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第4話 レム家、大暴れ祭り

 『隠者の煙』は煙で相手の視界を遮ると同時に短距離転移魔法で移動する技術である。

 ケイトはそれを連続で発動させることで家から離れていき街外れにある旧市街地まで来た。

 ここは現在開発をし直しており住民はいない。


「……ここまでくれば大丈夫ね」


 ケイトは周囲を索敵し人の気配がない事を確認する。


「……あたしさ、お祖父さんに出会えて凄くうれしかったのよね。お母さんと仲直りさせてあげられると思って舞い上がってた」


「嫌な思いをさせて済まなかった。しかしまさか娘にあそこ迄嫌われてるとは思わなかった…………」


「だからなのかな。ちょっと冷静じゃなかったと思う。冷静に考えることが出来れば気づくはずなのにね」


 ケイトは祖父に背を向けたまま続ける。


「ライラおばあちゃんってね、もう腰が曲がってるんだ。年齢も80に近いの。でも……お祖父さんはそこまで歳、取ってないよね?」


「えっ……」


「ねぇ、あなたは『何』なの?」


 ケイトは振り向き、祖父を睨みつけた。

 ズズッ……

 祖父の影からゆっくりとローブを羽織った骸骨の魔人が這い出して来た。

 

「グリムリーパー……アンデットタイプの上級モンスターね」


「モンスター?ふふ、浅慮な人間にはそう映るのだろうね。我が名は死神バルザー。愚かな人間の魂に救済を与えている救いの神さ」


 バルザーは呆然と立ち尽くしているハーケンの肩に手を置く。


「私はこの男の願いをかなえてやっただけさ。妻と娘に一目会いたい。それまでは天には還れない。それが彼の願いさ」


「…………それじゃあやはり、お祖父さんは」


「ああ……思い出した。儂はり愛らとアンジェラを探す旅の途中で事故に遭ってそれで……ずっとそこから動けなかったところをこの方に動けるようにしてもらって……」


 生気が抜けたようにぶつぶつと祖父が呟いていた。

 彼はすでに死んでいたのである。

 だが妻と娘への未練で天に還る事が出来ず留まっていた所をこのバルザーに目をつけられアンデッドの様な存在に変えられケイトの前に現れたのだ。

 

「あたしの所に現れたのは、『縁』の問題ね。あたしが母さんの血を引いているから、気配が近いあたしの所に現れた。それで、そうやってあなたは契約したしもべの大切な人の魂も奪おうってそういう魂胆なのね」


「ほぅ、中々に勘のいいお嬢さんだ。なぁに、ちょっとした人助けの報酬さ。死者も、遺された家族も涙の再会が出来る。私は魂を貰い受ける。両方ハッピーじゃないか」


「…………ひとつ確認。その人の『縁』で魂を奪いに来たのはあたしが最初?」


 もし高齢の祖母の所へ先に現れていたら。

 ケイトはそれを危惧していた。


「ああ、その通りだ。安心したまえ。後で他の家族も再会させてあげようじゃないか」


 どうやらひとまずは安心だと小さく息を吐く。


「あなた、さっきのお母さんを見てなかったの?雑い死神ね。あんた程度でお母さんの魂を狩れるはずが無いでしょう?そして、あたしの魂なんてもっと無理よ」


「どうだろうね。私はグリムリーパーという種族の中でも特異な存在。君達の認識など及ばぬ力を持っている!」


 バルザーが手を振り上げると魔法陣が展開し小さな翼を生やし短剣を持った人型の悪魔が3体現れた。

 インプと呼ばれる小悪魔型モンスターだ。


「モンスターの召喚、ね。でもたかがインプ程度で誇られても……」


「言っておくがただのインプじゃない。私の魔力により進化したカオスインプ。所持しているスキルは『バリアチェンジ+』。時間経過と共に属性耐性が変わり、どの属性を吸収するかは完全にランダムだ。君みたいな魔法使いでは対処がしづらい相手だろうね。さぁ、行け!!」


