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第1話 妹が朝帰りして焦る姉

 それは小鳥のさえずりが聞こえる穏やかな朝の事だった。

 レム家の長女、レム・ケイトリンは庭の植木に水やりをしていた。

 職業は冒険者ギルドの受付嬢。24歳。独身。


 レム邸の庭には元々あった植木の他、末妹であるリムが植えた花等が多数あり水やりも一苦労だ。

 本来はリムの仕事だがたまには姉として代わりにやってあげてもいいだろうと早起きしたケイトは水やりをしていたのだ。


 そんな中、三女のアリスがあくびを噛み殺しながら帰宅して来た。

 そう言えば昨夜は帰って来ていなかった。

 さほど珍しいことでは無く、どうせまたどこかで酔い潰れていたのだろうと考えた。

 

 彼女は酒癖が悪く定期的に酔い潰れて家族が迎えに行ったりどこかで眠って帰ってきたりしていた。

 仕事で外国へ行く事もあり、家に居ない事も多いのでさほど気にはしていなかったが……


「ちょっとアリス。あなた朝帰りするとか何を考えてるの?」


「うぇぇ、ただいまケイト姉。悪いけどちょっとボク疲れてるんだよね……」


「疲れてるって……今度はどこのお店で酔い潰れてたの?支払いはきちんとしたんでしょうね?いい加減にしないと体壊すよ?」


 我ながら小うるさい姉だと思いつつもやはり妹の事が心配なので心を鬼にして問い詰める。

 そんな姉にうんざりした様子でアリスは話を途中で切り上げ家の中に入ろうとする。


「ちょっとアリス!あなた、いい歳なんだからいい加減……」


「あーもう、ケイト姉はうるさいなぁ。昨日は男の人のとこにお泊りだったの!それで、あんま寝てなくて……ちょっとは察してよね!!」


 妹の吐き捨てた言葉に姉は凍り付いた。

 頭の中で先ほどの言葉を反芻する。

 男の人、お泊り……妹が、お泊り。

 しかもあんまり眠れてない?

 朝帰り、お泊り、男の人、眠れてない、お泊り……

 アリスが家に入ってもケイトは凍り付いていた。


「あら、ケイト姉さま、おはようございます。私の代わりに水やりをしてくださったのですね。ありがとうございます……あら、姉さま?」


 しばらくして出て来た末妹のリムがケイトの前で手をかざしてみるが反応はない。

 つんっとかるく額を押してみると少しのけぞりそして…………

 反動で前のめりに倒れた。

 格闘技の試合などでノックアウトになるパターンの倒れ方だ。


「うわぁぁぁっ!ケ、ケイト姉さま!?」



「ケイト、あんたは朝から何やってるのよ……前のめりに倒れるとか顎に一撃でも食らったの?」


 居間でリムに包帯を巻いて貰う姉に、次女であるリリィがあきれ顔をする。


「あたしがそんな大事な所に食らうわけないでしょ?」


「それもそうね。それじゃあ何よ?」


「ねぇリリィ。あたし達姉妹よね?同じ日に生まれたわよね?」


 長女であるケイト。

 次女であるリリィ。

 三女であるアリス。

 この三姉妹は父親の無計画さもとい母親達の計画性によって三人が同日に生まれる事となった同い年の姉妹だ。

 

「そ、そうね。それが一体どうしたのよ?」


「それじゃあ何で!?何であなたとアリスには男が出来て!このあたしにはまだなのよ!!?言っとくけどあたし受付嬢よ!?ギルドの受付嬢ってモテる職業No1なのよ!?」


 涙目でまくしたてる姉に憐みの視線を向ける妹達。


「というか、今さり気なくアリス姉様に男が出来たって……」


「まあ、別に不思議じゃないでしょ」


「何でよ!何であんたはそんな風に冷静なの!?やっぱりあれ?ウチで一番最初に彼氏持ちになって結婚も考えてる余裕って奴!?」


 面倒くさい姉だ。

 リリィは心の中で呟いた。


「あのねぇ。私達だっていい歳なのよ?そりゃ彼氏が出来ることだってあるじゃない。24と言えば母様が私を産んだ年齢なわけだし」


「そうだけどね、あたしは全然男っ気が無いのよ。この前合コンだってしたのに、全然ダメだったのよぉ!!」


 合コンでもやはり受付嬢と言えば取り合いになるほど人気の職業だ。

 それで全然ダメだったというのはどういう事だろう?


