答え合わせ
答えを考えていると、目の端に宙に浮いている、白いものが目に入る。見ると、それは空を飛ぶティーカップと受け皿だった。
「こんなこともできるのか」僕は感嘆する。これなら、自分で何もしなくて全部道具がやってくれそうだ。そうか、便利なスキルを持っていたからこいつ、こんなにもダメになっちゃったんだろうな。
みんなの前にそれぞれ、お茶が着地する。僕以外は、それを何の抵抗もなく手にもって、飲む。
僕も同じように飲んでみる。ちゃんとおいしい。
「あーあ、お茶もいいけどやっぱりお酒がいいなあ・・・・・・あ、わかった! お酒だ!」ジェインは言う。
「お酒?」
「毎夜、晩酌でお酒を飲むときに瓶のふたを開いたり閉じたりするでしょ? そういうことよ」
「ああ。お前は一回、全身からアルコールを抜いて素面に戻れ! 夜だけって言ってるだろうが! お酒は昼でも飲めるだろ」
「晩酌は夜しか飲めないじゃない!」ジェインは言い張る。
「晩酌が答えのわけないだろ! 晩酌と教会が関係あると思うか?」
「わからないでしょ! 晩酌のことが書いてある教会だってあるかもしれないじゃない」
「ねえよ。だいたいそんなこと言ったら、フタがあるやつ全部に言えるじゃないか」僕は指摘する。
「待って! もしかして、答えはフタなんじゃない?」メグは言う。
「考えすぎて、いよいよアホになったか」僕は言う。
「夜に、ってことは夜になったら出て来るものとか、夜しか見えないものってことでしょう?」アリスは言う。
「そうだよ、アリスの言うとおりだ」僕は言う。夜にしか出てこないものといえば、コウモリとか闇とか。コウモリは確かに、羽を開いたり、閉じたりする。しかも、夜行性だから夜だけだ。
「もしかして、コウモリじゃないか?」僕は言ってみる。
「でもコウモリの教会なんてなくない?」メグは指摘する。
「なかったっけ?」言われてみればそうかもしれない。それによく考えたらコウモリが飛ぶときに、羽をゆっくり開いたりすることなんてない。
「自分で言ったことを忘れるなんて。ぷっ、ケツを掘るとはこのことだね」
「それを言うなら、墓穴を掘るだろ」
「そうだっけ?」
「尻を掘れるわけねえだろ、バカかお前! 聞いてるこっちが恥ずかしいわ」
「教会から考えてみるのはどう? 夜に関連するものがある教会とかあるんじゃない?」アリスは言う。
夜に関連するもの、といえばぱっと思いつくのは月の教会だ。月の女神をモチーフにして作られた教会で、スタッグフォードにも一つくらいはあるだろう。
だから月は真っ先に思いついた。だが夜中に、月が開いたり閉じたりするなんて聞いたことがない。雲に隠れたり隠れなかったりすることはあるけれど。
だが少し考えてから、気づく。一日の間で、とは一言も書いていないことに。
「ああ、月か」僕は言う。そのとたん、アリスの顔がぱっと明るくなる。
「なんでそう思うの?」彼女は尋ねる。
「月には満ち欠けがある。一日の間で見たら変化はないけど、一か月を通して見れば、月が開いたり閉じたりしているように見える。そういうことじゃない?」言っていて、だんだん自信がなくなってくる。でも、これ以外に思いつかない。もしこれが違って、全然知らないドアとかフタのことを指しているんだとしたら、お手上げだ。
「きっとそれだよ! すごいリっ君。さすが天才!」ところがアリスは僕の不安とは裏腹に、大喜びで僕に抱き着いてくる。
「いや、わからないよ? 実際に行ってみて、確かめてみたら間違ってたっていう可能性もあると思うし」
「そんなことないよ。私だってその結論に」
「その結論に?」
「あ」
「アリス、とっくに答えがわかってたんだね」道理で、褒め方がわざとらしいと思ったら。
「ち、違うの。ちょっとからかってみようかなとか、そんなようなつもりで」
彼女はうろたえる。
「別に怒ってはいないからいいけど」
「リチャード君、アリスには甘いよねえ。私が同じことやったら、絶対ぶちぎれてるよね?」ジェインは言う。
「お前らとアリスを一緒にするな。アリスが天使なら、お前らは地を這いつくばる未開人だ」
「そこまで言う? さすがにちょっと傷ついたんだけど・・・・・・」珍しく、ジェインが顔をひきつらせている。
「あんたがピンチの時、誰が助けたと思ってるの? 助けてあげた私たちに対して、よくそんなこと言えるよね」メグは言う。
「なんて口の汚いこと。まるで野蛮人ね」ベティは言う。
「わ、悪かったよ。ごめん。確かに言い過ぎた」
「ベティの言う通りだよ。あんたなんてね、野良猫にたかるダニ以下だよ」メグは言う。
「悪かったよ、悪かったけど、お前もひどいな!」僕はメグに対してひとさし指を向けて、言う。「お前も僕に負けず劣らず、口が悪いよ」
「まあ、アリスやメグと一緒にいたら、たいていの罵倒には慣れるけどね。大丈夫だよ、気にしてないから。冗談、冗談」ジェインはけらけら笑いながら言う。そういえば、怒ったアリスもまあまあ怖いことを言うよな。
「リっ君、答えもわかって、仲直りもできたことだし、スタッグフォードへ行こう」アリスは言う。