第6話 孤高の銀狼王
毎週日曜日に投稿できるよう、頑張ります!
我は伝説の魔物と呼ばれる銀狼王。銀狼王は強い肉体を持って生まれる定めなのか、生殖能力が弱かったため個体数が年々激減していった。そして、ついには親までも数百年前に命を散らし、我1人となってしまった。
もうこの世界に我以外の銀狼王はいない。そう思うと少しだけ寂しくなった。
我はまだ数百年しか生きておらず幼体だが、親譲りで強い。魔境の森の四天王を除けば敵は居ない。同胞を従え、魔境の森南部を統べていた。もう我は1人ではない。同胞が……仲間がいる。我には帰るべき場所があるのだ。
我が統べるようになってからは比較的平和だった。数年前までは……。
数年前から同胞が何匹も失踪するようになった。……おそらく死んだのだろう。何者かに殺されたのだ。この世は弱肉強食。その理は誰にも破れない、我も破る気は毛頭ない。弱い者は淘汰される……だから黙認しているつもりだった。
だが、これほどまで多くの同胞を殺され黙認するなど我には出来ん‼ ならば弱肉強食の理に則り、強者である我が敵に引導を渡してやる。
我が同胞の合図を聞き、急ぎ助けに行けばそこには脆弱な生物がいた。
強靭な肉体を持つ我が同胞がこの年端もいかない童に殺されただと…………? 始めは信じられなかったが、”目”を見て確信した。こいつは脆弱な生物の皮を被った”バケモノ”だと。
不思議なオーラを纏い、絶対に生き残るという強い意志のこもった瞳。澄んだ瞳に少しだけ惹かれる。
だが、瞬時に惹かれる心を否定する。相手は敵。それも同胞を殺した者だ。逃せば強大な力をつけ、同胞の犠牲は増えるだろう。確実にここで仕留める。絶対に逃がしはしない。
なんなんだ。なんなんだこいつは――⁉
我は着々と追い詰めていた。あと一撃で仕留められるところで、急に敵の気配が変わった。
生き残るという意思のこもっているところに変わりはない。だが、そこに我を必ず殺すという殺気が加わった。まだ生まれてから数年しか経っていない者が、この凄まじい殺気を放てるのか? と背筋が凍った。
こいつは出せるすべての力を振り絞って攻撃してくるはずだ。我も全力で応じなければ……死ぬ。
生まれて初めて抱いた恐怖を振り払うように吠える。
「はぁぁぁぁあああ!!!!」
「ガァァァァアアア!!!!」
変わったのは意思だけじゃなかった。動きまでも変わっていたのだ。
先ほどまでは少し速いと思う程度だった動きが、我も目で追えないほどの速さとなった。
一瞬、我の左目に敵――パープが映った。パープの瞳には植物の葉のような模様ができていた。無かったはずなのに、なぜだ? 瞳の瞳孔がが変異するなど聞いたことがない。理解不能――だが、信じられないほど美しい。
パープの姿を最後に、我が左目は何も映さなくなった。そう、我はパープの攻撃により左目を失ったのだ。
我の左目は…………もう一生光を映すことはできないのか?
