3-12 わたし軍人になって初めての休暇です①
~~~ OTM本社ビル ~~~~~~~~
20階建てのオフィスビルが立ち並ぶ商業地区。
その1つにOTM本社がある。
一台のタクシーが、そのOTM社の前で止まる。
そして、一人の少女が下車する。
サララだ。
ここに来た目的は、ニコラという元社員についてと、
テロ事件との関係性について、社長に直接会って
情報を得ることにある。
ニコラについては、大企業の社長に聞いたところで
末端の社員のことなど知らんで、
相手にしてもらえないことなど重々承知している。
だが、もしニコラが事件に関与しているならば、
社長は絶対知っているはずだ。
サララはそう信じここに来た。
本来、調査をするのであれば、
人事やニコラの同僚から聞き込みを
始めるのが正なのだろう。
休みは1日しかない。
直接、社長に聞いて、知らないようなら
部下に指示させて情報を引き出してもらえばいい
と考えていた。
サララはOTM本社を見上る。
そして、最上階に焦点を合わせる。
サララ(あの辺が社長室かしら。景色よさそう。)
彼女は、ミニスカートの下にスパッツ、
半袖のフード付きのパーカーという
なんともふざけた格好だろうか。
これから社長に面会する服装ではない。
さらに言うならば、氷点下の町中で、
タグの体温調整があるとはいえ、
生足や腕を外気にさらけ出している人々は
早々見かけない。
この格好が、一般人に溶け込むための変装だとしたら、
かえって注目を浴びる人物となる。
サララ自信も目立つことは理解した上で、
あえてこの服装を選択している。
作戦というほどではないが、
単にすれ違う人々の記憶に残れば、いざという時に
別の格好をすれば気付かれずに脱出できるという
子供的な発想があってのことだった。
しかし、それは後付けで、自分への良い訳である。
目立つとか、社会人の格好じゃないとか、
実はどうでもいいのだ。
この世界で可愛い格好をしたい。ただそれだけ。
我慢できずに着てしまったというのが本音である。
OTM本社の1階には、一般人が無料で遊べる
テーマパークがある。
サララは本来の目的を失っていた。
OTM本社ビルには3つの出入口がある。
テーマパーク用、ビジネス用、社員専用と。
考えるまでもない。
サララは、ちゅうちょなくテーマ―パークへと
入って行く。
テーマパークと言っても規模は小さい。
子供向けのアトラクションがほとんどで、
小さなお子さんを連れたファミリー層が
集まる場所である。
普段は混雑することなくのゆうゆうと親子で
楽しめる空間なのだが、今日に限っては違っていた。
人、人、人であふれている。
通路を歩くことすら、ままならないほどの人で
あふれていた。
これは、昨日のテロ事件にる影響である。
残り2日の建国祭イベントは全て中止となったからだ。
だが、会社や学校は、テロが発生しても3連休の
ままとしたために、行き場を失た若者や社会人が、
ここへ押し寄せて来たという訳である。
サララ(すごい人。昨日の今日だよ。
今日もテロあるかもとか、
危機感ないのかしら。)
サララも遊びに来たその一人だった。
ミュー>>何?どうしたの?
サララ>>例のOTM社に来てるんだけど。
ビル内に遊園地あるって知ってた?
ミュー>>そうなの?知らなーい。
サララ>>今、その中にいまーす。
ミュー>>えー、ずるーい。もしかして遊んでるの?
