第21話 模擬戦③ ―アムールの想い―
「――【限界突破】――ッ‼」
「おいおい、どうなってんだよ⁉ その力……何を代償に手に入れたッ⁉」
何だ、こいつの異常なまでの勝利への執着は⁉ なせ……なぜこの模擬戦にそこまで命を懸けられる?
真っ白な髪が燃え上がるように逆立ち、全身から星屑と見紛う魔力を散らす。深紅の瞳と目が合った時、野生の動物と目が合ったかのような緊張感が走った。
全身から放たれるその強大なエネルギーは…………一体何を焚べたらそこまで燃え上がる?
「――【武器錬成】――」
アムールは二本の短剣を創り、構える。
土魔法……今更短剣を使うだと? そんな短い刃で俺を傷つけられると思うなよ?
「――【兎の爪】――」
聞いたことも無いスキル名を唱えながら、アムールは短剣で空を切る。
? 何をしているんだ? そんな遠くからで俺に攻撃が届くはずが――
「――が⁉」
不可視の斬撃⁉ 短剣では傷つけられないほどの深い傷ができる。ぐ……しまった。この奇妙なスキルといい、あいつは何かがおかしい。
よろめいている隙に、アムールは俺めがけて駆けてくる。
はぁ⁉ さっきまでこんなに早く走れなかったろ⁉ 倍近く速いじゃねぇか。
「はぁっ」
「ぐっ」
その速さに対応しきれず、首が切り裂かれる。が、あいつの短剣も音を立てて崩れ落ちる。
「……」
首を切り裂かれた瞬間、【読心】スキルによりあいつの想いが流れ込んできた。
――愛して愛して止まない、苦しくさえもある想い。
"ここで負けたら、この想いに正直で居られなくなる。愛する人を今度こそ守れる力を得たい。"
その力を得るために、命を燃やしているのか……?
俺には、星屑のように舞うその魔力が、想い、大切なもの、生命、その全てを燃やして生じる灰に見えた。
ボロボロになっても尚、拳に力を入れ魔力を滾らせる小さな少年を見て、覚悟を決める。
そんな想いぶつけられて、何も思わない俺じゃねぇ。愛とまではいかなくても、俺にだって大切な人が居る‼ 守りてぇ人が居るっ‼ かっこわりぃ姿、見せるわけにはいかねぇんだよぉぉお‼
きっと次が最後の一撃だ。アムールはまだまだ子供だ。あんな強大な力、小さな体で長く持つはずがねえ。俺がその最後の一撃を避けるか、持久戦に持ち掛ければ確実に勝てる。だが、そんなことはしない。
あんっっっなにちっせぇ体で命張って戦ってんだ‼ ここで逃げるやつは、男じゃねえぜ‼
「はぁぁああああッ‼」
「らぁぁああああッ‼」
♢♢♢
ーードゴォォォン
「……そこまで! この模擬戦、アムールの勝利‼」
「やったー‼ お疲れ様、アムールっ」
「うん……」
お母さんの勝利宣言を聞き、アムールはその場に崩れ落ちる。
すぐさま駆け寄り、回復魔法をかける。私の回復魔法はアムールより下手だけど、今のアムールには回復する力さえ残されていないみたいだから、無いよりマシだろう。
さて、回復もしたところだし、言いたいことをスパッと言っちゃいましょう。
ーーポコッ
「いったー」
「なんであんなに無茶したのよっ‼」
私の【煌炎】は火傷する程度だから命を脅かすほどじゃない。でも、アムールがやっていたことは……死ぬ可能性がある危険なことだ。いくら自分が発動した技で攻撃力が下がっていても、当たり所が悪ければ普通に死ぬ‼ なのにどうして……?
そんなに告白が嫌なの? 負けて惨めの告白なら、どこかの大魔導士の公開告白よりずっとマシだと思うんだけど……。あっちは世界懸かってる中での公開告白だからね。
「ごめん。でも、パープにはもう情け無い姿見せたくなくて……」
「何よそれー」
私に情けない姿見られたくないってどういうことだろ? もしかして、初恋の人に情けない姿をチクられたくないってことかな?
それなら安心しなさいな‼ 私にはアムールの好きな人が誰か分からないし‼ それに、知ってたとてチクる気は毛頭ないよ。
「やれやれ、アムールったら……私がそんなことするわけないだろ☆」
「(なんだ、この生暖かい目は? また勘違いされてる気がする……)」
♢♢♢
パープとアムールの二人が盛大なすれ違いを起こしている最中、カレンデュラは地に伏し力なく横たわるデュランタに駆け寄る。
「おー、いててて……まさか【身代わり】スキルを使う羽目になるとはなぁ」
「ふふ♡ アムールは強かったでしょぉ?」
「あぁ、アムールだけじゃなくパープもな。どーなってんだよあいつら。肉体は子供のはずなのに……何をしたらああなるんだよ」
「想いと執念かしらね……たとえ本人のもので無いとしても、ね」
「?」
意味ありげに微笑むカレンデュラの胸の内は、おそらく彼女しか知りえない。【真実の鑑定】スキルを持っている者がいれば知りえただろうが、あり得ない話だろう。ユニークスキルは世界で一つしか存在しないものだから。
「さて、二人も良い感じに強くなってきたから、そろそろ黒幕について話そうかしらぁ?」
「そうだな、俺は戦いの用意をしておく。さっきは情けなく負けたが、集団戦なら俺の独壇場さ」
「頼もしい限りだわ」
「……ラフレシアの件はすまなかった、俺がしっかり見ていなかったから」
少しの間を置き、デュランタが頭を下げながら謝罪の言葉を零す。
「その件はもういいわ。あなたのせいではないし、私は純粋な魔物では無いから。……あの子のしたことは許せないけど理解はできるわ」
人工生物であること。ラフレシアの心の拠り所である真の妖花女王との時間を奪ってしまったこと。その二つにより、ラフレシア――寄生花姫は心が歪んてしまった。
傍から見れば些細な事だったのかもしれない。だが、魔物から見ればそうではない。魔物は大事な物を奪われれば命を賭して奪い返そうとする。それが叶わなければ殺そうとするだろう。だがその対象は人工生物ではあれど、植物系魔物であり仲間。殺すわけにはいかない。
長年悩み続けた故か、第三者の介入故か、幼い心を持つラフレシアは遂に歪んでしまった。
それを知っているからこそ、カレンデュラはラフレシアの行動を理解できた。
「ま、ありがとな」
「うん」
二人の間に沈黙が流れる。沈黙の中、二人は同じことを考えていた。
”この幸せが永遠に続けばいいのに”
だがそれは叶いはしない。これが平和な一時だとすれば、嵐の前の静けさであり、儚い束の間の平穏だろう。
それを理解していた。大人として、子は守らなければいけない。甘えてはいけない。これから始まるであろう想像を絶する戦いに備えなければいけないのだ。
「俺はもう行くぜ」
「ええ」
「……もし、もしも、お前が狂ったら……俺が殺してやる」
「ありがとう」
聞こえは悪いが、その言葉はどんな慰めの言葉よりもカレンデュラの心を癒した。
「最善を尽くしましょう……‼」「最善を尽くそう……‼」
二人はそう言い残すと、背を向けて歩き出す。
戦いは近い。
期末テストも近いぜ‼




