表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リューブラント幻想  作者: まいるまいる
【1】プロローグ:二つの人生が交差する時
2/71

【1】 ~2/2

 幼かった頃と比べて、二人が顔を合わせることも、めっきり少なくなっていました。社会人と学生という立場ですから、それは致し方ないことでしょう。


 王室親衛隊は少数精鋭で、時に過酷な任務も多く、特殊な仕事が多い都合上、休みを家族にさえ知らせることができません。当然誰かと会う約束などもできないのでした。


 けれどもここは、メルタ自身が暮らす館の敷地内。こうして毎日会えるようになった機会を、無駄にはできないと思っていたのです。


 もっともそれは、姉が嫁ぐまでの三週間という限られた期間ではあるのですが。



   


「でも、ここへ来てはいけないと、隊長からいつも言われてるでしょう。そもそも入り口には警備がいるのにどうやって入ったんです?」


「もちろん警備の方にお願いしたんですよ。自分の家の庭なんですから、ダメでしょうか?って。少しだけ大目に見て頂きました」


 バルローはぎこちない笑顔で応えてくれましたが、それはメルタの思惑を理解した上での表情でした。


「ダメに決まってるだろう! 何のために親衛隊以外立ち入り禁止にしていると思っているんだ!」


 訓練場にある仮設の小屋の陰からいきなり現れた隊長に、メルタは大きな声で怒られてしまいました。


「すみません、隊長様。バルロー様をお迎えに上がっただけですので、すぐに失礼致します」


「そうして下さい。バルロー、お前もだぞ。何でも彼女のせいにするんじゃない」


「はっ」


 メルタの思惑。それは、このところのバルローの不調が、許嫁であるメルタのわがままな振る舞いによるものだと、周囲に思わせることにありました。


 自分の評価を下げてでも、彼の評価を下支えできればと考えていたのです。


 もっとも、その程度の不調で任務に支障をきたすようであれば、親衛隊にいられる資格はないとも言えるのですが。



 とはいえ隊長にも、バルローに対してあまり強く言えない理由がありました。先週バルローが落馬した事故の原因、実はこの隊長にあったからなのです。


 いつも一緒にいる二人を見て、メルタを目障りに感じたのがきっかけなのですが、後になってやり過ぎたと反省せざるを得ない出来事でした。




「ごめんなさいね、バルロー様。また私のせいで怒られてしまいました」


「いいんですよ。今の私が一番頼りにしているのは、あなたなのですから。それより、隊長のメルタに対する心証を悪くしてしまうのが心苦しいんです」


「そんな、私のことなんて……」


「危ないっ!」


 突然大声で叫んだのは隊長でした。


 近くで次に行う訓練の準備をしていた隊員が、不用意に振り回した摸擬戦用の手斧を飛ばしてしまったのです。


 手斧は、隊長の方を振り向いたメルタの後頭部を直撃したのですが、メルタには何が起こったのか一切わかりません。


 その時メルタの瞳に映ったのは隊長の驚く顔だけ。そしてそれもすぐに、黒い(とばり)によって覆われてしまったのでした。



    『見つけたっ! そこにいたのねっ!!』



 頭の中に知らない女性の声が響くと同時に、メルタは突然、全身に激しい衝撃を受け、地面にぶち当たるようにして倒れ込んでしまったのでした。


(何?今の衝撃は)


「女の子が車に撥ねられたぞ」


「誰か、救急車を呼べ!」


「とりあえず意識を確認するんだ」


(みんな何を言っているの?)


 衝撃を感じて思わず閉じた目をゆっくり開くと、そこには今まで見たことがない真っ黒な地面が広がっていました。


 それがアスファルトだったというのを彼女が知るのは、もう少し後のことになるのです。



【1】page 2/2

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