ストーンヘン村
お昼ごろ、ストーンヘン村に着いた。馬車を降りてから、一旦、ちょうどよさそうな木陰でお昼を食べる。お昼を食べ終えてから、ボルドマン夫妻を探しに行った。
一番最初に会った村人に夫妻の居場所を聞くと、教えてもらえた。案内されたとおりに行くと、小さな家に行きつく。
鶏が庭にあるケージのなかでクックッと鳴いている。しかし人の姿はない。
僕は家のドアをノックしてみる。すると、男性がドアを開けてくれる。
「どちら様ですか?」男性は尋ねる。きっと彼が、ボルドマン氏だろう。
「僕はリチャード・グールドといいます。アレン・アドラーの財宝の手がかりを聞きに来ました」
人違いではありませんか、などと言われたらどうしよう。間違っていたら、めちゃくちゃ笑われるかもしれない。
わずか数秒の間だったかもしれないが、僕には数分にも思えた。それから男性が口を開く。
「あなたで二人目ですね。あなたより先に来た二人組がおりますが、まあ、頑張れば追いつき、追い越せるかもしれませんな」
やはり、シンプソンの部下がもうすでにこちらへ来ていたようだ。人の成果を奪い取ったシンプソンに対して改めて怒りが湧いてくる。だが一方で、僕の探り当てた答えが正解だったことがわかって、誇らしさも感じる。
「前回来た二人はだいぶ、荒々しい方でしてな。手がかりを教えたあとで我々を殺そうとしてきましたな。もっとも、返り討ちにしてやりましたが。あなたたちも、変な気は起こさないようにしたほうがよろしいですよ」
「大丈夫です、やりません」僕は言う。それにしても、なぜ彼の部下たちはボルドマン夫妻を襲ったのだろう? 競合者にヒントを与えないよう、口を封じるつもりだったのか。
「ではアレン・アドラーの伝言を伝えます」ボルドマン氏は言う。「スタッグフォードにある教会へ行きなさい。夜中になると、ゆっくり開いたり閉じたりするさまを見ることができるもの、それが目印だ。以上です」
「ゆっくり開いたり、ゆっくり閉じたりするもの・・・・・・」そんなもの、あるはずはない。おそらく、なぞなぞの一種だろう。そうあっさりと財宝のありかを教えてくれるわけではないらしい。
「よろしいですかな?」彼は尋ねる。
「あ、大丈夫です。教えてくださって、ありがとうございました」
「よろしければこれをどうぞ。ロドン町の赤ワインです」アリスが贈り物を差し出す。
「おお、これは。こちらからは何も差し上げられませんが、いいんですか?」
「ええ、感謝の印と受け取ってください」アリスは言う。
ボルドマン夫妻はある意味、このなぞなぞにもっとも深く接してきた存在。もうすでに答えがわかっていてもおかしくない。ここで親切にしておけば、口が軽くなるかも。
「あ、お酒!」ジェインが物欲しそうな顔で見つめる。
「お前のじゃない、アル中め」僕は彼女を手で遮る。「それで、ボルドマンさん。このなぞなぞの意味って」
「残念ながら、アレンとの約束でそれは教えてはならないことになっているのです。もっとも、なぞなぞのほうはさほど難しくもありませんから、大丈夫ですよ」彼はそう言って、励ましてくれる。もくろみは失敗だが、恨むことはできない。アレンの死後、六十年ちかく経った今でも、約束を守り続ける姿勢には、むしろ尊敬すら感じる。
「ありがとうございます。では、これで失礼します」僕は言って、四人と一緒に辞去する。
「馬車は待たせておいてあるんだよね?」ジェインが尋ねる。
「うん、さっき降りた場所で待ってもらってる」僕は答える。
歩いているとやがて、馬車のあるところまで来る。馬車の周りに、何人かの人間が集まっている。一人は馭者だとして、他の人たちは何なのか。
さらに近づいてみると、馭者がそこにいる人たちの一人に捕まっているのがわかった。さらに彼を取り囲んでいる人たちのうち一人は、シンプソンの拠点で見たことのある顔だった。
「動くな、お前ら! 動いたらこの馭者の命はない!」
「お前ら、シンプソンの部下か?」僕は尋ねる。
「ボスは一度だけお前に慈悲をくれたが、二度目はない。もし手がかりを追ってくるようだったら、始末しろとのことだ」
「今、なんて言ったの? リっ君を始末?」アリスが前に出ようとする。
「だめだめ! 危ないよ!」僕は慌てて彼女を抑える。
「そうだぜ、動くとこいつの命はねえぞ」シンプソンの部下は言う。
「助けてくれ! 頼む!」馭者は悲鳴じみた声をあげる。
「リチャード、馭者の命とお前の命を交換だ。こっちに来い」シンプソンの部下は言った。