サララ>>違うよ。昨日、ミューミューが
センターに居たでしょ。
だから今日は私がちょっとだけ
楽しもうかなって思っ見学しているの。
遊んだりはしないよ。
通り抜けるだけだから。
サララ>>でも初めてのオフなんだしさー。
ちょっとくらい遊んでも誰も
文句は言えないよね。( ^^)
ミュー>>私が言う。 (>_< )
サララ>>だけど、これがちっとも楽しくないんだなぁ。;^^)
ミュー>>なんでよ。(--#)
サララ>>あまりにも人多すぎ。
移動すらままならないよ。
流れに身を任しるって感じ。
とにかく、人が多くてうんざり。
ミュー>>笑える。
サララ>>ミューミューが居ればさ楽しかったのかも。
ミュー>>いっしょに行けばよかったね。
サララ>>うん。ちょっと失敗した。
ミュー>>あ!ごめん掛け直す。(^^;
サララ>>こっちこそ、ごめん。( ^^)
サララは人混みの流れに合わせてゆっくりと
歩いていると、人気のない通路が現れた。
方角的にも、そっちへ進んでもそんなに
遠回りではない。
チャンスとばかりに、その通路へ入ることとし、
角を曲がる。
なるほど、前を歩く人たちがその通路を見て
誰も通り抜けようとしないのか、理解した。
10m先に、がらの悪い男女2組のカップルが
立ち話をして通路を塞いでいたのだ。
|人人↑↑|
|人人人人|
|人人人人+ーーー女女ー
|人人人人 男男
|人人人人+ーーーーーー
|人人人人|
|↓↓人人|
その通路は、2人が並んで歩ける程度の幅しかない。
カップルは、女性2人が壁に寄りかかり、
男性2人は通路を塞ぐように中央に立っている。
どう見ても、誰もここを通るな!という威圧感だ。
年齢はサララとさほど代わりがないように見える。
体格は、女性は細身で、男性は2人とも
筋肉質で大柄な体格だ。
ここを通り抜けたいと思った人もいただろう。
サララにも十分気持ちが理解できる。
おそらく現実世界であれば同じように
見て見ぬふりをしたに違いない。
だがこの世界は違う。
サララは迷うことなく進むんだ。
道を塞いでいるカップルは話に夢中だ。
パビリオンに並ぶのが面倒で、移動も人ごみで大変、
休憩所も埋まっていて休める場所もない。
休憩できる場所がここにしかないのは
サララにも理解できる。
だからと言って、他人に迷惑を掛けるのは
間違っている。
サララは少しお怒り気味だ。
サララの正面に立つ男は、だれかが近づいて来る
のを悟ると、道を開けるどころか、
サララに背を向け、半歩下がって逆に通させない
そぶりを見せた。
それを知ったサララは、もうカップルの邪魔に
ならないよう通り抜ける気持ちは失せた。
メイン通りを歩く人たちも、サララの行動に
注目しながら通り過ぎて行く。
サララは避けることなく後ろ向きの男にぶつかる。
男は一瞬前へ倒れそうになるも
片足を踏み出し踏ん張る。
そして、サララの方へと振り向く。
男1「おい。てめー。何すんだ。」(--#)
男は、ぶつかってきた相手を見るなり、
同じ年くらいの少女であることに驚く。
少女が怖がって逃げ出すのを期待し睨みつける。
謝るどころが恐怖で抑え込もうとしてきた。
サララ(そういう態度で来たのね。
もう謝っても許さない。)
サララ「あんた達、ちょっとじゃまなんだけど。」( --)
男1 「あーん、ぶつかっといてなんだ
その言いかたは!
先に謝れこのやろう。」
サララ「ばっかじゃないの。なに怒っての!
ぼーっと突っ立てる方が悪いんでしょ。
周り見なよ。あんたらがじゃまで、
誰もここ通れないの。
いい?みーんな迷惑してるの。
遊ばないなら出ていってくれない?」(#--)
男1 「質問してるはこっちだ。意味解んねぇ。
女だからって容赦しないぞ、おらー。」
男はサララの顔へ近づけ、目で威嚇する。
他のメンバーは、男を止める様子はない。
むしろ少女が可愛そうだからそのくらいにしとけば?