 主人の号令と共にカオスインプたちがケイト目掛け襲い掛かる。

 ケイトは懐からマジックダガーを取り出しそれを迎え撃った。


「無駄だ!こいつらは『バリアチェンジ+』を持っている上に魔法防御も高い。たとえ無属性の魔法剣であったとしても傷をつけるなど……」


 勝ち誇るバルザーの眼前で、1体のカオスインプが顔面にダガーを突き立てられ崩れ落ちた。


「えっ?」


「というわけで物理攻撃で倒したわ」


「!!?」


 更に残りのカオスインプにも攻撃を行う。

 1体は首に飛びついてそのままへし折り、もう一体は顔面にパンチを叩き込むと口から毒魔法を流し込み悶絶させた上で倒してしまったのだ。


「折角の『バリアチェンジ+』もネタ晴らしをしたら台無しよね?」


「くっ、何だあの凶悪な戦い方は!?貴様魔法使いだろう!?人間の分際で私を愚弄するとは!そこまで言うなら私の本気を見せてやろう。出でよ、わが最強の軍勢よ!!!」


 バルザーの号令と共に無数のモンスターが召喚された。

 空には15体のランサーゴイル。

 地には合わせて30体のハイスケルトンとカオスインプ。

 更にはダークサイクロプス、エビルトロル、ブラックゴーレム。

 いずれも中級~上級のモンスターばかりだ。 


「旧市街地を選んだの正解ね。でも………はぁ、情けない話だわ」


「ん?」


「お祖父さんの違和感に気づかず家に案内して家族を危険に晒してしまった。だから責任を取ってあたしが対処しようと思ったけど……予想より早く見つかっちゃったのね」


「どうしたのだ?貴様、この軍勢を見て恐怖したか?」


「いやいや、あれよ」


 空を指さす。。

 何やら悲鳴を上げながら飛び回りガーゴイルと切り結んでいく女性が居た。


「うぇぇぇ、飛天の装衣使うの20年ぶりくらいだから使い方忘れたぁぁ」


 アリスの母親であるリゼットだ。

 忘れたと言う割には中々上手に飛んでいた。


「な、何だあの珍妙な生物は!?」


 呆れているバルザー目掛け飛んできた鎖がハーケンを絡めとるとそのまま引きずりながら救出をする。鎖の先に居るのは三女アリスだった。


「ほい、パス!」


 アリスはハーケンを駆け付けたアンジェラにパスするとそのまま地上の戦力相手に刀を抜いて斬りかかっていく。


「こらアリス!お祖父ちゃんを投げるんじゃありません!!」


 ハーケンを受け止めたアンジェラはアリスを叱りつつ彼に魔力を注ぎ始める。


「ア……アンジェラ」


「念話で事情は聞かせてもらったから……お父さん、しっかり!」


 魂としては大分衰弱していて人格が消えかけているが魔力を注げば何とかなるかもしれない。

 そう考え、アンジェラはありったけの魔力を注ぐ。

 そのアンジェラの前に同じく駆けつけたメイシーが大楯を構えて壁を作った。 


「ふふ、次から次へと哀れな生贄が集まって来るなぁ」


「いや、もうこの段階で割と詰み状態になりかけてるんだけど……わからないのかしらね」


 現状、既に国内最高クラスの魔導士が2人そろっているしアリスは史上最年少の剣聖だ。

 リゼットとメイシーについても戦力でこそ見劣りするがその辺の冒険者よりは腕が経つ。


「何を言っている。戦力差で言えばまだまだこっちが上だ!」


「いや、ここから本気で詰み始めるから」


 言っている横から嬉々としてエビルトロルに飛びかかる女性が居た。

 ケイトとは母親が同じである四女のメールだ。


「よっしゃ!この大きくて強そうなのはあたしが貰いッ!!」


「あんたならそいつを選ぶと思ったわ」


 格闘バカの妹がエビルトロル相手に立ちまわり始めたのを確認し今度はダークサイクロプスに目をやる。

 邪悪な一つ目巨人の前にいつの間にか仁王立ちしていたのは父親であるナナシだ。


「それじゃあ俺はお前さんを相手してやろうか、一つ目君」


 言い終わると共に父親と一つ目の邪巨人が激しく殴り合いを始めた。

 どうもサイクロプスは空気が読める子らしく一発殴られたら一発殴り返すという殴り合いをしていた。


「あらあら、随分と硬そうで大きな敵が残りましたわね。嬉しい限りです」


 ギガゴーレムを見上げるのは末妹のリムだ。

 メイスを手にしたヒーラー妹は舌なめずりをしながら言った。


「ぶっ潰しがいがありそうですわ!」


「あの子って硬いもの壊すの好きなのよね……さて、そろそろ来るかな」


 ハイスケルトンやカオスインプと戦うアリスに加勢する者が居た。

 メイシーの娘で次女のリリィである。


「ちょっとアリス、私の分残してる!?」


 敵に合わせ武器を錬成しながらリリィは格闘義を交え敵を屠り始める。

 時折錬成した武器を妹に手渡し、たりもしていた。


「リリィ姉、お母さんの方もちょっと助けてあげて」


 アリスは上空で悲鳴を上げながらフラフラ飛びつつきっちり敵に対処する母親を指さす。


「いいわよ!事務仕事ばっかだったからこんな荒事久しぶりっ!!」


 リリィは弓を錬成してガーゴイル達を狙撃。

 更には飛び上がって1体に関節技を掛けながら落下してくるという暴れっぷりを見せた。


「うん。流石リリィ。生き生きとしてるわね」


「な、何だこいつら……」


 次々と集まるわけのわからない戦闘力を持つ連中にバルザーは呆然としていた。

 遮る敵が居なくなったのを確認してケイトが彼へと近づいていく。


「これがあなたが手を出したレムの家族よ。運が無かったわね。そして……次はあなたの番。覚悟してもらうわ!」

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