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第七十一話~反董卓連合 十五~


第七十一話~反董卓連合 十五~



 初平元年(百九十年)



 呂布と華雄。互いに駆る愛馬によって両者が間合いを詰めると、ほぼ同時に得物を振るう。呂布の持つ戟と、華雄の持つ戦斧が真っ向からぶつかったのである。その衝撃はかなりの物であり、戦場にありながら誰しもが耳にしたとされたぐらいであった。勿論、その一合いちごうで終わりとなるわけがない。二度、三度、四度、五度と二人は得物をぶつけ合っていた。だが、彼らの闘いはそれだけではなない。時には得物で押し合ったり、体をぶつけあったり。はたまた、お互いが騎乗する馬体をもぶつけあったりしていたのだ。

 果たして呂布と華雄は、どれだけ刃を合わせたのであろう。そう感じてしまうかのような闘いを、彼らは演じていたのである。しかも一撃一撃の持つ威力は凄まじいものがあり、もし受け損なってしまえばよくて大怪我は必至だろうと周囲へ思わせるには十分であった。


「はぁ、はぁ……はぁ!」

「ふん!」


 とは言ったものの、二人の様子には差が表れている。一騎打ちを始めてよりそれ程の時間がっていないにも関わらず、何と華雄が肩で息をし始めているではないか。その一方で呂布はと言えば、その様な変化は表れていなかった。これには、二つの理由がある。一つは戦場へと到達して間もない呂布と、それなりの時を戦っていた華雄ということによるものである。しかしそれ以上に、両者の力量の差が表れていると言っていい。いかに華雄が、董卓配下の将で一、二を争う技量を持っていたとしても、呂布の実力の方がその上をいっていたからだった。


「……まだまだ!」

「こい!」


 刃を交えたがゆえに、両者はその旨を認識することとなる。しかしたとえそうであったにしても、華雄としては諦めるわけにはいかないのである。すると華雄は、少し息を整えたあとでまるで自身を叱咤するかのように声を上げた。その彼に対して呂布は、まるで促すように声を掛けたのである。その直後、その言葉に乗せられたわけでもないだろうが、華雄が距離を詰めると戦斧を振り降ろす。しかしながら今度は、先ほどまでとは違う様相を示すことになる。何と、両者の均衡が崩れたのだ。驚くことに呂布は、華雄の放った戦斧による一撃を戟によって弾き返したのである。その為に華雄は、体勢も崩してしまったのだ。そのように生まれた大きな隙を、対峙する呂布が見逃す筈もない。彼は素早く戟を引き戻すと、力に任せて横薙ぎに振り抜いたのだ。だが、そこは董卓旗下の将でも一、二を争う武を持つとされている華雄である。彼は体勢を崩しながらも、馬から転げ落ちるようにして避けていた。そのお陰もあって、大きな傷を負うこともない。しかしその代償として、華雄が騎乗していた馬が絶命してしまう。呂布の一撃によって、華雄の馬は首を飛ばされてしまったせいであった。


「あ、危なかった」

「ふむ……まさか、避けられてしまうとは」


 慌てて立ち上がった華雄だが、内心では冷や汗ものである。仮に同じ状況でもう一度呂布の一撃を避けろと言われても、次は成功しないだろう。それぐらい紙一重で、華雄は呂布の攻撃を避けていたのだ。この結果は呂布からしてみると、正直に言って意外ですらある。華雄の体勢が崩れていたという事実もあり、今の一撃でほふることができると思っていたからだ。しかしながら、実際に蓋を開けてみれば華雄は避けて存命している。運なのか偶然なのか、それとも華雄の技量が予想以上であったのかは分からない。それゆえに呂布は、改めて気持ちを引き締めたのであった。





 辛うじて呂布の攻撃を避けたとはいえ、押されているのは事実ではある。しかしだからと言って、無様に負けるわけにもいかない。華雄は戦斧を握り締めると、呂布へと向けた。その華雄に対して、呂布もまた得物の戟を構えたかと思った次の瞬間、彼は騎乗する雷閃を駆けさせる。あっという間に両者の距離が詰まったかと思うと、呂布は馬上から得物を振り降ろしていた。そこには馬に跨っている者と、地面に立っている者という差が真面まともに現れることとなる。馬上より振り下ろされた呂布の一撃を受け止めることに成功した華雄であったが、そのあまりの威力に片膝を突いてしまう。しかも、足自体は少し地面へめり込んでいるという凄まじいに尽きる一撃である。しかし華雄は、その一撃を受けきって見せたのであった。


「うぉぉぉぉお!」

「何っ!!」


 呂布が驚きの声を上げたのも無理はない。何と華雄は、呂布の一撃を受け止めたばかりか、まるでその一撃に対して反発するかのように押し返してみせたのだ。受け止められることぐらいは僅かだがあるかも知れないと思っていた呂布ではあったが、まさか押し返されるとは思ってもいなかったのである。油断と言われればそれまでかも知れないが、それでも虚を突かれたのは事実であった。しかも普段ならば考えられないことではあるのだが、何と呂布もまた体勢を崩してしまったのである。するとその直後、呂布は愛馬から飛び降りていた。仮に体勢を崩されたところで次の一撃が振るわれては、万が一の事態も起こりかねないことを懸念したからである。それに下手をすれば、今度は自分が華雄によって騎乗している雷閃から叩き落されかねないばかりか自身がしたように愛馬の首も取られかねないという判断が働いたこともある。だからこそ呂布は、その様な事態へとなる前に自ら馬より降りる決断をしたのであった。