という態度で楽しんでいる。
男は、退屈しのぎにちょっと脅すだけのつもりで
いたのかも知れない。
大声によって、いつのまにかギャラリーが
出来て注目され始めた。
男のテンションはMAXとなる。
サララ「大声出せばビビるとで思ってんでしょ。
キモイから近づかないでくれる。」
ギャラリーには、かれらの会話は聞こえないものの、
少女が今にも殴られそうだというのは
男の態度から伝わって来る。
男1 「ほんとあったま来た。
街を歩けないぐらい顔をボコボコに
してやんぞ。」(--#)
男は想定外で困惑している。
少女が恐怖するのを楽しむつもりでいたのだが、
逆に食いついてきたのだから。
ギャラりーにも注目され、引っ込みが
つかなくなっている。
拳を握り、殴りかける姿勢を見せる。
ギャラリーは少女を心配する。
助けたいと思っても、男は体格がでかく、
かなり興奮している様子。
助けに行ったら逆に自分がターゲットとなる
のは目に見えている。
連れの仲間も、もう彼を止められない的な
感じを漂わしている。
サララ「ボコボコって言ってるけど、
あんた、みんなが見てる前で殴れるわけ?
できもしないくせに。」(`3`)フフ
男はサララの小バカにしたその一言で
頭が真っ白となる。
後先のこと考えず言葉よりも先に身体を
動かしてしまった。
男の握り拳は、手加減などない。
こん身の一撃でサララの顔面めがけて
フルスイングする。
するどどうだろう。
サララの頬に当たる3cm位手前で男の拳が
ぴたりと止まった。
そう、サララは男の手首を片手でつかみ、
パンチを寸止めさせたのである。
殴りかかった男は恐怖する。
我を忘れ殺すつもりで本気で殴りかかったのだ。
手加減などしてない。
少女が受け止めただけでも驚きだが、
捕まれた腕は岩に挟まれたのかかと
思えるくらいピクリとも動かせないでいた。
その光景を眺めていた仲間とギャラリー達は、
男が寸止めしたのだと勘違いする。
サララはつかんだ男の手首を内側に
ねじるようにして下に下ろす。
関節の痛みに耐えきれず男は片方の膝を床に着け、
いつくばる姿勢となった。
男1「なにすんだ。」(>_<")
この少女は外見と異なり、バカ力だ。
見るからに自分の方が体格も腕力もある。
なのにまったく返せない。
サララ「あれれ。
街を歩けないぐらい顔をボコボコに
するんじゃなかったの?
口先だけ!笑える。」( ^_^)
サララは男のもう片方の手首もつかむ。
男は、両膝をつき、丸くうずくまるようにして
うつ伏せになる。
男の両腕は、背中からまっすく天井に延びて、
サララが仁王立ちで握っている。
男は日頃から鍛えており、腕力で一般の人には
負けない自信があった。
こんな少女にやりこめられ人生最大の屈辱を味わう。
サララ「で、どうすうる?
謝れば許してあげるけど。」( --)
・・・
男は無言で痛みに耐えながら、
この場から逃げ出すことを必死に模索していた。
サララは男の腕を少しねじる。
男1 「あーあ。」(>o<;)
サララ「周りのみんなさんに、ごめんなさい。
もう迷惑はかけません。
って大きな声で謝罪すれば許してあげる。」
連れの残る男が、見かねてサララの肩に手を
掛けて低い声で言う。
男2 「ねーちゃん。やりすぎだ。」(--#)
サララ「触らないで!気持ち悪い。」( --)
サララは、振り向くこともなく、肩をゆらし
男の手を払いのける。
男2は頭に血が登り、少女の脇腹にフックを入れるが、
サララは後ろ向きのまま、手刀でフックを払いのける。
男2「あぁぁぁ」(>< )
男2は、手刀で当てられた部分をもう方の腕で抑える。
実は、骨にひびが入って相当な激痛が走る。
サララは男1を解放し、振り向きざまに
足払いで男2を倒す。
男2は腕を抑えてうずくまる。
サララは、男2を見下ろす。
サララ「本当に少女を殴るなんて、
あなた達、最低ね。」( ^^)
サララは連れの女2人を見る。
サララ「あんた達もこんな野蛮な
男とはすぐにでも別れなさい。」( --)
連れの女は、返答もせず、ただただサララを
黙って見つめるだけでいた。
解放された男1は、立ち上がりズボンから
携帯ナイフを取り出す。
男1「貴様殺す。」(-- )
サララは男1へ振り向く。
ギャラリーは、徐々にサララの元へと近づいていた。
ギャラリー「何の騒ぎ?」
ギャラリー「何でもめてるんだ」
ギャラリー「刺されるぞ。」
ギャラリー「警備員を呼べ!」
という声でざわつく。
ギャラリー達にはまだ距離があるため、
彼らの会話は聞き取れない。
男は刃物を持ってる。しかも興奮気味だ。
どう見ても少女は殺さるとしか思えない状況だ。
ギャラリー達の認識は一致していた。
サララ「自分が何をしているの分かってますか?
