第2話 狐目令嬢と唯一の味方
今日はもう1話更新します
結納品を抱えた五台の馬車と共に、私は領地へと戻ります。
カルマン子爵家の皆さまは、額を地面に擦りつけんばかりに深々と頭を下げて非礼を詫びました。
彼らも気苦労が絶えないのでしょう。
そのお気持ちは痛いほど分かります。
私だって憂鬱です。
どんな顔をして実家に帰ればいいと言うのでしょう。
お父様やお母様が方々を駆け回って、アベル様との婚姻を取り付けた時は「ようやく相手が見つかった」と胸を撫で下ろしていたのですから。
合わせる顔が無いというものです。
お父様に何て言おうかと思案していると、カルマン家にも付いてくるはずだった私の腹心の侍女、エマが隣で怒りを収めきれないのかムスっとした表情をしています。
「エマ、そろそろ落ち着いて。仕方のない事だったのだから」
「いえいえ、ソフィア様。いくら何でもあれはなしです! 男として最低です! ソフィア様みたいに素敵な方があんな奴に嫁がなくて良かったと私は清々しているのです!」
「こら、エマ。誰も聞いてない所でもそんな風にお相手の方を悪く言う言葉を口に出してはいけませんよ」
「え~、でも! 私嬉しかったんですよ! 婚姻が決まった時、私以外にもソフィア様の本当の良さを分かってくれる人がいるかもしれないって思って!」
エマは自慢の赤毛に負けないくらいそばかす交じりの頬を紅潮させて、子供のように怒りを露わにしてくれています。
快活で屈託のないエマの素直さに私はいつも助けられていました。
そして何より……エマの淹れる紅茶はとても美味しいのです。
ああ、領地に戻ったらいの一番に淹れてもらいましょう。
口の中が紅茶の気分になってしまいました。
エマとはもう八年の付き合いになります。
十二歳から十八歳までの六年間通うことになった若い貴族の学び舎、学園でも彼女はいつも私の隣にいてくれました。
このキツいつり目のせいで、怖がられ、避けられ、更には私が口下手なこともあって……いつの日からか『狐目令嬢』と呼ばれ蔑まれるようになってもエマは変わらず私の味方でい続けてくれました。
その時も私のために怒ってくれていたりしたのです。
本当にかけがえのない存在です。
「でも、大丈夫ですからね。私は知っているんですから。ソフィア様がどれほど慈愛に満ちて、理知的で、素晴らしいご令嬢かということを!」
「ありがとう、エマ。私のために本気になってくれて嬉しいわ」
「あ~、もう! 私決めました。ソフィア様に相応しい素敵な男性が現れるまで、私絶対ソフィア様のお傍から離れませんからね!」
「ふふ……ありがとうエマ。でも、そんなこと言わずに私がもし……もしまた婚姻する機会が訪れたら、私は迷わずあなたを連れて行きたいと思っているの。そしてね、その方が素敵な方だったとしても私はあなたに傍にいて欲しいわ。侍女ではなくても、友人として」
「そそそんんな! 私がソフィア様の友人だなんて! おこがましいにも程があります」
私の申し出はブンブンと手を振るエマに否定されてしまいました。
冗談だと思われたようです。
でもね、エマ。どんなに言われようが、私があなたに何度も救われた事実は変わらないのですから。
今だって……。
おかげで私の憂鬱はすっかりどこかに飛んで行ってしまいました。
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