月の教会
アリスが月だと言っているなら間違いないだろう。そういうわけで、スタッグフォードに行くことになる。
スタッグフォードに着いたあと、一番最初に会った女性に「この辺に月の教会はあるか」と尋ねてみる。
「ないね」女性はそう答える。
「え、ない?」
「ないよ。もういいかい? あたしは急いでるんだよ」女性は言う。
「あ、お引止めしてすみませんでした」僕は女性を解放する。女性ははや足でスタスタと歩き去っていった。
「まさか、間違ってた?」
「もしかして、知らないだけかも」アリスは言う。「有名な教会だとは限らないし、有名じゃないほうがアレンにとっては都合がよかったはず」
アリスの言葉には説得力があった。それで、手分けして聞き込みをすることになった。
やがて、アリスが月の教会を知っているという人を見つけて、居場所を特定することができた。聞けばそれは、町はずれにある古い教会だという。道理で知らない人が多いはずだ。
アリスが聞いてきた情報を元に、そこまで歩いて行く。だが、すぐに後悔することになる。歩きだとえらく時間のかかるところにあって、そこまで行く頃には足が筋肉痛になりかけていた。
スタッグフォードにある月の教会は、ぼろぼろとはいかないまでもさびれていた。灰色の壁につたがはっていて、周囲は草がぼうぼうに生えていて通り道が消えかかっていた。
あたりに人家などなく、なぜこんなところに教会があるのか、首をかしげたくなるほどだった。そして、隠し場所としてはこれほど適したところもないだろうとも思えた。
朽ちたドアを開けて中に入ると、同じように朽ちた長椅子が中にずらっと並んでいるのが見える。上のステンドグラスから投げかけられている白い光が、教壇を白く染めている。
「手がかりはどこにあるんだ・・・・・・?」僕はあたりを見回しながら、言う。
教壇のそばに行くと、聖書が置いてある。それに僕は違和感を覚える。でも何がおかしいのか、わからない。
「私、わかっちゃったかも」ジェインは言って、聖書を開く。すると、一枚の紙が本に挟んであるのが見つかる。それにはこう書いてあった。
「おめでとう。これを発見した優秀な君へ伝言だ。アッシャー家の館へ行きなさい。財宝は彼と共に土の下で待っている」
「優秀だって? 見た?」ジェインは言う。
「よくこんなに早く、見つけたな」僕は言う。
「これだけ埃をかぶってなかったから、変だと思ったの」ジェインは言う。そう、違和感の正体は埃だったのだ。古い教会にもかかわらず、聖書だけ埃をかぶっていなかった。
「さすがだなリチャード。あと少し早ければ俺たちよりも早く来られていたかもしれないな」その時、聞き覚えのある男の声が聞こえる。
僕は声のしたほうを見る。入口のほうに、シンプソンともう一人、男が立っている。彼の名前はフランク・クラーク。
「いつの間にか、リズを仲間につけたのか。急に辞めたかと思えば、そういうことだったか」彼は言う。
フランクがここにいる意味。彼のスキルは【遮断】。あらゆるものを遮断する結界を張るというもの。
「早くここから出て! 早く!」僕は四人に向かって叫ぶ。そして入口に向かって突進する。
「【強化】!」入口に駆け寄っていきながら、自分の能力を強化する。走ってきた勢いをそのままに、全力でシンプソンに向かって蹴りを放つ。
しかしシンプソンもフランクも、僕の蹴りをよけようとはしない。くらわないと分かっているからだ。実際、僕の蹴りは不可視の障壁によって阻まれる。
「どうしたの? 何があったの?」ジェインが尋ねる。
「スキルでこの中に閉じ込められた! これは罠だったんだ。待ち伏せされていたんだよ」
「リチャード。フランクのスキルは優秀でね。通すものと通さないものを指定できる。音だったり、空気だったり、あるいは落石だったり、ね」
「【獣化】!」アリスがスキルを発動する。僕は彼女に【強化】をかける。彼女はフェンリルの力が宿った脚力で蹴りを放つ。だが、それでも障壁は割れない。
「そのまま諦めてくれたなら、生かしておいてやれたのだがね。だが私の宝をかすめ取ろうとするなら、そういうわけにもいかない。さらばだ」
シンプソンは踵を返して、歩き去っていく。
「どいて! 【接着】」メグがスキルを発動して、長椅子を飛ばす。たぶんシンプソンと長椅子の間にスキルを発動させたのだろう。長椅子は入口に向かって勢いよく飛んで行く。しかし障壁にぶつかったところで止まって、そのまま動かなくなる。
シンプソンたちが遠く離れたところまで行ってしまう。その時、まばゆい光が四方八方からやってきて、世界が真っ白になる。それとほぼ同時に、耳をたたき割るような爆発音が聞こえてくる。そして爆炎が僕らを飲み込んだ。




