第5話 最強姉受付嬢の戦い
「こ、こんな事が……」
バルザーは愕然としていた。
自身が召喚した軍勢はレム家の面々により壊滅的な被害を被っていたのだ。
ダークサイクロプスは父親であるナナシとの殴り合いに負け倒れ込んだ。
エビルトロルは四女メールの闘気を纏った拳を受け撃沈。
ギガゴーレムは末妹リムによってメイスで滅多打ちにされた上で砕かれ沈黙。
空中・地上の雑兵たちもリゼット、リリィ、アリスによって壊滅していた。
「それじゃあ、後はあなたを倒せば終わりって事ね!」
「くく……部下を倒したくらいで、それくらいでいい気になるなよ、人間風情が!!」
叫ぶと共にバルザーがローブを脱ぎ捨てる。
強固な鎧を纏い幅広の剣を腰に差した骸骨勇者の姿がそこにはあった。
「進化した死神剣士の力を見せつけてやろう!!」
「望むところよ。みんな。手出しは無用。こいつはあたしがやる!!」
ケイトがばるだー目掛け飛び込みガッツリと組み合う。
「ほう、女の分際でこの私と力比べか!!」
嘲笑するバルザーだがその様子を見ていた次女リリィは声を上げる。
「あれは、『鑑定のロックアップ』!?」
「え、リリィ姉知ってるの?」
「私が鑑定魔法と組み合わせて編み出した技よ。ああやって組むことで相手の実力を推し量るの。まさかケイトも出来るとは……」
魔導士が敵と組み合うとか一般常識的にはあってはならない事だ。
但し、レム家の子ども達は割と脳筋な所がありこういう会話も普通に成り立つのだ。
「ふふっ、あんたに出来る事をこの優秀な姉が出来ないはずないでしょ!なるほど、大層な口を利くだけあってなかなかの手応えじゃない」
「その余裕面も、いつまで出来るかなぁー!!」
バルザーは組み付いたままケイトを引き寄せると腹に蹴りを入れその後、投げ飛ばした。
そして剣を抜くと大きく振りかぶり横なぎに斬るかかる。
ケイトは大きく跳躍し、バルザーの頭上を越えながら回避。
素早く振り返ったバルザーは着地したケイトを狙う。
ケイトは連続して振るわれる斬撃を避け続け、バク転して距離を取る。
「こいつ、本当に魔導士か!?」
「魔導士は格闘が苦手って誰が決めたのかしらね!」
「なるほど!それは確かにそうだ。非礼を詫びようじゃあないか!」
バルザーが地面に勢いよく剣を付き立てた。
すると地面を魔力が奔りケイトに直撃する!!
「!?」
とっさに障壁を張るも完全に無効化は出来ず動きが鈍ったところへ地面から剣を抜いたバルザーの突きが左わき腹を掠り血が噴き出す。
「ちぃっ!!」
「確かにやるようだが一度崩れ出すとそこから一気に崩されてしまう。それが人間の限界というものだ!!」
「そうやって決めつけてしまう辺り、あんたの狭量さが空けて見えるのよね!」
その頃、祖父ハーケンは娘アンジェラに魔力を注がれ意識を取り戻していた。
「ア、アンジェラ……」
「父さん!良かった。意識が戻ってきたのね!」
「……済まなかった。儂は、ちょっとでも生活を楽にさせてやろうと思ってダンジョンに潜っていたんだ。だけど罠を踏んでしまって下層に落とされて……それで出て来るのに時間がかかってしまった。急いで帰ったがその時には母さんもお前も居なくなっていて……」
ハーケンは悔いた。
家族の傍に居ればこんな事にはならなかった。
きっと自分が家族を捨てたと思われているのだ、と。
謝りたい。そして出来る事ならやり直したい。
彼は妻と娘を探す為、国中を旅して回った。
だが不幸なすれ違いが何度も起き、結局再会することは叶わず彼は旅の中で未練を残したまま行き倒れてしまった。
「父さん……」
「儂はダメな父親だった。恨まれても仕方が無い。だけどこれだけは信じてくれ。お前達のこと忘れた事は一日たりとも無かった。だからお前が家族を持って子ども達に囲まれていると、幸せだと知れて本当に良かった……」
「わかってるよ。父さんを恨んだ時もあったけど…………だけど、父さんの事、大好きだから」
ハーケンは微笑むとアンジェラの手に指輪を持たせた。
「これは儂がダンジョンで手に入れた魔道具だ。お前には魔法使いの才能があったしそれが何かの役に立てばと思ってこれだけは売らずにずっと持っていたんだよ……済まなかったな……これ以上はもうう……」
静かに目を閉じたハーケンの身体が光となって消え天に昇っていく。
「父さん……」
