第14話 君にカレンデュラの花言葉を①
「ん〜、やっぱりこのスープが一番おいしいっ!!」
「ふふ、よかった」
私たちは夫――お父さんに追われている身、外に出させてあげられない分、ご飯だけでもメイラの大好きなものを食べさせてあげたい思いから作ったスープ。
「お母さんは食べないの?」
「食欲がないの。お母さんの分までたくさん食べてね」
もうお金が尽きそうなこの状況でも、メイラにはお腹いっぱい食べてほしい。その為なら空腹だって我慢できる。
「ねぇお母さん、お願いがあるの」
「なぁに? おかわりなら遠慮しないで」
「そうじゃなくて……あのさ、明日だけでいいからお外に出たいの」
「――!!」
「少しだけでいいの、お願い!!」
ここの新しい生活にも慣れてきた。ここは辺境だし、お父さんもここには来ないだろう。
メイラはもう何週間も外に出れていない。いくら安全のためといえど、あまりにも可哀そうだし、心の健康にも悪い。
なら、私のとるべき選択肢は…………
「……いいわよ。ただし、人目には気を付けてね。お母さんも一緒に行きたいけど……仕事があるから」
「うん‼ 気を付ける‼」
こんな満面の笑顔は久しぶりね、そんなに嬉しかったのかしら?
不安はあるけど……いつまでも娘を家に閉じ込めるわけにもいかないわ。お父さんに見つかっても、また逃げるだけよ。メイラのためなら、私は何でもできる。
♢♢♢
「ただいまメイラ、外は楽しかっ――」
テーブルに置かれた一枚の手紙。
――娘に会いたければ研究所まで戻ってこい
見つかってしまった、あの男に。またしても…………
「メ、メイラッ‼」
あの狂った男は危険よ。急いで戻らなくては、あの忌々しい研究所へ。
娘の無事を祈りながら武器を荷物に詰め込み、暗闇の中へと駆け出す。
♢♢♢
「おかえり、カレン。鬼ごっこは楽しかったかい?」
メイラを救い出すため、戦ったが…………結果は惨敗。でもまだ、まだチャンスはきっとあるはずよ。
「エキューム‼ メイラは無事なのっ⁉」
「まだ……ね。全て君が実験を受け入れてくれれば済む話だ。私もね、実験動物を傷つけるのは嫌なんだ。だから大人しくしていて欲しいんだけどね。暴れなければ私だって君を牢屋に入れなかったし、メイラと離れ離れにはしなかったよ」
「…………メイラには絶対に手を出さないで」
「約束しよう、一応私の子でもあるからね」
メイラのためならなんでもできる。死んでも構わない。
でも、この男が約束を守るかは……信じられない。この薄っぺらい笑顔。吐き気がするわ。
今は厳重な警備、ご丁寧に手錠までついていて、チャンスが無いけど……隙を見て抜け出し、メイラを助ける。私は少しだけど魔法が使える。実験の準備の間、また前みたいに、抜け出してみせる。
「あ、そうそう。私は学ぶ男だからね、前みたいに時間をかけて準備をしていたら逃げられてしまう……だから今から実験するよ♪」
「――⁉」
今から⁉ そんな、それじゃあメイラを救うチャンスがっ‼
「そんなに怖がらないで、愛しのカレン。君の魔物適性率は異常に高いからね、死ぬことはないよ」
この男を愛し、血を一滴でも提供した私が馬鹿だった。その一滴のせいで、、、全てが狂ってしまった。
「おい、カレンを丁重に実験室に運びたまえ」
「「はっ」」
「離せ、離せ――‼」
♢♢♢
「ぁぁぁああああッ‼」
「は、はは……今までの実験動物とは全然違う。ほとんど拒絶反応なしに魔物の肉体を受け入れていくっ‼」
痛い、痛い痛い痛い痛い痛いッ‼
私と同じように隣で横たわっている植物系の魔物も同じ痛みを感じているようで、痙攣し呻き声を漏らしている。
身体の全てが、どんどん”私”では無くなっていく。メイラを撫でた手も、一緒に走って転んだ傷も、綺麗だねって言われた髪も……全て変わっていく。
あの男のユニークスキルによって……この魔物と私が想像を絶する痛みと共に同化していく
「やはり君はスバラシイ」
痛みのせいか、段々と自分が誰だったかが分からなくなってくる。
私は魔物? 人間? 女? メス? メイラ……誰、誰?
――…………――……
「ァ……う、ガァ、ァァ」
「スバラシイ……実験は成功だ‼」
この男は誰だっけ? 私は何?
