころ多いし、滑りやすいですよ。」
つい言葉が出ると、美紀が「は~い。」と言って、ちょっと嬉しそうに笑った。
観光後、バスでマドリッドへ移動中、英一は勇気を出して美紀に電話番号を渡そうと決めた。
美紀は英一の座席のちょうど後ろにいたので、小さな声で聞いた。
「あの~、電話番号を渡して良いですか」と言ったら、美紀は小さくうなずいた。
英一は、急いで書いた電話番号を窓側と座席の隙間から渡した。
美紀は、英一からの小さな紙切れをしっかりと握りしめた。
英一は一瞬だけ後ろを振り返って美紀を見た。美紀は目を伏せがちになりながら、微笑んだ。
その仕草が、何とも言えず可愛らしく、英一の胸の奥に温かいものが広がった。
――これでスペインの旅が終わる。
そう思いながらも、英一は小さな紙切れに込めた自分の想いが、これからも二人を繋ぐかもしれないと、密かに願わずにはいられなかった
今日で、スペインの旅行も終わり、明日は日本へ帰国するのだ。
英一は、美紀に電話番号を渡したので、連絡するのは美紀次第なのだ。
美紀の想いに命運を預けた。
でも、もう若くないので、それほど緊張する気持ちはもうなかった。
そして、頭の片隅から、もう一人の英一の声が聞こえて来た。
「もう、そんなに時間が無いんだから、普通に迷っている時間など無いのだよ」と、聞こえて来るのだった。