 そんな呂布が地面に降り立つと、彼の愛馬である雷閃は即座にその場から離れている。それは怯えたからなどではなく、呂布からの指示であった。とはいえ、この状況で主である呂布が声に出して指示をしたからでもない。一人と一頭の主従で、僅かの間に視線が交わった結果であった。因みに雷閃が劉逞の愛馬であった頃も、同じことができていたことを記しておく。ともあれ、呂布と華雄の間に両者を遮るように存在していた雷閃が消えると間もなく、呂布と華雄は彼我を埋めるかのように間合いを詰めていた。その直後、かち合った呂布と華雄の得物から、火花がほとばしる。しかしながら結果は、またしても華雄の戦斧だけが弾かれたのみであった。すると呂布は、今度はこの機を逃さないとばかりに嵐のような連撃を畳みかける。それはまるで手にしている戟は実は小枝であると言わんばかりの攻めであり、呂布が手にしている獲物の大きさや重量をかんがみれば驚きに値する攻撃であった。もはや華雄としては、防ぐだけで精一杯である。それに加えて、先に述べた様に先に戦場において戦働きを始めていたという事実が折り重なっている。それでなくても驚くべき攻撃を受けてどうにか凌いでいるという状況にあるところに加えて、少しずつ溜まっていた疲労が追い詰められたことで一気に襲い掛かってきたのだ。


「……くっ! 化け物が!!」

「はははっ。何とでも言うがいい! そらっ、手元がお留守だぞ!!」

「ちぃ!」


 このままでは間違いなく負ける! そう本能的に感じ取った華雄は、一か八かの賭けに出ることにした。彼は呂布の一撃を自身の身で受ける覚悟で、踏み込んだのである。たとえ命を犠牲にしたとしても、ここで呂布を倒すと言う覚悟であったのだ。しかしながら呂布の攻勢は、華雄の命を懸けた行動であっても届くことはなかったのである。


「……こ、これほどだった、とは……」


 何と呂布の攻勢によって華雄は、片腕どころか得物の戦斧すらも纏めて体を切り裂かれてしまったのである。片腕と戦斧を失ったばかりか、明らかな致命傷と思える一撃を受けてしまった華雄では、もはや体に力すら入らない。そのことを証明するかのように、彼は膝から崩れ落ちてしまう。それでも執念とも言える思いだけはあったのか、かろうじて残った腕を呂布に向けて伸ばそうとする。しかしそこまでが限界であり、そのまま華雄は片腕を伸ばしたまま倒れ込むと絶命してしまった。


「董卓が臣、華承衡! 劉常剛が臣、呂奉先が討ち取ったり!」


 その直後、呂布の声が戦場に朗々と響き渡ったのであった。





 呂布の言い放った一言は、喧騒渦巻く戦場であるにおいて一つの大きな変更点となった。それでなくても関羽や張遼や高順が参戦したことで優位であった戦況を押し返されたことは勿論だが、それ以上に衝撃をもたらした領域がある。それはどこかというと、華雄が率いていた部隊が展開している領域であった。彼らは、華雄の命もあっていまだに当初の混乱から抜けきれていない冀州牧韓馥が率いる将兵に対して攻撃を仕掛けていたのである。しかして、彼らの部隊を率いていた大将となる華雄が討たれてしまったと言うならば話は別である。華雄の率いていた兵の総数としては、韓馥の軍勢より少ない。それであるにも関わらず戦を優勢に進めていた理由は、前述した通り未だ混乱から韓馥の軍勢が抜けきっていないこと。それよりも何より、士気が高かったことに由来していたのだ。

 しかしここで華雄が討たれたことにより、高かった士気が一気に急降下を始めてしまう。その理由は言うまでもない、華雄を討った呂布が率いる部隊が、それこそ一気呵成いっきかせいに攻めてくるかも知れないからだ。この様な事態に際して、華雄より兵を任されていた王方は即座に撤退の判断をする。このままでは、多勢に無勢となってしまうことは間違いない。何より、敵の中に取り残されてしまう可能性が多分にあるからだ。

 それに、徐栄と李蒙も華雄が討たれたと知れば撤退の命を出すかも知れない。その際に亡き華雄が率いていた部隊を救出するかなど分からない。最悪、見捨てられる可能性すらある。だからこそ生き残る為には、味方より見捨てられてしまう前に戦場より撤退する必要があった。一応、撤退に関する道筋も分かっている。ゆえに王方は、撤退する判断をしたというわけであった。


「引け! 引けぃ!!」


 王方は華雄より任されていた兵に声を掛けると、脇目も振らずに撤退へと入った。すると、追随するように、一人また一人と華雄が率いていた兵が戦場より離脱を始めたのである。この事態に際し、高順は即座に追撃を開始している。また残った関羽と張遼だが、別に行動していた。まず関羽だが、彼は混乱が治まり切っていない韓馥の軍勢を助勢するべく攻勢を仕掛け続けている。そして張遼は、袁紹を助勢するべく攻勢を仕掛け続けていた。


「ふむ……取りあえずは、任せて問題はないな」


 戦況の様相からここで下手に自身が命を出すより、彼らに任せてしまった方がいいと呂布は判断する。そこに、離れていた愛馬の雷閃が戻ってきた。呂布は首筋を一撫でしたあとで雷閃に跨ると、馬上より首のない華雄の遺体を見詰める。因みに華雄の首だが、既に呂布自ら討ち取られていた。


「華承衡……大した強さであった」


 そう一言呟いたあと、呂布は踵を返す。その直後、一陣の風が戦場を吹き抜けたのであった。

文中、華雄のあざなとして「承衡」と表記しておりますが、

これは、拙作独自のものですのでご了承ください。



別連載中の「風が向くまま気が向くままに~第二の人生は憑依者で~」も

併せてよろしくお願いします。

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ご一読いただき、ありがとうございました。

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