人生ってなんだと思う?
人生ってなんだろう。みんな一回は考えたことがあるの問いだ。
これに答えは無い。人によって変わるし、人によってはそんなこと考えるだけ無駄だ、とも言う。
そんなことは分かってるけど、暑さで野垂れている君に聞いてみる。
「ねえ、人生ってなんだと思う?」
「んあ? こんなあっちい時にそんな頭使わせる事聞くな」
君は、水で濡らしたタオルを顔にかけ地面に寝っ転がって、面倒くさそうに私の質問を拒否する。
「いいじゃん、答えてよ」
「あ〜、分かった分かった」
ちょっと気だるげに、体勢を起こし地面に座り体を横に揺らしながら、私の目を見ながら質問の答えを言い始める。
「人生ってな、その人の価値観で決まるんだよ」
「価値観?」
「あぁ、そうだ。 価値観だ。 結局の所、人間は自分の価値観を指標にして生きている。 私は他の人の価値観を大事にしてます、と言ってる奴もな」
「なんでそう思うの?」
「だってよ、何かする時に何を大事にするかと言ったら、自分の考えだろ? それは考え方の価値観なんだ。恋愛もそうだ。全て価値観なんだよ」
「なるほど〜」
「よし、分かったようだから俺はもう一回寝る」
君はもっともらしいことを言って、また地面に寝っ転がってしまった。
人生は価値観か。なんか、そんな気がしてきた。
自分の考え方に、従って生きていこう。
いや、自分の価値観に従って生きていく。その方が合ってるかな?
「じゃあね〜」
「おう、またな」
君に人生とは何か。それを教えてもらった私は夕陽が射すアスファルトの道を歩いていた。
人生は価値観かあ……。難しいなあ。
「おい! ババア肩ぶつけておいて謝りもなしか!?」
「ご、ごめんねえ。 悪気は無かったのよ」
「悪気はねえ!? 突然だろそんなの!」
人生とは何か?をまた考えていると、右側にあるコンビニの駐車場から、怒鳴り声が聞こえて来る。
頭を金に染め、柄の悪そうな男が二人、荷物を持ったおばあさんを怒鳴りつけている。
どうやら、おばあさんがぶつかってしまったらしくそれに腹をかいた柄の悪そうな男が、おばあさんを怒鳴っている。
私は、助けようかと迷った。でも、怖い。男二人に私が勝てるのか?そんな迷いが頭の中をグルグルする。
「何かする時に大事にするかと言ったら、自分の考えだろ?」
君の言った言葉が頭をかする。
何かするときは、自分の価値観に従う。
そう決めたじゃないか。
私は困ってる人を助けたい。それに従っておばあさんを助ける。
「や、やめなよ!」
「あぁん!?」
声が震え、足も震えてる。心臓も走った後みたいにバグバクと鳴っている。
怖い……怖い。だけど、ダメだ逃げちゃ。
「おばあさんも、謝ってるんだし、や、やめてあげなよ」
「うるせえな! お前なんだよ!」
柄のの悪い男が一人私に近付いてこようとする。殴られるかもしれない。
怖さのあまり目をつぶり、覚悟をすると気だるそうなあの声が聞こえた。
「あの、何やってるんすか? 怖がってるじゃないですか」
「なんだよ、てめえ! お前もこの女の連れか!?」
「そんなところです。 なのでさっさと、どこか行ってください」
「うるせえよ! 引っ込んでろ!」
目を開けると、私を守るように立っている君がいた。
安心するデカい背中がそこにあった。
「警察呼びますよ?」
「ちっ、めんどくせえ。 行こうぜ」
警察、その言葉を聞いた瞬間に男達はどこへ去ってしまった。
こ、怖かった〜。全身の力が抜け、空気の抜けた風船のように地面に座り込む。
「ありがとうねえ。 お嬢ちゃん、助かったわ」
おばあさんが、私の顔を覗き込みながらお礼を言う。
「いえ、自分の価値観に従っただけですから」
「本当にありがとうねえ。 これ飴ちゃん食べて、お兄ちゃんも」
「うっす、ありがとうごさいます」
私の手と、君の手にイチゴ味の飴ちゃんを渡しおばあさんは帰って行く。
「危ない事すんなよな。 全く」
「はは、助けないとって思ってさ」
「その勇気はどこから湧いてきたんだよ」
「価値観かな?」
「なんだよ、それ」
鼻を膨らませふっ、と君は笑う。
「ほら、帰るぞ、いつまで地面に座ってる気だ」
「君に言われたくないよ、よく地面に寝っ転がってるくせに」
「あれは、いいの」
「変なの」
君のあれはいいの、多分それも君の価値観なのだろう。そして変だと思うのは、私の価値観だからなのだろう。
人と人の価値観は決して、相容れない存在なのだろう。
ではまた。