第55話 追憶の澱②
「ふんふふーん♪ お散歩お散歩~」
ウィンは呑気に鼻歌を歌いながら先頭を歩く。え、こんな緊張感無くて良いの? ここダンジョンだよ?
まあ、それにしても魔物が全然居ないな。かれこれ数時間歩いてるけど、まだ魔物に一度も遭遇していない。気配もしない……というより魔物が息を潜めているような感じ?
「――、待ってウィン‼」
何か強大な気配がすぐその先からする。慌てて制止をしたけど……遅かったみたい。
「グワァァァアアアア‼」
「わあ⁉」
巨大なトカゲのような魔物が雄たけびを上げながら地面から飛び出してきた。
しまった、敵が気配を殺していたから気づくのに遅れた!
不意打ちだったにも関わらずウィンは颯爽と避け、手に持っていた【氷の剣】で魔物を斬りつける……が、かすり傷一つつけることも出来ず、それどころか刀身が音を立てて折れた。
「私の最強剣が~」
気の抜けるようなことを言いつつも、ウィンは全ての攻撃を見ずとも避ける。
……ウィンってさ、ポテンシャルはずば抜けて凄くね? 剣術は点でダメだけど、身のこなしは一流だよね。絶対武器を変えた方が良いと思うんだが……。
って、ダメダメ、今は戦闘中! ウィンの加勢しないと!
「――【陽焔裂爪】――‼」
渾身の一撃を食らわすと魔物は力尽き倒れる。
「パプたん今の技何⁉ すっごいかっこよかった‼」
えへへ、そうかな?
ってそうじゃなくて! 今はウィンの戦闘スタイルを変えていかなきゃ!
このままあのへなちょこ剣術で戦われたら大変なことになるかもしれないからね。
「ねぇウィンは師匠の元で修行してたんでしょ? 何の武術を学んだの?」
「基本的に格闘術! あと魔法!」
「武器は……?」
「教わってない‼」
「えぇ……それなのに剣を扱ってたのは何でよ?」
シーちゃんと顔を見合わせ、呆れながら尋ねる。
「かっこいいからっ‼」
かっこいいからって……。
よし、こういうときはストレートにビシッと言ってあげた方がウィンの為になるはず。うん、言ってしまおう!
「ウィン、ハッキリ言うと剣は向いてないと思う」
「ガーン!」
ウィンはわざとらしくへなへなと膝をつく。
「知ってた……剣が向いてないことくらい。私は……かっこよくなれないんだぁー‼」
この世の終わりみたいな反応してるけど……剣の才能が無いくらい別にどうってことないよね?
剣が使えなくてもかっこよくなれるよ?
「大丈夫、ウィンは十分かっこいいよ! さっきだって華麗に攻撃よけててかっこよかったよ!」
「ほんと……?」
「うん!」「ええ‼」
「いよっし、私はかっこよくて可愛い‼」
なんだよ、すぐに立ち直るんかい。なんなんだこの子は。今までにないタイプの子だ。
「剣よりも……力任せに叩きつけるような武器の方が合っているんじゃないかしら?」
「……?」
「さっきだって剣を力任せに叩きつけたから折れたのだと思うの。だからハンマーみたいな打撃武器の方が向いてるんじゃないかしら?」
確かに……! さっきのウィンの剣の振り方は”斬る”というよりも”叩きつける”動きだった。うん、確かに武器を扱うなら打撃武器の方が良いね!
「ハンマー! 使ってみたい!」
「そうねぇ……たしか【空間収納】に入っていたはず。少し探してみるからここで休憩しましょうか」
「さんせーい! ちょうどパプたんが作ってくれた”椅子”もあるしね!」
ああ……さっきの攻撃の余波で倒れた木のことね。たしかに、かなり歩いたし休憩するには丁度良いかもね。
「ふぃー」
ウィンは真っ先に木に腰をおろして一息つく。そして――
「ね、何か食べるものない?」
またかいっ!
夕ご飯めっちゃ食ってたじゃん⁉ 何、本当に胃が底無しなのか、そうなのかっ⁉
それから数分経った後、”あったわー!”という声と同時にシーちゃんが巨大なハンマーを【空間収納】から取り出す。
「か、かっこいい……っ‼」
確かにかっこいいが……これは殺傷力高そうだね。さっきの巨大な魔物の頭も一発で潰せそうなほど大きなハンマー。敵がこんな武器持ってたらビビッて動けなくなりそう……。
「この武器は柄が長くて中距離武器なんだけど……こんな感じで半分に離すことが出来るギミックがあって、近距離武器に素早く変えることも出来るの」
なるほど、ハンマーと反対側についているメイスの半分に分けることも出来るのか。状況に合わせて中距離武器にも近距離武器にも変えることが出来る武器……初見でこれを急にやられたら混乱するだろうな。
ただ、ウィンが器用にそんなことを考えて使い分けられるのか不安だが。ま、いけるっしょ。
「ねえ、この場所を見て何か思い出すことない? 懐かしいなぁとか……」
シーちゃんは武器をウィンに手渡ししながら小声で聞く。
「ん? 初めて来た場所だしなぁ……」
キョトンとしながら答える。それを聞くとシーちゃんは目に見えて表情が暗くなる。
やっぱり二人には何かあるみたい。……ここに私が居て本当に良いのか心配になるなぁ。ウィン達は元々知り合いだったけど、ウィンが記憶喪失になっちゃってシーちゃんのことを忘れちゃったとか……?
そんなシーちゃんの様子に気づかないウィンはハンマーを受け取るとはしゃぎながら振り回す。
……なんにせよ、ウィンは鈍感だし私がサポートしてなんとか二人を支えていくしかないか‼
生物の勉強が楽しいことに気付いた!! 今更だけどね!!