「それは、理想の男が見つからなかったの?」


「違うわ。誰もあたしを相手にしなかったのよ!!」


 妙な事だとリリィは考える。

 贔屓目に見てもケイトは美人である。

 職業も男性に人気のある受付嬢だ。

 年齢も24歳。この国の平均的な結婚適齢期は29歳くらいまでなのでまだ若い部類だ。

 となるとこれは何か他の部分に問題があるのではないか?


「どんな合コンだったのよ?私、そういうのには明るくないけど客観的に何か気付けるかもしれないわ」


「うーん……普通よ?まず最初に自己紹介して」


「どんな自己紹介したの?」


「だから普通よ。名前と年齢でしょ?後は自分の所持スキルとか」


 妹二人が顔を見合わせる。


「あんた、まさか自分が持ってるスキルをきっちり全部言ったんじゃないでしょうね?」


「そりゃそうでしょ?武器適性も紹介したわ」


 末妹が額に手をやりため息をつく。

 ケイトの持っているスキルや武器適性の一部を紹介するとこうなる。


 レム・ケイトリン

 【武器適性】

 剣・・・B

 槍・・・B

 斧・・・A+

 杖・・・A+

 魔・・・S 

 【所有スキル】

 魔法剣+

 見切り+

 格闘の達人

 ホールド上昇EX

 ほとばしる毒

 竜鱗の障壁

 鍵開け+

 

 とまあ、妹達がパッと思いつくだけでもこれだけ物騒なものが並ぶのだ。

 特に『ほとばしる毒』なんて危険極まりない。

 毒系の魔法は通常チャージ時間なるものが存在するがこのスキルを持っていると即構成し発射できるのだ。実に物騒だ。

 そりゃ聞くだけで『関わり合いにならない方がいいヤバイ奴』認定されてしまうだろう。

 どんな男性が参加したかは知らないが多分この自己紹介はパーティ勧誘でしか役に立たないだろう。


「お姉さま。合コンであるなら料理スキルだとかそういう女性的なスキルなどを紹介すればいいのですよ?戦闘系スキルは合コンの世界では不要です」


「戦闘系スキルって生きていくのに大事なのに?」


「どこの世界に毒をチャージなしで発射することを自慢する女なんか口説こうとする男がいるっていうのよ。少し考えればわかるでしょ?」


「ううっ…………わかんにゃい」


 非常に残念な事だがこの姉は恋愛力がゼロだった。


「お姉さま。元気をお出しになってください。それじゃあここはこの私がお姉さまの未来を『占って』みましょう」


 リムはカードの束を取り出す。

 彼女は占いが好きで本などで読む他、自信でも占ったりする。

 しかもこれが結構当たるのだ。

 

 カードをシャッフルし分けた山からカードを引いていき並べる。

 そして……


「あらお姉さま、近々『運命の出会い』があるという暗示が出ていますわ!!」


「う、運命の出会い!?」


 ケイトも妹の占いの的中率は知っているので大きな反応をする。


「しかも、その相手から大事な何かを贈られるらしいです。これはもしかしたら……」


 大事な贈り物と言えば丸くて小さいわっかの形をしたものが思い浮かぶ。


「ま、まさか大逆転のスピード結婚!?」


「やりましたね!流石はお姉さま!!」


「ありがとうリム!あんたはわかってくれると思ってたわ!!」  


(いや、そうだとしてもスピード過ぎでしょ…………それでいいの?)


 抱き合い喜ぶ二人だったが何か嫌な予感しかしない次女がそこには居た。

 彼女の勘も、また結構な確率で当たってしまうのだった。

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