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閑話1 ヒーローになれなかった男の最期

 少し時間が遡り、第2話あたりのときの話です。

 えー、これからは日曜日には絶対に投稿&不定期に度々投稿のスタイルでいこうと思います!!

♢♢♢ラファール視点♢♢♢


 俺はラファール。28歳だが、見た目が()()老けているためよくおじさんと呼ばれてしまう。まあ俺も心は広い。だからいつも言いたいことをぐっと堪えて人知れず心を痛めるのさ。


 田舎で生まれ、両親共に犬の獣人だ。俺は生まれつき目つきが悪い。誰に似たんだかなあ? 口が悪いのも加わるせいで、いつもガキに怖がられる。本当はもっと仲良くしたいんだがなあ。どうしても口が悪いのは治せねえ。目つきは……どうしようもねぇだろーがよ。

 他にも、犯罪者と疑われたり闇組織の構成員から仲間と思われて薬を無理やり売りつけられたりと、うんざりだ。

 だからなのか……俺は正義のヒーローに憧れた。まあ小せえ頃の夢さ。


 目つき悪いせいで起こった悲劇を例に挙げるとしたらそうだな……6歳の頃だったかな。近所の子供と遊んでいた時にちょっとした喧嘩をした。近所の奴が自分で壊したおもちゃを、俺が壊したと親に泣きつきやがったんだ。さっきも言ったが俺は目つきが悪い。先入観ってやつかな、誰も俺のことを信じてくれねぇ。親でさえもな。こんなこと、しょっちゅうあることだしもう慣れたさ。ただ、あの頃はまだ慣れていなかったというか、親のことをまだ信じてて……すごく傷ついたさ。

 だから、いつか立派な正義のヒーローになって、誰も俺が悪いなんて言わせなくしてやろうと思ったんだ。


 成長して、自分がどれだけ無謀な夢を抱いていたか痛感した。

 ……ヒーローみたいになるには、強大な力が必要となる。俺のランクはCだ。まあ普通の人よりは強いが……すごく強いわけでもないし、自慢できるほどでもない。

 憧れていた正義のヒーローなんかには到底とどかない。


 それでもまだ、諦めきれず、獣人王国の衛兵として働くことになった。衛兵になれば、悪い奴をとっちめるヒーローの真似事くらいできると思ったからだ。

 だが……見張りとして門に立てばなぜか不審者と思われ通報され、見回りをしていたらガキが急に泣き出し親が詰所に文句を言いに来る。

 もう仕事するなと上司に言われ、衛兵なのになぜか仕事場の掃除やら雑用をやらされる毎日……。断る? できるわけないじゃないか。俺はCランク。上の人の一言でどうとでもなる存在なんだから大人しく従うのが一番。この仕事だってれっきとした人助けだ。そう思えば幾分かマシに思えた。

 だがまあ、あえて言うならば……上司よクソ喰らえ!!



♢♢♢



 面倒な仕事を押し付けられてしまった。口外したら始末されてしまうような危ない仕事。

 なんでも、病弱な第三王女を病死したことにして魔境の森に捨てるらしい。そして、俺の仕事とは魔境の森に王女を連れて行くこと。

 それは実質、幼子を殺すようなものじゃないか……‼

 俺にはそんなことできない……ヒーローになりたかったのに、この仕事はまるで悪役のやることではないか!!

 だが、誰かがやらなければこの幼子はもっと酷い目に合わされるかもしれない。ならせめて、少しの良心がある俺がやるべきなのかもしれない。

 まあ俺に選択の余地は残されていない。

 親が……人質にとられている。あんな親でも、俺を育ててくれたんだ。見捨てることは出来ない……。

 俺は……どうすればいいんだ?


 直接的には助けることが出来ない。だが間接的なら……生きる術くらいなら教えてやれる。

 残された時間全てをかけて魔境の森の情報をかき集める。一番魔物のランクが低いのは南側……だが南側でも魔物の平均ランクはAだ。他はSランクだらけだからまだいい方だが……幼子が生きるには絶望的な環境だ。

 長居させては駄目だ。確実に死んでしまう。

 脱出させる方法を考えなくては!



♢♢♢



――ちゅっ


「はぁっ!?」

「えへへ、お礼ー!」

 そんな……脱出方法さえ考えられなかったのに……。こんな俺にお礼だと?

 ……ん? これがお礼……? まあその話は置いておいて。


 俺は「夕暮れになったら見える青い星がある方向に歩けば出られる」と言った。だが、この魔境の森の木々は……それを防ぐだろう。だから、俺の伝えた方法では()()()魔境の森から出ることは出来ない。俺は、脱出する方法を見つけることが出来なかった……。

 すぐにバレてしまう嘘だとしても、絶望させたくなかった。出来なかった。


 できることならこのままパープを抱えて、魔境の森から出たい。だが、監視がついていることが気配で分かる。俺がパープと出ようとする素振りを見せた時点で、俺はパープ諸共始末されるだろう。

 すまない、すまない…………。

 俺だけが……この上司から渡された魔境の森専用のコンパスを使って生き残ってしまう。所詮、正義のヒーローを目指した……いや、憧れただけの男は真似事さえもできないんだ。


