第2話 捨てられました
どうもこんにちは! 前世でブラック企業に勤めていた私ですが、過労死してしまい、なんと異世界転生しました!
私は、獣人王国の第三王女、兎獣人のパープとして転生しました。人生勝ち組に思えたのは最初だけで……私、どうやら王族の印が無いらしいです。
誰か嘘だと言ってくれぇ~! 危うく殺処分されるところでしたが、お父さんの温情のおかげで幽閉だけで済みました。殺処分よりはマシだよね。うん。
実は、私が転生してから3年が経ちました。よくここまで生きてこれた……っ!
メイドには馬鹿にされ、下女まがいの仕事をさせられ、ご飯も抜かれることがある中、よく耐えたよね!? 気が狂うかと思った。ぶっちゃけ前世より辛かった。転生なんかしなければと思うことが何度もあった。
必死に耐え抜いてきたのに……もしかしたら今日が私の命日かもしれない。
3年も経ったのに、私には王族の印がない。
王族の印――獣人の国であるステラ王国の直系の王族だけに表れる特殊な瞳孔のこと。
瞳孔って、眼のあれね? 眼の中心にあって、周りの明るさによって大きさが変わるあれ。
王族だけ、その瞳孔が特殊なんだって。簡単に言うと、瞳孔の形が違うってこと。
現国王は星の形をしている。第1王女はハート。第1王子は翼。その形が複雑なほど優秀らしい……が、定かではない。
ちなみに、初代王は薔薇だったんだって。
私もその瞳孔……欲しかったなぁ。そしたら皆に愛されて、幸せだったんだろうな。
そして今日、お父さん……じゃなくて国王陛下に呼ばれました。殺されるかもしれない。嫌だ……でも、拒否したところで暴力を振るわれるだけだし、行くしかない。
神様、苦しむだけの運命なら、どうして私を転生させたの?
♢♢♢
謁見の間のような場所に、衛兵と王族が私を囲むようにして立っている。
3年ぶりに会う王様。その目は酷く冷たい。その周りにいる兄弟も……まるでゴミを見るような目で見下ろしてくる。
「パープ・ステラ、お前には酷く失望した。あの炎狼を魔法による一撃で葬ったと聞いたが……所詮は出鱈目だったか。3歳にもなるというのに瞳孔を開花させないとはな」
ん? 炎狼を葬った? いや、遭遇したことすらありませんが? それに炎狼って、FからSSSまであるランクのうちのSランクの魔物だよ。私みたいな3歳児が倒せるわけないでしょ……? ちょっと考えれば分かるでしょ!?
「いえ、私は素手で倒したと聞きましたが……」
「わたくしは木剣と……」
そちら側で言っていることが違うのですが?
ちゃんと、事実関係や方針を決めてから私を呼びなさいよっ! それに魔法か素手か木剣とか関係ないし! だって絶対ありえない話だもん!
所詮はデマってことか。
「おほん、ということでお前は隣国に追放だ。意義がある者はいるか?」
追放……と聞いて、私は内心舞い上がる。だって、このクソみたいな生活とはおさらばできるんでしょ!? もうメイドに馬鹿にされたり、不味いご飯を無理やり食べさせられたりしないんだ!
「父上、一言申し上げてもよろしいでしょうか?」
そう言ったのは、第一王子オルグイユだ。私のお兄様ってことになるけど、歳はなんと20も離れている。幽閉されている身なのであんまり分からないけど、母親が別だね。
第一王子のお母さんは正妃であるフェリリーラさん……じゃなくて様。気が強くて怖ーい人。フェリリーラ様はメイドにはきつく当たるらしく、この人のおかげで何人ものメイドが姿を消した。
そんな人の息子でしょ? 一体どんなことを言いだすんだ……? ま、まぁ偏見は良くないよね。もしかしたら『哀れな我が妹に金貨1000枚を渡してはどうでしょう?』とか言ってくれるかもしれないしね!
「よい」
「この者は王家の恥です。そのような者を隣国に追放すると、国際問題に発展する恐れがあります!」
なんてことを言ってんだよ!
第1王子は私を見てニヤリと笑う。悔しいけど、この人……かなりの切れ者かもね。性格は終わってるけど。
周りにいる第一王女や第二王女、第二王子は止もせず、肯定するかのように頷く。
きっと、王位継承権を持つ私を消したいんだ。万が一でも、私のような紛い物が王にならないように。
私は一応、王位継承権を持っている。そして、世間からは病気がちで体の弱い第三王女ということになっている。なんででしょうね~? どうせ、世間体を守るためでしょう。王族なのに王族の印が無いなんて知られたら……国民の支持が下がる可能性があるから。まぁ、高位貴族はなんとなく察してるかもね。こういうことは貴族階級ではよくあることだし。
もしかしたらこの案も第一王子が提案したのかも。だとしたら、かなーり悪知恵が働く野郎だね。
別に私は王なんかになりたくないしっ! 私がなれるはずない、なにより友達を作れなさそうだし……。だから、お願い……殺さないで。
「ふむ……確かにそうだな」
「そこで私に提案があります!」
第一王子はわざとらしく一歩前に出て、腕を広げながら話す。
「言ってみよ」
「この者を病死したことにし、『魔境の森』に送るのはどうでしょう?」
「魔境の森!?」
思わず声が出てしまう。
魔境の森って……ステラ王国が位置している大陸の真ん中に広がる巨大な森の名前。世界で一番大きな森。それだけではなく、この森には強力な力を持つ魔獣がうじゃうじゃいるの。最近ではこの森が徐々に広がってきていて、獣人だけではなく人族や森を愛するエルフまでもが悩まされている。
そんな厄介で皆が恐れるような森に、3歳児を捨てるの!?
