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その渇望ゆえに宇宙をさまよわずにはいられない

ハナホ社 - 失われたレシピの再生

作者: 八角泰三

次の目的地へ向かう道中、手元の日程表を覗き込む。携行食での食事は何日目だろうか。宇宙における食事の品質は、長年にわたる研究の成果により、着実に向上してきた。とはいえ、なんとも味気ない。


長期にわたり宇宙で生活する者にとって、栄養バランスが整えられた携行食は、健康管理の重要な要素となっている。しかし、訪問先で現地の食文化に触れる機会があると、その一期一会の食事は素晴らしい体験となる。健康と地場の味わいを天秤にかけるのは容易ではない。


さて、携行食にも素晴らしいものはある。初めて見る携行食があれば、その味わいを試してみたくなるものだ。特に、化石燃料時代の食文化を再現したハナホ社のリプロダクトシリーズは、その新作を待ちわびるほどだ。


今日は少し機嫌が良い。手元にあるのはリプロダクトシリーズの新作、「ピザ」だ。かつて比較的長期間、広い範囲で食された人気料理を再現したものだそうだ。パッケージには、赤や緑の具材が散りばめられた平らな円形の生地が描かれている。白っぽいソースが均等に広がっていて、それこそがピザの醍醐味で魅力を引き立てるのだと、解説されている。


開封してみると、表面はざらつきを帯び、触れると堅さが感じられる。強めに押すと、弾力が返ってくる。さっそく一口頬張る。甘く香ばしいアロマが広がり、噛むとサクサクとした食感が楽しい。例のソースは驚くほど甘い。甘味料や果物とは異なる、これまで感じたことのないリッチで濃厚な甘さは、舌の上で滑らかに溶け、至福の時間が続いた。この料理は、新しい食べ物として私の舌を満足させてくれた。


当時の料理を再現するのに、同じ食材や製法を用いることはとても難しいだろう。しかしハナホ社は、科学的にあらゆる味や香り、食感、色彩、栄養を合成し、再現する方法を開発した。これは、失われたレシピをもう一度味わうための革新的な技術である。


以前、ハナホ社のリプロダクトシリーズから発売された「スシ」が、大ヒットした事があった。でんぷん質の楕円体「サリ」と、サリに乗せて色々な味を楽しめるシート「ネタ」で構成され、その斬新なアイデアと驚くべき再現度が人々の舌を魅了した。その成功を受けて、ハナホ社はリプロダクトシリーズから独立したスシ部門を設立した。これにより、スシの開発は一気に加速する。


でんぷん質は多くの植物に含まれ、生産が容易なため、他の食品会社も独自のスシを販売し始めた。競争の激化により、専用のディップソース「ソユ」はバリエーションを増やし、サイドメニューの「ガリ」、フレーバーの「サビ」など、スシは日々研究され、進化を重ね、消費者の興味を引きつけた。


スシのムーブメントは携行食に留まらず、日常食へと広まり、イートインや専門店にも広がりを見せた。元が携行食にも関わらず、何年も修業を積んだ職人が提供する高級店も登場し、人々はその独創性と多様性に魅了され、スシは文化の一部として定着していった。それはまさに「スシ」の再発明だった。


人類の歴史の中で、数多くの料理が生まれ、消えていった。それらを情報記録だけでなく、実際の食事として残す試みは、過去への敬意であり、未来への贈り物だ。これからも、歴史に埋もれた人類の叡智である料理の研究が続くことを願う。

フードアーカイブの再現はいつでも人をワクワクさせることでしょう。その時代の文化や思想による解釈の違いで変化するレシピを味わってみたいものです。

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