第59話 お別れ
「私、これから修行しよーと思う」
「「えっ?」」
帝都にあるシーちゃんの別荘で開かれた数回目のお茶会で、ウィンが唐突にそう告げた。
さっきまで全然違う話してたよね!? ウィンがクッキーにお肉をいつも入れて食べてるって話してて、お腹壊すから止めた方が良いと全力でシーちゃんと止めてたはずが……。
「そんな急にどうして……まだ遊び足りないよ〜」
「止めないでパプたん。私はね、エトワール大武道大会とダンジョンで痛感したんだ。自分は……弱いって!!」
そんなことはな……うぅ、否定できないかも。
「私は……皆と学園に通いたいの!!」
この世界にはエトワール学園というものがある。
14歳から18歳までの4年間、選ばれた者が世界からの支援を受け、あらゆる最高の教育を施される場。
エトワール大武道大会でAランク以上だった者は問答無用で入学することになり、他に通いたい者は試験がある。当然、試験は最難関。狭き門である。
この学園は世界の子供たちにとって憧れの場であると同時に、最高の肩書となる。
この学園を卒業したとなれば、もう仕事やお金に困ることもない。
私とシーちゃんはSランクだから、ここに通うことになる。……ウィンのランクはE。つまり、ほんの一握りしか受からない試験を通過しないと学園に行けないのだ。
ウィンはハンマーを手に入れたことでSランク魔物と戦えるレベルにはなった。
だけど、ウィンは精霊なのに魔法は点でダメ。
頼みの体術はそこそこ出来ていても、武具のスキルが無くては土台が無いのに等しい。
そう……率直に言うと基礎がなってない。
人間は魔物と違って頭を使う。搦め手だって使うし、ウィンの方が強くたって基礎が固まってなければ全然負け得る。
このままでは一向に成長出来ない。
「私は強くなりたい。だから、魔境の森で修行しようと思う!!」
「へっ!?」
私の故郷じゃんか……。
「魔境の森なら任せてよ!! そこに居たことあるからね、武術だって私が教えてあげるよ!」
「ええ。私もハンマーの心得ならあるから、教えられるわ」
「だめ。二人は来ないで」
「なんでよっ!!」
「二人がいたらきっと甘えちゃう。私はもっと自分を追い込んで、本当の意味での強者になりたい」
「ウィン……」
「……」
強い覚悟の込もった瞳。こりゃ何言っても動じないね。
「分かった、そこまで言うならついていかない。ウィンが強くなって帰ってくることを信じて待つよ」
「ありがとう」
少ししんみりとした空気が流れる。
まだ出会って間もないのにもうお別れか……。ウィン(お笑い担当)が居なくなると思うと寂しくなるな。
学園が始まるまで1年と数ヶ月。お別れは長くてもそのくらいだ。頑張れ私! 耐えるんだ!
「って、そんなわけで……バイバイッ!!」
机の上にあったマカロンやらクッキーやらを全て口に詰め込み、ウィンは塀を飛び越えて走り去っていった。
「「……」」
あ、嵐が去っていった……??
お別れ会とかしてみたかったのになぁ……もう行っちゃったししょうがないか。
はっ、ウィンが居ないってことは、シーちゃんとウィンの関係についても聞けるってこと!?
ずっと気になってたし聞いてみよう!!
「そういえばシーちゃん、ウィンとはどういう関係なの? シーちゃんはウィンを知ってるみたいだったけど、ウィンはそうじゃないみたいだし……もしかしてウィンは記憶喪失とかなの……?」
「……ごめんねパープちゃん。今は話せないわ」
「あ、言いづらいこと聞いちゃってごめんね……」
そして再び静寂が訪れた、と。
いや気まずいって!! ごめん、そんな急にデリケートなとこに踏み込んじゃって! 無神経だったよね!?
ど、どうしよう。こうなったら話題をそらして気まずい空気を吹っ飛ばさなきゃ。
「あ、そうそう! これから新装備を受け取りにバナリテっていう所に行くんだけど、一緒に行かない?」
帝都に行く前にジェロンに頼んでおいたんだよね。
これまでに集めてきた高ランクの魔物の素材! これをふんだんに使った装備ならもう……高性能に決まってる! かなり時間が経ったからそろそろできてるはず。
「いいわね、行きましょう。確かバナリテはダンジョンで有名な場所よね……?」
「そうなの! シーちゃんと行った所ほどではないけど、高難易度ダンジョンがあるよ!」
シーちゃんとまた一緒にダンジョンに行きたいな~。今度はしっかり私がリードするんだから!
「でも……三聖武闘祭に出場しなきゃだから、装備を受け取ったらすぐに出発しないといけないわね。ダンジョンはまた今度ね」
「ふわぁぁい……」
くっそぉ……。三聖武闘祭は今回はステラ王国で開催される。隣国ではあるけど、魔境の森のせいで大幅に迂回しないといけないから時間がかかるんだよね……。盲点だったわ。




