第42話 私のバカっ‼
あれから何回もゴシゴシ洗って、やっとのことで体に付いた血は全部落ちた。
でも……装備に付いた血は全然落ちてくれなかった。それに対し、不思議なことにスーシリエールには血がそもそも付かなかった。いや、まあ付きはしたけど、水で流すだけで簡単に落ちた。この違いは一体何なんだ?
仕方がないから、またあの偏屈じいさんのところに持って行かないとだね。
♢♢♢
「こんにちはー」
「おおパープ、待ってたぜ‼ 装備の着心地はどうだった?」
「そのことなんだけどね……」
「ん? ……――ッなんじゃこりゃあ⁉」
素っ頓狂な声をあげて手に持っていた酒瓶を思いっきり地面に叩きつける。
そりゃその反応だよね。せっかく心を込めて作ったのに、こんな血塗れにしたら誰だって怒るよね。
「これはゴブリンの血⁉ だが俺の作った物はゴブリンの血程度難無く弾けるはずだ‼ 何て言ったって最高の鍛冶師が作ったんだからな‼」
う、うん。凄いナルシストだ。最高の鍛冶師なことは否定しないけどさ、、、。いや待て、私はなんで最高の鍛冶師に武器じゃなくて革製の防具を作ってもらってるんだ? 鍛冶師になら普通金属製の装備だよね……。ああもう、本当に申し訳ない。
「一体何と戦ったんだ?」
「ゴブリン300体」
「さんッ――⁉」
「あとゴブリンキングも倒した」
「――ッ⁉⁉」
偏屈じいさんは眩暈がしたように目頭を指で押さえて目を瞑る。
「そりゃそうなるわ……‼」
「そういえばさ、私はこういう武器を作ってるんだけど、これは血がつかなかったんだよね。なんで?」
【異空間収納】からスーシリエールを取り出し、偏屈じいさんに差し出す。
「これは手甲鉤か? 一体どんな名工が作ったんだ? かなり、いや……最っ高の武器だ‼」
子供のように無邪気に目をキラキラ輝かせてスーシリエールに魅入る。
「この素材は見たことないな。こりゃあ俺が今まで見た中で一番良い武器だ。品質はSSS以上だろう、俺以上の鍛冶師だと認めるのはちと悔しいがな」
これお母さんが作ったから鍛冶師ではないんだけど……。まあ褒められて悪い気はしない‼ なんだか鼻が高いな。
「汚れない理由は簡単だ、この武器が俺の防具より優れているからだ。武器のランクが高ければそりゃあ、そんじゃそこらの血で汚れはせんよ!」
なるほどね……。
「はぁぁぁぁ、仕方ねえ。このボロッボロになった装備全部、綺麗さっぱり直してやる」
「ほんと⁉」
「ああ、久しぶりに刺激的で美しい武器にお目にかかれたしな」
「本当にありがとうございます‼ これ、この前言われてたお酒」
「おっ、覚えてたか」
このお酒はゴブリンに襲われそうになってた村の名産品らしい。ちょっと高かったからきっと美味しいんだろう。あー私も飲みたいな。
「ゴワゴワで血塗れで、どこから直していいやら分からんほどボロボロになっちまってるから……ポーションに浸して魔力を通して……とにかくだ! 一週間かかるから待っておれ」
「うん、ありがとね。偏屈じいさん」
「あ? 俺のこと今偏屈じいさんって言ったか?」
しまった、間違えて口に出してしまった。だって名前教えてもらってないんだから仕方ないじゃんか。
「俺はジェロンだ、ジェロンと呼びやがれ」
「う、うん」
♢♢♢
く……ギルド行くの面倒。すっごく行きたくない。絶対に噂が変に広がってるよぅ。私はただ友達作って、楽しくワイワイ生きたいのにぃ。
「お待ちしておりました、パープさん。ギルドマスターがお待ちです」
「はぁぁい……」
豪華な応接室に通され、受付令嬢はそこまで案内すると持ち場に戻ってしまった。
待って待って待って!! 私を置いていかないでよぅ受付令嬢さぁ〜ん!
この強面のハゲマッチョと二人きりにしないでよ〜!!
「よく来てくれましたね、殿下」
ん、殿下……? どうして殿下って呼んだんだ? まさか……
「あなたの本当の名前は”パープ・ステラ”ですよね?」
「――‼」
バレた。なんでだ? パープなんて名前、珍しいとは思うけどそれだけで”パープ・ステラ”って普通分かるか?
「ここまで他の色と混ざっていない黄金色に輝く髪は貴族ですら珍しい。ましてや紫水晶と見紛う瞳なんて、ステラ王国の直系でしかお目にかかれない。そして極めつけは第三王女と同じ名前」
た、たしかに……‼ バカ以外なら、そのことを知ってて気づかない人はいないかも……‼
あと、わざわざ解説してくれてありがとう!!
はぁ。こんなことになるなら、偽名使っておけば良かったぁぁ。私のバカァ‼
「病死したはずのステラ王国の第三王女殿下、何を企んでいるのですか?」
「――!」
威圧……。
この目は完全に敵を見る目だ。嫌なトーンで第三王女殿下と言ったことを考えるに、この人は貴族に良い印象が無いのかもしれない。私だって貴族に良い印象なんてないよ。城のメイドは大体下級貴族だし、その人たちにいじめられてたからね。
こーんなに愛くるしい幼子に威圧をぶつけてくるなんて……なんだかちょっと、腹が立つ。私だって貴族に酷いことされた被害者なのに、貴族と同じ括りされるのは嫌だ。
ま、そんなことギルドマスターは知る由もないもんね。きっと、”悪い貴族からなんとしてでもギルドを守らなければ……!”とか考えてるんじゃないかな?
このままあやふやにしたり、情に訴えて口止めすることも出来るけど……ステラ王国の国王に告げ口しない保証はない。
そうなると、今度こそ殺されるかもしれない。私はまだ死ねない。アムールを見つけられてないし、友達だってもっと作りたい。
さて、どう対応しようか……?




