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第2話 窓口にやってきた男に焦る姉

「運命の出会いかぁ」


 朝、末妹にしてもらった占いの結果を心に秘め、ケイトはウキウキしながらその日の業務に入った。

 今日、彼女が担当する業務は新規依頼の受付。

 

 依頼者からの依頼を聞き取り用紙に記入して依頼書に書き起こしていくというものだった。

 彼女は思った。もしかしたらこの業務中に運命の出会いがあるかもしれない。

 となればきちんと気合を入れる必要がある。

 勿論、業務に手を抜く事などあり得ないがそれとは別の気合いだ。


 ただ、依頼受付窓口に来る客に若い男は少なかった。

 基本的に若い男なら冒険者として自分で問題を解決に回ったりできるのだ。


 いや、もしかしたらどこかの元貴族の坊ちゃんが依頼をしに来るかもしれない。 

 そう思ったが元貴族の坊ちゃんと聞くとどうしても妹の彼氏が頭をよぎる。

 元々は自分が好きな相手だったが彼は妹を好きになってしまった。


 まあ、脱ぎ癖がある『変態』だったから結果としてはお断りだった。

 そして心の傷を負った妹を完全ではないにせよ立ち直らせてくれたのだ。

 だからあの二人がくっついたことに異論はない。


 お願いです。もし素敵な相手が来たら『変態』じゃありません様に。

 そんな事を心の中で天上に住まう女神様に祈るのだった。


 そんな事を考えているとひとり、若い男性が来た。

 彼がもしかしたら運命の人とやらだろうか?


「あ、あの……えっと……」


 おどおどとした男性だった。

 人と話慣れていないのだろうか。これは聞き取りをするのは骨が折れそうである。

 何度も詰まりながら話す男性の話を根気強く聞きながらまとめると……


「えーと……居なくなったネコ探しということですね?それで、ネコの種類は?」


「ヴィオールショートヘアです…………」


「ヴィオールですか。人気のある可愛らしい種類ですよね」


「…………はい」


 とりあえずこの男性が運命の人というわけでは無さそうだ。

 ケイトは少し残念に思いながら聞き取りを終え男性を送り出す。


 ふと思ったが自分はどんな男性が好みなのだろうか?

 正直、自分の好みがよくわからない。

 やはり父親の影響もあるからそこそこ強い男性だろうか?

 だがよくよく考えれば次女であるリリィの彼氏は弱い部類に入る。

 格闘戦など挑めばものの数秒でノックアウトできるだろう。

 

 アリスの彼氏というのはどんな男だろうか?

 その辺が分かればリリィとの間で共通項が出来、少しは方向性がつかめるかもしれない。

 否、三つ子の様に育った姉妹とはいえ価値観は違うのだから参考になるとは限らない。


 そんな風に不毛な事を考えながらの午前の業務が終わる。

 昼休みを挟んで臨むのは午後の業務。

 少し眠気が出てくるこの時間帯に少し歳を取った男性が窓口を訪ねて来た。


(うーん、イケてるおじさんって感じだけど流石にこの人はねぇ)


 何せ見た感じ父親より少し上くらいの年齢。

 愛に年齢は関係ないというが流石にこれは色々とダメだろう。


 いつも通り話を聞いていく。

 どうやら彼は人探しの依頼を希望している様子だった。

 残念な統計だが人探し系の依頼はあまり人気が無いので中々解決しない。

 だとしたら依頼を出した後、リリィがやっている猟団に回したら話は早いかもしれない。

 

 荒事もするが、人助けをメインとしている珍しい猟団なので力になってくれるだろう。

 そんな算段を立てながら聞き取りで情報を集めていく。

 だが聞いてみると依頼は思った以上に難易度が高そうであった。


 彼が探しているのは行方不明になった妻と娘。

 今から25年くらい前に出稼ぎで長期間家を空けていて何とか帰ったら二人の姿は無かったという。

 街の者に聞くと妻は何処かへ旅に出て、娘は男と一緒に駆け落ちしたらしい。

 それ以降、各地で二人を探し続けているが見つかる気配が無いという。

 しかしか駆け落ちとはまた中々に大胆な娘さんだと感心した。


 妻の方は自分と同じくらいの年齢になるのでもう生きていないかもしれない。

 だが娘の方は50手前なのでまだどこかで生きているかもしれないとのことだった。

 

 四半世紀が経っていて一向に見つからないのならもしかしたら二人とも死んでいるかもしれない。

 あるいは外国へ行ってしまったか。そうなると追跡の難易度は格段に上がってしまう。

 ずっと探し続けた男を哀れに思うがやはり解決は中々難しいだろうと、ケイトは思った。


「頼みます。家族に一目でいいから会いたい。儂の愛するライラとアンジェラを、探してください!!」


「ん!?」


 今、何か聞いた事がある名前が出て来た。

 自分とも非常に縁のある名前だ。

 だが世の中には同じ名前の人間というものが幾人もいるものだ。


「えーと、すいませんがあなたのお名前を伺ってもいいでしょうか?」


「儂はハーケン。レム・ハーケンと言います」


 なるほど。自分と同じ家名だ。

 だが世の中には同じ家名というものが無数に存在する可能性がある。

 貴族の名家とかで無いなら尚の事だ。

 レム・ハーケン。その名を心の中で復唱し、ある記憶とすり合わせる。

 

 幼い頃、自分の祖父はどんな人だろうかと思った事があった。

 リリィの祖父に当たる人物は既に故人であったし、アリスの祖父は大国の王だったがこれも病没している。

 ならば自分の祖父、つまり母であるアンジェラの父親はどうなっているかと尋ねてみた。

 すると母は酷く不機嫌になり、『あたし達を捨てた男』と吐き捨てた。

 母は怒るとどうしようもなく怖い人なのでその時は背筋がぞっとしたものだ。

 その時口にした祖父の名前が確かハーケン……


 改めて彼の依頼内容を家族の歴史とすり合わせてみる。

 確か祖父は出稼ぎの為に故郷の街を後にし、行方不明になっていた。

 その後、祖母が病気になり困窮している所に父が現れ祖母を救った。

 この時の出来事を期に母は父に恋心を抱く。

 元気になった祖母はその後祖父を探しに旅に出る事となった。

 母は現在我が家のメンバーであるリゼットやメイシー、そして父らとパーティを組み、同居していたがやがて何やかんやあって街を離れることになった。


 これは疑う余地は無いだろう。

 目の前にいる人物は自分の祖父である。

 駆け落ちした娘というのは自分の母だ。

 まあ、実際は駆け落ちでも何でもないのだが……


「えーと……この依頼ですが申し訳ありませんが受付は出来ません」


「な、何故ですか!?お、お金ならきちんとあります。ですから何とかお願いします。大きな街のギルドに依頼が乗れば何か手がかりが見つかるかもしれません!!」


「いや、えーとですね…………」


 どう切り出したらいいだろう。

 とりあえず自己紹介をしてみよう。


「あたしの名前なんですが…………はじめまして、レム・ケイトリンといいます」


「え?」


 目を丸くする祖父。


「奇遇ですな。儂もレムです」


 祖父は意外と鈍い人の様だ。

 仕方なく孫娘は続けた。


「あなたが探している、レム・ライラとレム・アンジェリーナは…………私の祖母と母です。その……お祖父さん」

 

「えっ……」


 見つめ合う祖父と孫。

 そして……


「ええーーーっ!?ま、孫ォ!?」 

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