「私が誰だか分かるか?」
「ぅ、ぁ?」
「ふむ、人間だった記憶は全て忘れたか……むしろ好都合。私の言うことを全て聞くよう調教し、私を馬鹿にした者共を殺しにいくのも一興。さあ、カレン……いや、妖花女王よ、ついてこい」
♢♢♢
「妖花女王、殺せ」
――ザシュ
「妖花女王、殺せ」
――ザシュ
「妖花女王、殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
「殺せ」
――――…………
「お母さん、お母さん‼ うわぁーん」
「ミーナ、逃げなさい」
「嫌ぁだ、一緒に逃げよーよ‼」
「――っ、無理よ、いいから言うこと聞きなさい!」
「~~! ば、化け物め! お母さんを殺さないでよ‼」
「――‼」
こ、コドモ? オ母さん? 私にも、誰かイトオシイ子がいたような…………
「――ガ、ァァあ」
頭が、痛い!
「何をやっている、殺せ! この村の全てを破壊しつくせ‼」
殺せ、殺せ、いや違う、殺しちゃダメ、ダメ。何か大事なことを忘れているような……
「め、メ……イラ…………」
思い出した。私の最愛の娘メイラ。
私は今まで何を――っ
破壊された村、力なく倒れ血を流す人々、泣きわめく子供たち、むせかえるほどの血の匂い……これを私がやったの?
「妖花女王、早く殺――」
「お前……今までよくも!」
「ぐ――⁉ ぉ、お前、記憶を……」
「答えなさい、メイラはどこっ」
あれからどれくらい経った? 一日? 一週間? 一か月? それとも、もっと長い間……?
「く、はは。メイラか? お前一人だけだと可哀そうだから、大好きなメイラも魔物にしておいてやった」
「…………は?」
「ただ、私の血が混じっているせいか、失敗作になってしまったがな。もう死んでいるかも――」
――ぐしゃ
「ひっ」
さきほどの子供の顔に血がかかり、恐怖で顔が歪む。その瞳に映る私は……まさに化け物だった。
♢♢♢
「メイラッ‼」
あの村で生き残っていそうな者を助けた後に、急いで研究所に戻る。
村で、私は自分が人間ではなくなってしまったことを痛感した。私のせいで家族、友達を失った者は罵詈雑言を浴びせてきた。当たり前だ、これは私がしてきたこと。これが私の罪。せめてもの贖罪に、救える者は救わなくてはいけない。
ただ、メイラとそう変わらない歳の子に『化け物』と言われるのはかなり心にきた。
研究所で働いている奴はクズだ、だから容赦なく殺す。
何十もある牢屋には、異形の姿となり、朽ちている者たちがたくさんいた。その度にメイラではないかと恐ろしくなった。【真実の鑑定】スキルを使用し、メイラではないかを判別をする。何度も何度も、あいつのせいで不幸になった人々を見て…………やっと見つけた。
スキルを使わなくても分かる。あれはメイラだ。
栗色でくせっ毛の長い髪/煤汚れて傷んだ長い髪
好奇心いっぱいでいつもキラキラと輝いていた瞳/光を失い、焦点のあっていない濁った瞳
小さくて、細くて、いつもお腹いっぱい食べさせてあげられなくてごめんって思っていた。その腕はもう失い、魔物の腕となっていた。
全身が……私と同じように、自分自身ではなくなっていた。
私が、血を一滴でもあいつに渡してしまったから。メイラまでも巻き込んでしまった……。
「ぁ、ぁぁ……メイラ…………」
「ぉ、かぁさ、ん?」
「メイラッ⁉」
ゆっくりと、メイラはこちらを向き、口を開く。
「あのね、ぉかぁさんに……お花ヲあげようトした、ノ」
もしかして、攫われてしまった日のことを言っているの……?
「いツもメイワクかけて、ゴメンネ、アリガとうって……つたえタカッタ、ノ」
「もう、いいのよ。喋らないで……」
悪いのは全て私。謝るべきなのは私の方よ……。
「お外デテ、ゴメんなさい。ぉかあさ、ん、ダイスキだ、ヨ……」
「ぁ、ぁああ…………」
涙が止めどなく溢れ、
――”愛している”
その一言が出てこなかった。
メイラはその言葉を最後に、事切れた。
推しの写真、見てないとやってられなかったわ。
みんなは言えるうちに、好きな人にしっかり気持ちを言おうね。後悔する前に。
今回すっごい頑張ったんで、評価お願いします‼(毎回恒例)




