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第三章 世界を救う馬鹿

「ワハハハハハハ!」


爆笑しながら壁をぶち破り、煙の中から現れる男。


赤いマント、青い全身タイツ、胸には手描きの「S」の文字。


 


「おう、タイムトラベラーのガキか! よし、世界救うぞ!」


 


あの日のあの登場は、後にも先にも彼の全人生で一番“ヒーローらしい瞬間”だったかもしれない。


そして、それ以外のほとんどは、笑えないほどバカで、惨めで、くだらなくて――

それでも、本人はずっと笑っていた。


 



 


彼の本名は、神谷かみや ゆう

日本生まれ、日本育ち。異国の地で、なぜかスーパーマンを名乗る変な日本人。


 


「正義の味方になりたかっただけなんだよなぁ。昔から」


 


子供の頃は、いじめられっ子だった。


ちょっと太ってて、声が高くて、漫画が好きで、正義の味方に憧れてた。


でも現実は、殴られて、笑われて、見下されて、無視される日々。


そんな彼にとっての救いは、テレビに映るヒーローたちだった。


仮面を被り、悪を倒し、誰かを守る。


 


「俺も、ああなりたいなあ……」

「世界、救ってみたいなあ……」


 


その気持ちは、やがて冗談になり、そして現実から消えていった。


誰もが言う。


「正義じゃメシは食えない」


「いい人ぶるなよ、ダサいぞ」


「現実を見ろよ」


 


現実は、世界を救おうとするやつを、嘲笑う。


 



 


彼が異能力――ギフトに目覚めたのは、24歳のとき。


ブラック企業で毎日朝5時まで働かされ、過労で倒れ、意識が朦朧としたとき。


 


“倒れたその瞬間、なぜか翌日の朝にワープしていた。”


 


気がつけば、体は超人的に頑丈になっていた。


事故に遭っても平気。高所から落ちても擦り傷だけ。


そして、一週間後。

彼は確信する。


 


「おれ、スーパーマンになったんじゃね?」


 


そこからが彼の始まりだった。


赤いマントを自作し、Sマークをガムテで作り、世界を巡る旅に出た。


彼のギフトは「生命力」。

その力を使えば、傷ついた人を癒すことができる。

ただし、“自分の命”を分け与えることで。


だから、彼は何度も死にかけた。

肺が潰れたこともあった。

肝臓が機能しなくなった夜もあった。


でも、彼は笑っていた。


 


「いいんだよ。どうせ余ってるから、俺の命なんて」


 



 


それでも、誰も彼をヒーローと呼ばなかった。


どんなに命を削っても、どんなに人を助けても、彼はただの“変な日本人”だった。


貧乏で、無職で、頭がおかしい。


けれど彼は、止まらなかった。


 


「笑われるのは慣れてるんだ。子供の頃から、ずっとそうだったからな」


 


だからこそ、本当に困ってる人間を見つけたときだけは、本気で笑える。

自分の命が、誰かの希望になるなら、惜しくはない。


 


「俺は、馬鹿だからさ。いつだって“誰かのヒーロー”でいたいのよ」


 



 


そんな彼が、あの“終わりの日”に立ち会うことになったのは偶然だった。


2031年5月13日。


世界は、黒く染まっていた。


人が狂い、殺し合い、都市が崩壊し、希望が燃え尽きていく。


すべては、ひとりの異能者――アザゼルの仕業だった。


触れるだけで、人の悪意を増幅させ、互いを殺し合わせる。


その狂気の中、神谷 悠は、まだ諦めていなかった。


 


「まだ……誰か、生きてるはずだろ……」


 


彼の体はもう限界だった。


命を与えすぎて、髪は抜け落ち、骨はきしみ、心臓も弱っていた。


けれど、その足で、まだ倒れた人を助けていた。


 


そのとき、出会ったのがレントンだった。


 


「……まだ、生きてるのか」


「誰、ですか……?」


「俺は……ヒーローだ」


 


死にかけたレントンを抱え、命を吹き込む。


自分の“全部”を注いで、彼を生かす。


そして、こう言った。


 


「お前のギフトは時間。進化すれば、過去に戻れる」


 


レントンは震えていた。

世界が終わった重みを、その目に宿していた。


だからこそ、彼に賭けた。


命を全部、託した。


 


「ヒーローってのはな、笑って死ぬ馬鹿のことを言うんだよ」


 


そして、スーパーマンは、世界の終わりに消えていった。


誰にも知られず。

誰にも感謝されず。

ただ一人の少年の中に、“希望”だけを残して。


 



 


「――あの日、誰にも言えなかったけど」


レントンは、ノートの最後のページに書いていた。


 


スーパーマンは、僕にとって、本物のヒーローだった。

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