驚きと恐怖で一瞬我を失う。
だが、一瞬で恐怖と驚きを心の奥底に沈める。まだ負けていない。パープは先ほどの攻撃で力尽きたのか、動けずにいる。
好機‼
だが油断はしない。先ほどのようにありえない速さで動かれてしまえば、ただの攻撃は避けられてしまう。ならば、魔力を衝撃波として広範囲攻撃をするまでだ。
パープはあっけなく衝撃波に弾き飛ばされ、”深淵の川”の中に吸い込まれる。
あの川に飲み込まれればどんな生物であっても等しく死がおくられる。確実にパープは死ぬだろう。
あの美しい瞳を持つパープが死ぬのは少し惜しい……が、同胞を殺し、我が左目を奪ったお前を生かしておくわけにはいかぬ。将来魔物の脅威となるであろう芽は潰しておくべきだ。
「我の勝ちだ」
さらばだ、パープ。お前と会うことは二度とないだろう……。だが、もしまた会えるのなら――――
「次も我が勝つ」
♢♢♢
――ザバッ
「や、やっと川から出られたぁ」
高い位置にあったはずの太陽はとっくに沈み、辺りは暗くなっている。
ソリテールに吹き飛ばされ、河に落ちてから……私は意識を失いそうになりながらも頑張って目を開き、集中力を高め、どちらが上か下かを見極めて一生懸命に息を吸った。
辺りが暗くなった激流の河の中は上下さえも見失わせる。完全に辺りが暗くなりきる前に、なんとか【暗視】スキルを手に入れられたようで、ギリギリ上下だけは見極めることが出来た。
冷たい水と激流は容赦なく体力を奪っていく。
だから魔力が少し回復したらすぐに回復魔法を使って……また魔力が少し回復したら回復魔法を使って……。とにかくそれを繰り返した。
無理に河から出ようとはしなかった。足掻いたところでどうせこの激流ではまともに移動できない。体力を無駄に消費するだけだと判断したから、じっと激流がおさまるのを待った。
そして……やっっっと流れがゆっくりになった。
あと少し遅かったら……考えただけで恐ろしい。
火をおこして体を乾かし、冷えた体温を温めないと……。
「――【極小炎】――」
そこら辺に落ちている木の枝や葉を集め、燃やす。もちろん、河の近くではなく少し離れたところ。今、魔物に襲われたらひとたまりもないから、火も最小限にして隠れながらね?
そういえば、回復魔法は体が少しだけ温まるんだよね。だから私は低体温症にならずに済んだ。
「――【異空間収納】――」
無属性魔法の【異空間収納】を使って、中から銀狼の肉を取り出す。
異世界でおなじみのアイテムボックス的なものね。もちろん、時間は止まってくれます! これでお肉とかも腐らせずに保存することができる。
銀狼の肉を火で炙りながら考える。
ここはどこだろう? 何時間も川で流されてたから、家からかなりの距離離れてしまったはず。
良く言えば、ソリテールから見つかることはほぼ無いってこと。悪く言えば、魔境の森の”南側”から離れてしまったこと。
魔境の森の南側は魔物が一番弱い。でも……南側は一番弱い魔物が居るはずのに、Aランクの魔物がうじゃうじゃ居た。じゃあ南以外の場所は? どれだけ強大な魔物が居るのだろう?
ラファールおじさんによると、魔境の森には魔物の四天王がいる。
南側がさっき戦った銀狼王、ソリテール。主に狼がたくさん生息している。四天王の中でも最弱……らしい。あれで最弱なら他の四天王はどれだけ強いんだろう?
東側は牛頭王。オークやゴブリンとかもたくさん生息している。
西側は妖花女王。美しい美貌と香りで人を騙し、喰らう恐ろしい魔物。植物型のモンスターがたくさんいるから、気を付けて過ごさないと気づかないうちに敵の陣地に踏み込んじゃうかも。気が休まないだろうな……。
北側は死霊王。不死者がうじゃうじゃいるらしい。不死者って攻撃してもすぐに死なないんだよねぇ。腐乱臭とか臭そうだし、嫌だなぁ。
あとは……中央に強大な何かがいるらしい。ただ、そこの奥深くに踏み入れた者は誰も帰らなかったから定かではない。少しだけ踏み入れた者はこう語る。『何か……何かとてつもない力を持つバケモノが居た』……と。
え、怖すぎ。ここだけは嫌だっ!! でも……もしここが中央なら、さすがに雰囲気がもっとおどろおどろしいはずだから、きっと違うね。
ここはむしろ……居心地がいいというか、なんか安心するんだよね。おかしいなぁ……。
ま、とりあえず今は体力と魔力を回復させなくちゃね!!
今日はもう木の上で身を隠しながら休んで、明日散策しよう。
【名前】パープ(・ステラ) ♀
【種族】兎獣人
【年齢】6
【魔力値】5/160◁10up
【体力値】10/100◁20up
【スキル】
鑑定Lv1 火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv2◁1up 地魔法Lv2 光魔法Lv2 闇魔法Lv1 無属性魔法Lv1 体術Lv1 暗視Lv1◁NEW
【ユニークスキル】
なし
【称号】
??? 転生者 王族 捨て子 神童 狼スレイヤー
【総合戦闘力】420◁60up
【ランク】C?
――???のため、ステータスが???