表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

拾われた理由

「あ、僕はリチャード・グールド。一応、今この場で彼女の婚約者になったわけだけど、でも僕でいいのかなって」


「え、今ので本当に受け入れたの!」ジェインが、びっくりしたように言う。


「え?」やっぱ、おかしいよね。


「なに言ってるの、逆にリチャード以外なんて考えられないよ!」しかしアリスは何も気にしていないようだ。しかも勢いが強すぎて、ちょっと怖い。


「でも、僕は仕事もないし、スキルも弱いし。それは君も知ってるだろ?」


「お金のことを心配してたの? それなら大丈夫。私たちでご先祖様の財宝を手に入れればいいんだよ」アリスは言う。


「ご先祖様・・・・・・ってことは、やっぱり君はアレン・アドラーの子孫?」


「うん、私だけじゃなくて、みんなそう。異母姉妹なの。全員母親は違うけど、一応血はつながってる」


 つまり、彼女の父親は四人の女性と子供を作ったということか。多すぎるしヤバすぎる、と本人たちの前では言わない。あまり触れると失礼だろう。


「姉妹そろって狂ってるのは、血筋ってことね。アレンの頃からもうすでにイカれてるし」メグは言う。


「いや、言い方! 一応、あなたたちのご先祖様でしょ」


 アレン・アドラー。80年前まで生きていたと言われる泥棒だ。偉大なるアレンとも呼ばれている。


 王侯貴族から金銀財宝を盗み続けて、それでもなお一生捕まらなかったという伝説の男。彼が集めたとされる財宝の半分はいまだ売りさばかれておらず、宝物庫に眠ったままだといわれている。


 彼のすごいところは、普通なら自分の財産を子孫に託すところでそうしなかったところだ。「私の財宝は宝物庫を見つけられた人間に託す」と彼の墓に刻んである。はっきりいって、偏屈だと思う。さらにいえば、盗品なので厳密には彼のものではない。


「私たちはずっと、先祖の遺した財宝を見つけるために動いてきた。アリスがシンプソンのところに潜入したのもその一環。アレン・アドラーの専門家がいると聞いて、潜入させたの」ジェインは言う。


 つまり、アリスはスパイだったというわけだ。彼女もまた、シンプソンのように僕の研究成果を狙っていたのだ。だが彼女は資料を盗むことはなかった。代わりに僕をここに連れてきた。


「もしかして、僕に財宝探しに協力してほしいってこと?」僕はジェインの言葉を遮って、言う。


「お、さすがぁ。察しが早いねえ。そういう人、私は好きだよ」ジェインは言う。


「は?」そこでアリスの、怒りに満ちた低い声が聞こえる。


「どうしたの?」僕はアリスのほうを見る。


「ジェイン。彼のことが好きだから、何だっていうの? リっ君は私のこと好きなんだよ? 彼があんたのことなんか、気に入るわけないじゃん。ねえ、リっ君。好きなのは私だよね?」彼女は僕の方を見る。


「う、うん!」僕は首を縦に何回も振る。


「アリス、ごめんって。怒んないでよ。私、彼みたいななよなよした人はタイプじゃないから大丈夫」ジェインは言う。


「私のリっ君をバカにしないで!」アリスは怒鳴る。好きじゃなくても怒るのか。では、どうしたら正解なのか。


「あははー」しかしジェインは蛙のツラに水といった様子で気にするところがない。それから、彼女は僕のほうを見る。「で、どうするのリチャード君。協力するつもりはある? 当然、報酬は山分けするし、悪いようにはしないけど」


「当然、リっ君も行くよね?」アリスは言う。


「協力するのは別に構わない。資料はないけど、あれの内容は全部、頭に入ってるから問題ないよ。ただ、本当に行くの? シンプソンは、財宝をかすめとろうとしているやつらがいると分かっていて何もしないようなやつじゃない」僕は言う。


「大丈夫、いざとなったら誰かを盾にしてでも逃げるから!」ジェインは言う。


「おい、最低だな」僕は言う。


「大丈夫、私は死なないから」メグは言う。


「なるほど、ってお前だけ無事でも意味ないだろ!」こいつもまあまあ、クズだな。


「なに言ってるの、私たちほどの人材が殺されるわけないでしょう? スカウトされるに決まっているわ」ベティは言う。


「そんなわけねえだろ。本当にアホじゃねえか」


「心配しないで。あなたに危害を加えようとするやつは、全員皆殺しにするから」アリスは言う。


「えっと、無茶は、しないでね?」アリスは、この中で一番怖いかもしれない。


 大丈夫か、このパーティ。まともなやつが一人もいないんだけど。


 いや、よく考えたらそもそもこれはパーティなのか? 勝手に冒険者だと思っていたけれど、アレンと同じ泥棒かもしれない。


「ていうか、アリスたちはその、どういうあれなの? もしかして、盗賊とか?」


「初対面で人を泥棒呼ばわりだなんて、あなた失礼じゃなくて? 私たちは冒険者よ。ちゃんとギルドにも登録してあってよ」ベティは僕を諫める。


「あ、ごめん。そうだよね。ごめん、アリス」僕は謝る。今のは、さすがによくなかった。


「大丈夫だよ」僕がしょげていると、アリスがそう言う。「冒険者って言ってるけど、やってることはほぼ泥棒だから」アリスは言う。


 じゃあ、泥棒か。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