第30話 一欠片の勇気
「お母さんッ‼」
「か、カレンデュラ……」
倒れたお母さんの無惨な姿を見て息を飲む。
美しく咲き誇っていた頭の花は枯れ、私を庇って瘴気を浴びたせいで全身が黒く変色していた。
「……どうやら、この一撃が正真正銘最後の力だったようね……」
「お母さん……もう、喋らないで」
喋るたびに、身体の一部が灰となって消え去っていく。
「カレンデュラ、俺……俺はッ」
「今まで支えてくれてありがとう。あなたが居てくれたから、私は寂しくなかったわ」
「すまない、守りきれなかった……ッ。お前の痛みを気づいてやれなかった……」
お母さんは何も言わず、寂しげにデュランタさんに笑いかけた。
「パープ、泣かないで。あなたが無事なら私はそれでいいの」
「……私には一欠片の勇気さえ無いからっ、弱虫だから……お母さんなしで生きていけっこない。だから死なないでよぅ……。お願いだからっ」
「パープ……」
震える手で優しく私の頭を撫でながら言葉を続ける。
「あなたは十分勇敢だわ。なんて言ったって、私の自慢の娘だからね」
違うよ、私は弱虫だ。大切な人一人、守る力も、勇気も、何も無いよ。
「……それでも、自分に勇気が無いと言うのなら、私があなたの……”一欠片の勇気”になってあげるわ」
「……?」
「意地汚く根を伸ばしていた老木もいずれは枯れる。そしてその生命を糧に、新たな芽が芽吹く。私はあなたに、私が生きてきた証――勇気を、授けるわ」
お母さんの身体が輝きだし、私の中にその光が流れ込んでくる。
「大丈夫、あなたは一人じゃない、私がいるわ。あなたはきっと、これからたくさんの試練を乗り越えなくてはいけない。怖くなったら逃げていい、泣いてもいい。その心に、大切な人を守りたいという”一欠片の勇気”さえあれば、それでいいのよ……」
「――っ、お、お母、さん……」
「私の死で悲しまないで。強く……強く、生きるのよ。私はパープ、あなたをいつまでも……愛しているわ」
その言葉を最後に、お母さんの全身は灰となって消えていった。
♢♢♢
デュランタさんと共にお母さんのお墓を作る。
骨も、お花も、全て灰となって消えてしまったから、お墓の下に埋まっているものは何もない。それが悲しくて、出きったはずの涙が再び溢れ出てくる。
「パープ、お前はこれからどうしたい?」
お墓を作っている間、一度も口を開かなかったデュランタさんが泣きはらした目で私をじっと見つめる。
「このまま魔境の森で暮らすか、ここから出て自由に生きるか……」
答えはもう決まっている。
「ここを出て、アムールを探す」
外の世界へ出て、人間と過ごす。酷い人間がたくさん居ることを知っているからこそ、まだ怖い。
でも、お母さんからもらったこの”一欠片の勇気”があるから、大丈夫。お母さんの温かい想いが私の中をずっと満たしてくれている。
怖くても、恐ろしくても、大切な人を今度こそ…………
「そうか……」
デュランタさんは私から背を向けて、どこかへ行ってしまった。
「……」
半壊した家に戻り、荷物をまとめて旅の支度をする。
と言っても、持っていくものはほとんどない。食料と武器を【異空間収納】に入れて、カモフラージュ用のバックに衣服を詰める。
思い出の詰まったこの家を最後に見回すと、また涙が滲んでくる。ここでの生活は一年とちょっとという短い間だったけど、本当に幸せだった。
今までありがとうございました。
深々と礼をしてから、歩き出す。
「待て」
背後からデュランタさんの声が聞こえてくる。
「俺は、カレンデュラの後を継いで魔境の森の西の主となることにした」
「そう……」
デュランタさんなら安心だね。きっと混乱もすぐに治まるだろう。
「俺はいつでもここにいる。辛くなったらいつでも帰ってこい。一応、お前のこと……娘だと思ってんだからな」
「――っ、ありがとう……‼」
「おう! じゃ、いってらっしゃい」
「いってきます‼」
次会った時には、お父さんと呼べるようになってるかな? 先のことはまだ分からないけど、デュランタさんはもう、私にとって“父“という存在になっていた。
ここではたくさんの幸せを貰った。もう、愛に飢えていた昔の私は居ない。勇気の無い私は居ない。
振り返らずに歩く。
私は、お母さんに貰ったこの”一欠片の勇気”で生きていく。
これにて第0章完!……かと思いきや~まだ続く~‼ あ、でも、この章でのパープ視点は終わりかな(多分)
応援してくれた方、ありがとうございました‼ リアクションだけでもすごく嬉しかったです‼