「それは良い案だ!」
いやいや?
「さすがお兄様」
んんん⁉
なぜか拍手が湧きおこる。
「衛兵、この者を直ちに『魔境の森』へ連れていけ!」
「はっ」
……どうやら私、この場にいる全員に嫌われているらしいです。たとえ大嫌いな人だとしても、嫌われるのって苦しいんだね。
♢♢♢
あれから何時間が経ったんだろう? 安っぽい木の馬車……というより荷馬車(?)に乗せられて、甲冑を着た衛兵のおじさんとガタゴトと魔境の森に向かってます。乗り心地最悪すぎて、おしりが痛い。
もう日が暮れてきた。だんだん寒くなって――
「へぷしっ」
さ、さむー! 荷造りの時間さえもらえず、そのまま来たから上着なんて持ってないよ⁉ これじゃあ魔境の森に着く前に凍え死んじゃうかも。
「…………」
衛兵のおじさんが鋭い目つきで睨んでくる。はいはい、うるさくしてすみませんでしたー。
――ふわ
あったかい何かが私を包み込む。
これは……ポンチョ? 私にはかなり大きいけど……あったかい。 もしかして、おじさんがくれたの……?
「ありがとーごじゃいます」
「礼は要らん」
この人……目つきが悪いだけで実は優しい?
♢♢♢
約6日間、おじさんと私の旅は続いた。
おじさんは口が悪いけど、凄く優しい人だってことは伝わってきた。
夜に寒くて震えていたら、おじさんが近くに来てくれて温めてくれた。もちろん、甲冑は脱いでるよ? さすがに脱いでなかったらヤバい。逆効果になっちゃうしね。
魔境の森についても、少しずつ教えてくれた。懇切丁寧にね。
ご飯だって、今世で食べたものの中で一番美味しかった。スープにお肉が入ってたしね! しかも、幼児でも食べれるように柔らかくなっている!
今日、おじさんとはお別れだ。お別れが寂しいな。
「これから魔境の森に入る」
おじさんは申し訳なさそうにそう言う。分かってるよ。きっと監視とかされてるんでしょ? ここ数日の間、ずっと何かに見られている視線はあったし。
おじさんにもおじさんの人生があるし、こんなに良くしてくれたんだから感謝しかない。
大丈夫と言う代わりにニコリと笑う。
「前も話したように、お前を置いていく所は魔境の森の一番弱い魔物が生息している南側だ」
「ん!」
「いいか? そこに着いて夕暮れになったら星を見るんだ。昨日教えたあの青く輝く星を目指して進むんだ。そしたらきっと、森から出られる!」
だから必死になって教えてくれてたのか。
「おじしゃん、ありがとー!」
「俺はおじさんじゃない、ラファールだ。それに歳は28だし、おじさんと言われる筋合いもねぇ!」
うそぉっ⁉ ……かわいそうに。
「……そんな顔すんじゃねぇ」
第一王子は意外とお馬鹿さんなのかも。私を森に送って行く人材、絶対間違ってる。ラファールおじさんはお人好しっぽいし、現に私を救おうとしてくれてるもん。
これはあれだ。部下に人材選びを任せたんだな。で、余計な仕事したくない部下たちがラファールおじさんに押し付けたんだな。
♢♢♢
「着いたぞ」
周りは木で囲まれていて、なんだかピリピリしてる。
「これが食料だ。7日はもつだろう」
どう見ても7日以上の食料が入っている……それに、金貨が3枚も入っている。ラファールおじさんって過保護なのかな?
「絶対に、生き残れよ」
「うん」
力強くそう答える。大丈夫、私は死なない。まだ友達作ってないし。
んー、このままラファールおじさんとお別れって言うのは寂しいし、何かお礼をしようかな?
――ちゅっ
「はぁっ⁉」
「えへへ、お礼ー!」
どこにしたかは想像にお任せしようとしたけど、勘違いされたら一生の黒歴史になりそうだから言っておこう。ほっぺにしたからね?
ラファールおじさんは今まで良くしてくれたしね。私は一応美少女……いや美幼女だからね! 十分お礼になるはずっ! 全然お礼になっていないかもしれないけどね。たはは。
「まぁ、ありがとな」
ラファールおじさんは照れくさそうに笑いながら馬車に乗って帰っていった。
……本当にありがとう。ラファールおじさんのおかげで、私は"希望"を見いだせた。初めて"無償の愛"を貰った。もうラファールおじさんの姿は見えなくなってしまったけど、目を閉じて胸に手を当てただけで感じる。
――温かい……。
いつか、恩返しをしたい。だから、絶対に生きてこの森から出る。待っててね、ラファールおじさん。
馬車によって出来た道のおかげで帰れるんじゃね? って思ったけど、無理でした。木々がわさわさ動いて、一瞬で道がなくなっちゃった。この木一本一本生きてるの? 怖ぁ……。