 馬車に乗る。俺は、罪悪感に押しつぶされそうで振り返ることが出来なかった。



♢♢♢暗殺者視点♢♢♢



 俺様は凄腕の暗殺者。

 依頼人の名前さえ知らされていないが……俺様は下っ端じゃない‼ なんといっても俺様はAランクなんだ! こんな高ランクの暗殺者が死ねば国の、いや、世界の損失‼ だから捨て駒では断じてない‼


 依頼内容は衛兵の男と幼女の暗殺。超々極秘の任務だ。まあいつもの任務も極秘だが、これは特に極秘。バレたら俺様でも殺されるレベルらしい。

 なぜこんな簡単な依頼が極秘なんだ? ……まあ平民の俺様は知らなくていい話か。どうせ貴族共の陰謀かなんかだろ。

 まあ、魔境の森に入るのなら俺様レベルの高ランクでなきゃ()()()()()()()。世間ではあまり知られていないが、俺様は知ってるぜ‼ なぜなら俺様が最強で凄いからだ‼

 なぜ高ランクでなくては出られないか? よく分からないが、魔境の森の木々に強さを認められないと枝葉に遮られて出られない仕組みとなっている。最低でもAランクは必要。

 だから俺様がこの依頼を受けることになったのだ‼



【名前】パープ

【種族】兎獣人

【年齢】3

【ランク】E



【名前】ラファール

【種族】犬獣人

【年齢】28

【ランク】C



 簡易的な鑑定をすることができる魔道具で対象者を視てみたが……ランク低いな。

 俺様が手を出すまでもなくこいつらは確実に森から出られずに死ぬ。それか魔物の餌になって死ぬか……。まじで俺様いるかあ? ま、いいか。雑魚二人をひねり殺すだけで大金が手に入るんだからな。



 どっちから殺そうか。

 幼女の方は……可愛い顔してるな。金髪に紫水晶の瞳。庇護欲がそそられそうな愛らしい兎の耳。暗器で切りつければさぞ良い声で鳴くだろう。俺様は美味しいものを最後に残す派だからな、まずはおっさんから殺そう。

 俺様は【追跡】スキルを持っているから見逃すことはない。後で鳴かせてあげるから、待っててね幼女ちゃぁ~ん。



 ということで、さっさと死んでねおっさん。俺様みたいな凄腕暗殺者に殺されるのなら本望だろ?

 物音一つたてずに木から飛び降り、馬車に乗っているおっさんの首めがけて短剣を振り下ろす。


――ガキィンッ


「――なっ」

「うぉっなんだお前!?」

 おっさんが突然、目に見えない速度で動き、俺様の短剣を受け止めた。

 嘘だろ……俺様はAランク。しかも暗殺者だから、かなり速く動ける。今切りかかった速度は常人では目で捉えることすら出来ないはずだ。

 それなのに、奴は鞘に収まっていた剣を取り出し、()()で受け止めただと……?


 なにか嫌な予感がして飛び下がり様子をうかがう。おっさんは本当に驚いているようで、ぎこちない動作で剣を構える。

 ……まぐれか?

 さっきの俺様の攻撃により馬は驚き暴れ回っている。こんなに揺れていれば素人では立っているのがやっとのはず。俺様は特殊な訓練を受けているから問題ない。俺様の方が圧倒的に有利!


「お前は……俺の命を奪いに来たのか?」

「そうだ」


 おっさんは一瞬目を見開くが、覚悟を決めたように剣を構えなおす。

 おっさんはCランク。俺様はAランク。勝敗は目に見えている‼


 さぁ、死ね――


「あ?」


 視界が反転する。首からは止めどなく血が溢れ出る。いつの間に切られた!? 俺様でも見えなかっただと!?

 おっさんの混乱した顔が目に映る。

「は、はぁ? な、何が起きたんだ?」

 それは……俺様のセリフ…………だ。なぜ俺様がCランク如きに殺されるんだ? そうだ、きっと何か違いだ。それは絶対にありえないと分かっている。分かっているが……信じられない。なぜ俺が負けたのか知ることが出来なければ、死んでも死にきれない!

 原因を探るべく魔道具を使って再び簡易鑑定する。



【名前】ラファール

【種族】犬獣人

【年齢】28

【ランク】S



 ランクが急激に上がった……? なぜだ? 【隠蔽】スキルか? いや違う、【隠蔽】スキルだったのなら俺様は気づけたはずだ。どういうことなんだよ……。

 チ、クショウ……。先に幼女の方を殺っとけば、良かった、、、




――――名もなき暗殺者と共にヒーローになれなかった男は死んだ。それと同時に、ヒーローが新たに誕生した。



 正義のヒーロー、ラファール爆☆誕!


 ラファールおじさんに何が起きたかは……また今度です!

 余談ですけど、もしも暗殺者がパープを先に殺そうとしていたら……結果は変わらず暗殺者は死にます。彼は2人の命を狙った時点で死亡確定だったのです……哀れ。

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