第15話 君にカレンデュラの花言葉を②
次回から日曜日の午後7時10分に投稿にします。
エキュームは、仕事熱心で家庭的な人だと思っていた。だから愛したし、絶対に誰にも言ってはいけないユニークスキル【真実の鑑定】の存在を教えた。血も、軽い気持ちで渡してしまった。
愛し合い、娘と3人で幸せに暮らせると思っていた。でも実際は違かった。
頑なに教えてくれなかった研究内容を知ってしまった。愛する彼が、悲鳴を上げて抵抗する者を押さえつけながら人体実験する姿を、見てしまった。
愛していた。だからこそ、許されない行為をしているエキュームを止めようとした。だけど、止められなかった。
彼は私とメイラを閉じ込め、私たちを魔物の肉体へ変えようとした。私たちは魔法と【真実の鑑定】を使ってなんとか逃げ出し、辺境の地でひっそりと暮らすことにした。ここなら見つからない、娘と2人で今度こそ幸せに――――…………
「どこで間違えてしまったの……?」
エキュームを愛したとき? 血を渡してしまったとき? 愛している人を疑いたくないと思い、【真実の鑑定】を使わなかったから……使っていたら、こんなことにならずに済んだはずなのに。
私のせいで…………メイラはこんな姿になって………。
――パサ
魔力が漏れ出したことで発生した風により、紙がどこからか舞い落ちてくる。
「これは……‼」
実験番号.2018
『名前』カレン ♀
『身分』平民
『魔物適正率』
獣……80% 植物……99% 竜……78% 不死者……53%
『備考』
ユニークスキル【真実の鑑定】所持者。
圧倒的な魔物適正率、植物系魔物との同化。
――【成功】――
実験番号.2019
『名前』メイラ ♀
『身分』平民
『魔物適正率』
獣……35% 植物……38% 竜……2% 不死者……11%
『備考』
実験番号.2018の娘にかかわらず魔物適正率は低い。
植物系魔物との同化。
――【失敗】――
「…………」
成功、失敗、たった二文字で私たちの変わり果てた姿を語るというの? 今までの犠牲者の多さ、無念さが、実験番号から分かる。一体どれだけの人たちをあの人は……いや、アイツは殺めてきたの?
もう、こんな悲しい出来事を繰り返さない。そのためには…………
――――
あんなにたくさんある牢屋に、生存者は一人もいなかった。
……こんな所で朽ちたくないだろうし、いつまでも鎖につながれているのは可哀想よね。一人一人鎖を外し、清潔そうな部屋に横たわせる。……メイラを除いて。
「辛かったよね、苦しかったよね、分かるよ……私も体感したから。もう二度と、こんなことが起こらないようにするわ。だから…………っ」
残酷な最期を迎えた者たちに、慰撫の念を込めて優しく語りかける。
そして、火のついた木の棒を放った。
「安らかに、眠ってください」
炎は瞬く間に全てを飲み込んでいく。これで、アイツの研究所は消え、悲劇は繰り返さない。
願わくば、犠牲者の苦痛をも全て灰と化して消え去りますように。
♢♢♢
「はぁっはぁっ」
『――化け物っ』
『――気持ち悪い』
「う、はぁっはぁっ」
どこへ行っても私の居場所はない。私はヒトによって創られたキメラなのだから……。
どこに行けばいい? 何に縋ればいい? 私は何のために生きればいいの? こんな姿になってまで生に執着する意味はあるのかしら? こんな、醜いツギハギの身体なんて見たくもない。
我武者羅に走り、いつの間にか薄暗い森に入り込んでいた。強い魔物の気配がたくさん……。もしかして、ここ……あの悪名高い『魔境の森』?
