第25話 魔境の森大戦③
「アムールを、人間の街に連れてく……?」
正気? アムールは魔物だよ? いくら見た目が獣人に似てても、もしバレたら……殺される。
「バレたら殺されるだろう、それは知ってる。だがこのまま回復することを祈ってても、確実にアムールは死ぬ!!」
「……」
「魔トレントに運んでもらって人里に置いていく。端から見たら魔物に連れ去られた哀れな人の子だ。大丈夫、【鑑定】スキルを持っている人は稀だし、スキルを【鑑定】出来る道具はあれど種族を【鑑定】できる物はねえ」
「でも、人は酷い奴ばっかだよ? 誰も救ってくれないかもしれない」
そうだ、人は酷い奴ばかり。私は知っている。私がメイドにいじめられても、殺されそうになっても、誰も助けてくれなかった。血の繋がった人さえも、目が合った人はみんな目を逸らした。ラファールおじさんのように優しい人に会えたのは奇跡なんだ。
瀕死の、そして魔物が攫おうとしている少年を、誰が救おうっていうの……?
分からない、もしかしたら誰かが救ってくれるかもしれない。でも、でもさ、もし皆目を逸らしたら……? アムールは孤独の中で死ぬことになる。もう、一生会えなくなる。
「パープ……」
お別れの決断が出来ない私にデュランタさんが優しく名前を呼ぶ。
「怖いのは分かる。だが……可能性が少しでもあるなら賭けるべきじゃないか?」
「……うん」
大丈夫、アムールなら。
だって凄く見た目良いし。優しい人が居なくても、下心満載な人が利益目的で助けてくれるかもしれない。その後は辛いかもしれないけど、アムールは強いから大丈夫。生きてさえいれば、何とかなる。また会える。会えるよね……?
「アムール、またね……」
他の言葉を言ってしまったら、アムールに付いていきたくなってしまう。それは駄目だ。私はここで戦わなくてはいけない。お母さんたちは私を売って戦いを避けることも出来た。でもそうしなかった。私は、その想いに応える為にも戦わなくちゃいけないの。
魔トレントはガラス細工を触るように優しくアムールを抱き上げ、驚くほどのスピードで瞬く間に見えなくなっていった。
胸が激しく痛む。
私のせいでアムールは死にかけている。そして、危険な賭けに出ることになってしまった。全部私のせい。私が少しでも周りに注意を向けていれば、こうならなかった。アムールに庇われなければ、私が怪我を負うだけで済んだ。私が強ければ……アムールの信頼を得ていれば、”パープなら大丈夫だ”って庇われることも無かったのかなぁ?
「パープ、今は戦いに集中しよう」
「……うん」
私の覚悟を察したのか”逃げなくては良いのか”という野暮なことは聞かれなかった。
涙を拭って敵を睨みつける。
アムールは助かる。そして再び会って、喧嘩したことや庇わせてしまった私の弱さを謝るんだ。そのためにもコイツを倒し、生き残らなきゃ。
デュランタさんが攻撃するのと同時に、私も駆け出す。
今度は瘴気だけじゃなく他の攻撃にも注意する。戦局全体を見るんだ。
お母さんは一人で戦っていたからかもうボロボロだ。まだ戦えはするだろうけど、敵にとどめを刺すような力は残されていない。
デュランタさんはまだまだ戦える。眷属の大半はここに居ないけれど、この場は魔境の森。そこら中に魔トレント――デュランタさんの眷属がいる。つまり、100回は【身代わり】スキルを使える。だけど、デュランタさんも決め手は持っていない。
私は……そもそも戦闘力が低いから攻撃がほとんど通らない。気を散らすことしかできない。勿論、決め手なんか皆無。
……無理ゲーだ。
こっちには決め手が無い。持久力も無い。
それに比べ相手は瘴気を放っているだけで私たちを倒すことが出来る。そして、暗黒魔法という未知の切り札も持っている。
このままじゃ、確実に負ける。
どうすれば勝てる?
「――くっ」
死霊王は何故か執拗に私を狙ってくる。暗黒魔法で狙われようと、私の意識は”避け”に徹しているから当たりはしない。
”決め手”が必要だ。
一撃で死霊王を殺せる火力を持つ者が必要だ。
そんな人物、都合よくいるわけが――
ううん、私は死霊王を一撃で殺し得る人物を知っている。協力してくれるかは別だけど。
でも、このままじゃ負けちゃう。
「デュランタさん‼」
「あぁ⁉」
「私が戻ってくるまで、穴埋めよろしくお願いします‼」
「はぁ⁉ 無茶振りすぎるだろ……ま、まぁこっちは任せろ‼」
敵に背を向け、全力で駆け出す。
戦局をひっくり返すには、彼が必要だ。お願い、どうか協力してくれますように。
パープの考える強力な助っ人とは⁉