アンジェラは父から手渡された遺品の指輪を握りしめると敵の首魁と戦う娘を見る。
そして立ち上がると大きく振りかぶり。
「ケイト!これを使いなさい!!」
指輪を娘目掛け投擲。
ケイトは攻撃を避けながらそれを受け止める。
「これは……」
「それは父さんから……あなたのお祖父さんから託された想いよ。あなたが使いなさい!!」
ケイトは指輪を嵌めると更に蝶が刻まれた彫像型魔道具を取り出し起動させる。
「獣纏――ホーリーパピヨン!!」
ケイトの服装が鮮やかな翅の蝶が刺繍されたドレスへと変化。
更に手には一振りの剣が握られていた。
剣の名はオートクレール。ダンジョンの奥底に眠っていたSランクの特殊武器である。
「ほう、武器を持つか。面白い」
「最初に言っておくけどあたしの翅は彩が違うわよ。そして、ここからはあたしのターンよ!!」
ケイトは剣を構えバルザー目掛け駆けると敵の斬撃を避けながら舞う様に斬りつけていく。
十回に及ぶ連続斬撃の後、背を向けたケイトに対しバルザーが叫ぶ。
「バカめ!敵に背を向けるなど愚劣の極み!!」
ケイトは背後から振るわれた剣に対し飛び上がり更に自分を斬ろうとした刃を蹴り上昇。
その場で回転しバルザーに対し自由落下で剣を叩き込んだ。
「ぐっ!」
左半身に大きな斬り傷を作り、後退するバルザー。
「あたし相手にその距離は愚劣の極みね」
その場で剣で宙を何度も振るうと五つの魔法陣が発生。
「獣纏中限定だけどね、あたしは普段使えない基本属性の魔法を使うことが出来るのよ。今回は全部、光属性!」
「な、何をするつもりだ!?」
「あんたに、懺悔の時間は与えないわ!」
ケイトが剣で魔法陣を斬っていくと光属性の魔法弾がバルザー目掛け射出される。
更にケイト自身も地を蹴り魔法弾を追いかける様にバルザーに迫る。
「蝶式奥義ダイナミックジャッジメント―――ッ!!」
魔法弾がバルザーに直撃したところへすれ違い様にケイトが力の限り斬りつけた。
攻撃が炸裂するとバルザーの鎧と頭部にヒビが奔りあちこちが砕けていく。
「に、人間ごときが~~ッ!!」
ゆっくりと仰向けに倒れていき地面に叩きつけられた鎧は砕け散り、髑髏も二つに砕けた。
それ、即ち戦いが決着したということである。
「よっしゃ、姉ちゃんの勝ちだ!!」
メールの言葉にケイトは頷き魔道具を解除すると両手を腰に当てかつてバルザーだった破片を見下ろした。
「これが、人間の力よ!!」
□
数分後、船上から少し離れた場所ではバルザーが復活していた。
ケイトにやられる直前、窮地を察した彼は自分のコアだけを魔法で避難させ周囲の魔力を寄せ集め何とかボディを再構築したのだ。
力の大半は先ほどの戦いで喪ったがコアさえあれば負けではない。
「くそっ、やり直しだ。力を蓄え、いつかあの女に復讐してやる!!」
そんなバルザーに近づく影があった。
「悪いがそれは許されないぜ」
「誰だ!?」
声の主は鎧を纏った筋骨隆々な闘士だった。
顔は仮面で完全に隠れている。
「名前?そうだな……デュランダルとでも名乗っておこうか」
「あ、怪しい奴め!!」
バルザーは闇魔法を放つがデュランダルはそれを腕で弾くとバルザーに組み付く。
そして自分の肩の上に仰向けに乗せ、背中を弓なりに反らせると勢いをつけて膝をつく。
衝撃により背中・腰・首にダメージを与えるとホールドを解いた。
「こ、こいつ……」
「お前は本当に喧嘩を売る相手ってのを間違えたな。姉さん達に害を為そうとする奴を放っておくわけにはいかない!」
言いながらデュランダルは左腕を大きく掲げる。
その左腕がぼわーっと光を放ち始める。
「ね、姉さん!?まさか貴様は……」
「推理はそこまでだ……デュランダルボンバーーーッ!!」
起き上がってきたバルザーに光を纏った左腕から放たれる強烈なラリアットが炸裂した。
「わ、私が……そん……な……」
全身、そしてコアにひびが入り今度こそバルザーは完全な死を迎えた。
「やれやれ、しぶとい奴だったな……」
デュランダルは呟くと仮面を取り外す。
その下にあったのはレム家長男ホマレの顔であった。
神から与えられたスキルで天才と呼ばれていたが愛する家族を救う為にに全てのスキルを手放し凡人となった男である。
「影ながら見守ってるぜ、姉さん達」
ホマレはそう言うと再び仮面を被り、その場を後にしたのだった。




