第49話 エトワール大武道大会②
鑑定結果がおそろしいくらい不気味なのは一旦置いといて……この子、精霊なのにめちゃめちゃ物理特化じゃん。
体力値はまだまだ低いけど、スキルレベルに関しては私と同じだ。
【無属性魔法】はレベル高いじゃんって? いやいや、【無属性魔法】は【身体強化】を使う魔法だから、高くても……魔法が得意とは言えないよねえ? 【身体強化】以外の【無属性魔法】は戦闘に不向きな小規模なものが多いから魔法使いはあまり覚えない。利点が少ないからね。
それに雪の精霊のくせして【精霊魔法:雪】のレベルも低い……。
ほんと謎すぎる。
「っておおい! 人の話聞いてる〜?」
おっと、聞いてなかったぜ。
「――【氷の剣】――!!」
雪の精霊がそう唱えると氷でできた剣が現れた。えっと、その剣でどうするつもりかな……? 一応言っておくけど、君は剣術スキル持ってないよね?
「哀れなうさぎちゃん……さらばですっ!! たぁぁぁぁッ!!」
そのまま斬りかかりにきたぁぁぁぁぁ!?!?
素早さは満点!! だけど剣術スキルすら持ってないから簡単に避けれちゃうよ!?
何か罠があるかもしれないと思い、余裕を持って大きく避ける。が、どうやら罠でもなかったみたい。
大きく振り被られた剣は宙を斬り、体勢を崩した雪の精霊はケンケンパ(?)を披露する。
「ふっ、私の剣を避けるとはなかなかやるね……!!」
その自信はどこから来るんだか。
普通に殴りかかって来たほうが私と良い勝負出来ると思うんだけどなぁ……。なのになんで剣なんか……。
雪の精霊はまた大きく剣を振り被り、気が抜けるような声をあげながら斬りかかりにくる。
避けっぱなしはいけないので、スーシリエールで剣を受け止める。
――ガキィィィン
「「え?」」
気持ちの良い響くような音を立てて剣はあっさり折れた。折れた刃はくるくると弧を描いて闘技場床に突き刺さる。
え、あの……そんな力込めてないよ? 折ろうとか全然思ってなかったのよ? 私はただ剣を受け止めようとしただけで……。
「そんな……私の最強剣が……」
コラコラ、戦闘中に呆けるんじゃないよ。
この隙を見逃すほど私は優しくない。この機を逃せばなんかこう……不穏な力で逆転されてしまうかもしれないからね!! この子はなんか不気味すぎて怖いからさっさと倒すに限る!!
勝つ条件は対戦相手が降参するか場外、戦闘不能と審判が判断したときだ。
雪の精霊は降参してくれなさそうだし、戦闘不能は可哀想だし……ここは場外負けを狙おう。
未だに呆けて突っ立っている雪の精霊に蹴りをいれる。
「わっ!?」
ここが闘技場の端あたりだったこともあり、雪の精霊は呆気なく場外へ。
まあまあ力を入れたはずだけど、雪の精霊は怪我をした様子も痛がる様子もなく、ただ自分が負けたことに驚いているようだ。
うーん、やっぱりフィジカルは良いみたいだね。本当に意味分からないなあ……。
『ウィン選手場外!! 勝者、パープ選手!!』
「金返せーーー!!」
「クソ精霊ーーー!!」
「何やってんだよーーー!!」
おそらく雪の精霊に大金を賭けたであろう何人かがブーイングをする。
「――ッッ!?」
その時、感じたこともない鋭い殺気をどこからか感じた。魔境の森で感じたどの殺気よりも鋭く、冷たいもの。
冷や汗が滝のように流れ、息をするのすら辛い。その場で倒れそうなのを必死に堪らえる。
あ、はは……前に私が殺気をぶつけて脅したギルドマスター、こんな気分だったのかな……? 今になって申し訳なく思えてくる。
数秒たった後、殺気などなかったかのように空気が軽くなる。
周りの人はどうやら気づいていないようだ。いや、会場がざわついているから、数人は気絶したみたい。
どういうこと? これほどの殺気なら、この場にいる全ての人が気づいて当たり前だと思う。
一定以上強い人だけが気づける殺気……? いや、倒れた人より強い気配をした人は気づいていないから違うね。
じゃあ、この殺気の主は矛先を制限できるってこと……? かなりの実力者じゃないとそんな真似出来ない。それにこの強烈な殺気は……死霊王よりも断然……。
つまり、少なく見積もっても殺気を放った人のランクはSSS+ということだ。
審判に早く降りるよう急かされたので、誰がやったのか分からないまましぶしぶ歩きだす。
なんで私に殺気を向けたんだろう……?
タイミング的に雪の精霊を倒してからだったから、私に負けてほしかった人物ってこと? それに気絶した人の顔をチラッと見た感じ、雪の精霊に野次を飛ばしていた人だった。兎の耳舐めんなよっ!! 誰が何言っていたかくらいこの遠さなら簡単に分かるもんねっ!!
そのことから考えると……雪の精霊の大ファンってことかな?
ん〜、分からん。これ以上考えても答えは出てこない気がするから、警戒レベルを上げるだけして切り替えていこう!!
待合室の前を通りかかったときに、何やら話し声が聞こえてくる。
中にいる人はどうやら小声で話しているらしいけど……私は兎獣人だから意図せず聞こえてしまう。
他の兎獣人はどうなのかあんまり知らないけど、まあ多分私は通常の兎獣人より耳がいいと思う。
こういうときには不便っていうか……聞こうと思ってないのに盗み聞いちゃうのは罪悪感がなぁ。
聞かなかったことにして通り過ぎようとしたが、聞き捨てならない会話が聞こえてきたので足を止める。
『パプリカ、これが例の……だ。くれぐれも気づかれないようにな』
『……これさえあれば……私が大三賢者に……』
何だって!?
ところどころ聞こえないけど、な〜んか危険な香りがするねえ。もしかしてこの人、不正しようとしてる? でも不正をするっていう決定的な単語は言ってないし……よし、少し盗み聞きしていこう。
本当に不正しようとしているのなら運営側に伝えなきゃ。違かったら心の中でごめんなさいして聞かなかったことにしよう。
待合室のドアに耳を近づけて息を潜める。
『本当に、これでいいんでしょうね? もう後戻りは――』
『待て、外に誰か居る』
ば、バレた!?