「ぅ、ぁぁあ……‼」
何日も寝ていないせいかな? 情緒がおかしい。
……もう動く気力すらない。このまま目を塞いでうずくまっていたい。
もう、嫌なの。心底疲れた。このまま魔物に食い殺されれば、全ての苦痛から解放され、楽になれる。ならこのまま死んでもいいんじゃない? もう、これ以上苦しみを味わいたくない……。
「メイラ……」
君が居なければ私は、生きる意味がないよ……。
目を瞑れば思い出せる、君の温もり。冷たくなって一生感じられないその温もりに、もう一度だけ触れたい。私の冷たい心をまた温めて……。
「君、大丈夫?」
「…………え?」
顔を上げると周りには植物系の魔物が私の周りを囲んでいた。
敵意はない……らしいけど、分からない。何かの罠? ならもういいよ、抵抗しないからいっそのこと殺して?
「君、新入り?」
「ほんとだ! 初めて見る見た目だけど……ようこそ‼」
「ここは植物系魔物の楽園、魔境の森西側だよ‼」
歓迎、されているの…………?
「ほらほら、歓迎パーティーするよっ」
「わっ」
蔦に引かれ、切り株に腰掛けさせられる。
「私は今代の西の主、妖花女王のエキナセアよ。よろしくねぇ♡」
す、すごい独特な喋り方だわ……。でもなんだか温かみを感じる。
「俺は魔樹木王のデュランタだ。魔境の森の魔トレントを管理している」
「私は寄生花のラフレシアよ。妖花女王の偽物め‼ 今すぐ出てけっ‼」
「コラ、そんなこと言うんじゃありません。皆で仲良くしなくちゃぁ♡」
「皆君のことを歓迎するよ‼」
「わ、私ここに居てもいいの?」
「もちろん‼」
「――っ」
人間でも、魔物でもない私を受け入れてくれるの? 人間は私の姿を見ただけで石を投げてくる、魔物も攻撃してくる。でも……植物系魔物は違うの?
冷たい心が、少しだけ温まる。
「ところでさ、君の抱えてるのは何? もう死んでるけど、食べるの?」
「でりかしー無いなー。きっと友達なんだよ、埋葬なら手伝うよー‼」
埋葬……。
「メイラは……メイラは死んでない…………」
そうだ、メイラは死んでいない、死ぬはずがない。きっと眠っているんだ。とても深い眠りに、、、
「「…………」」
さっきまで賑やかだったのが嘘かのように静まり返る。
「ね、ねぇ、もしかして僕もでりかしー無かった?」
「人のこと言えないねー」
「そうだっ‼ カレンデュラちゃん、疲れたでしょ? 私の家で休んでいきなさい♡」
「カレンデュラちゃん……?」
「君の蔦に咲いている花、カレンデュラに似ているからぁ♡」
ちらっと自分の体から咲いている花を見る。たしかに、カレンデュラに似ているかも。
「その子も一緒に泊めてあげる♡」
「あ、ありがとうございます」
「「これからよろしくね、カレンデュラ‼」」
「ふん、偽物風情が……」
♢♢♢
時間が経てば経つほど、メイラの居ない日常を突きつけられる。辛い……けど、皆が良くしてくれているから寂しくはない。
だから、段々と受け入れることが出来た。メイラは……死んだ。
体がご飯を受け付けられない日も、涙が止まらない日も、西の主のエキナセア様が優しく支えてくれた。
まだ自分のこの身体のことは受け入れられない。見られたくないくらい醜い、酷い姿。それでも…………いつかエキナセア様のように、皆を温かく照らす、聖母のような存在になりたい。
そして、やっとメイラとお別れをする覚悟ができ、エキナセア様と一緒にお墓をたてた。
今までごめんね、メイラ。君の居ない人生が信じられなくて、随分引き留めちゃったね。もうお母さんは大丈夫。まだ辛いけど、皆と一緒に頑張って生きていくよ。君との思い出は、大切な宝物。いつまでも私の愛しい娘だよ。
君に、カレンデュラの花言葉を捧げるわ。
今日は私の誕生日‼
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