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リューブラント幻想  作者: まいるまいる
【3】母とコーヒーとリハビリテーション
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【3】 ~2/3

 病院に運び込まれた際の精密検査で、大方の怪我や異常は調べられ、体の機能に問題が無い事はわかっていました。

 

 そのため今日と明日は主に、寝たきりで筋力が低下したことに対するリハビリをして過ごすよう言われています。


 退院は明後日ですが、担当の医師によると、打撲が完治するまでにはもう数日、筋力が全回復するまでにはもっと掛かるだろうとのことでした。


 それはともかく、他人の体に慣れるという意味でも、このリハビリは好都合です。


 ところが、立ち上がって初めて気が付いた、下方向の視界を遮るほどの、この胸の大きさときたらどうでしょう。一歩踏み出すごとに揺れるそれには、何のハンデを与えられたのかと思ってしまいます。


(必要以上の重さといい、前に重心が偏るバランスといい、リハビリの邪魔としか思えないんですけど)




「お疲れ様。はい」


 一段落して休憩を取っていると、母がカップに入ったコーヒーを持ってきてくれました。


「ありがとうございます、お母様」


 紙のカップを通して伝わってくる温度から、それがかなり熱いものであると考えられます。

(これがコーヒーか)


 息を吹きかけながら慎重に口を付けますと、


「苦っ!」


「え、そんなに?オリジナルブレンドを選んだはずなんだけど」


 記憶をたどれば、奈津美は確かに、去年からブラックコーヒーをお気に入りのひとつに加えていたようです。

 

 そして記憶にある味もこれに近いものでした。


(なぜこのようなものを?)


 不審な物を見ているような娘を察して、母が言いました。


「ミルクと砂糖、取ってこようか?」


「あ、お願いし……うん。お願い」


(どうやら奈津美さん、無理して飲んでいたようだわ。これを飲むと大人として認知されるらしいから、ようするに背伸びをしてたっていうことなのかしら)


 待っている間にリューブラントにも、苦みを楽しむ飲み物があることを思い出しましたが、これとは色も風味も異なります。


(どうやって作っているのかしら?)


 再び奈津美の記憶を探りますと……


(木の実から種を取り出して乾燥させ、それを燻して、粉状に挽いて、お湯を沸かしてその粉に掛け、フィルターでろ過した出し汁がコーヒー。実と種は捨ててしまう……? 何でこんなこと思いついたんだろう?)


「はいミルク。と、砂糖」


 最初にミルクだけ。次にスティックの砂糖を入れた後で、もう一本砂糖を入れるかどうか悩みましたが、子供に退行するような気がして、これ以上母に心配を掛けるのもどうかと考えて控えました。


 母が含み笑いしているところを見ると、やはり背伸びしていたのがバレていたかもしれません。それでもコーヒーは幾分飲みやすくはなっていたのですが。



【3】page 2/3

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