犯罪ですよ。」( --)
男1 「許さねぇ。」(--#)
サララ「会話なってない。頭悪ぅ。」( ^^)
男1 「ああー。」(--#)
男1の怒りは頂点に達した。
一歩前へ踏み出すと同時に腹へナイフを切りつける
風に見せかけ、フェイントで首を刺そうとする。
少女はその間、微動だにせず、
ナイフの行方を目で追っているだけだった。
男2は男1が切りかかるのを見て、
立ち上がりながら、少女が身動き取れないよう
背面から抱きかかえようとする。
ギャラリーのざわつきが止まる。
少女はナイフを持つ腕をつかみ、
後ろからの攻撃を避ける。
サララ自身が180度回転して男1をフリスビー
のようにて通路の奥へと投げ飛ばした。
男1は壁に激突し倒れる。
男は意識を失い、握り閉めていたナイフを手放す。
男2は掴みかかろうとしたのが、かわされ態勢を崩す。
倒れそうになるも、どうにか踏ん張り、
真横にいる少女の顔面へ全力でパンチを
入れようするが、少女の方が早かった。
男が大勢を整え、立ち上がったところで、
男の腹に膝蹴りを入れる。
男2は吹き飛び、壁に激突する。
2人の男が並んで倒れてた。
ピクリとも動かない2人の男を見てサララは
冷静さを取り戻す。
サララ(やばい、やりすぎた。)
サララ>>ポポ?この二人、大丈夫?
ポポ >>命に別状ありません。
最初に壁に激突した男性は肋骨の
5カ所と腕にひびが入っています。
内臓は損傷しておりません。
もう1人は、両肩の脱臼と内臓が
損傷し少々内出血しているようです。
2人とも完治は2ヶ月程の怪我です。
サララ>>分かった。至急警備員呼んで。
ポポ >>すでに手配しました。
今、こちらに向かって来てますが、
人混みでなかなか進めない状況です。
到着まで3分ほど掛かる見込みです。
サララ>>ありがとう。
連れの女性2人は、倒れた男を見てからサララに
視線を向ける。
サララと目が合うと、恐怖のあまり
2人揃って壁にへばりつく。
サララ「正当防衛にしてはやりすぎました。
ごめんなさい。」(;‥)
女性2人の連れに軽く頭を下げる。
サララ「警備員を呼びました。もう少しで来ます。
ろっ骨が折れてるみたいなんで
病院へ運んでください。」(;‥)
女性2人は言葉を一言も発せず驚いた顔で
棒立ちで居るだけだった。
サララは、多くのギャラリーに視線を
浴びてることに気づく。
そして、いつの間にか2mと距離が近かった。
1人の少年がサララの後ろを横切り、
ギャラリーの中へと無理やり入り込む。
「すみません」オヤジの足を誤って踏む少年。
「いってーな、クソガキー」怒鳴るオヤジ。
「そこ!謝ってるでしょ。」オヤジに指を指すサララ。
オヤジに視線が集中するギャラリーたち。
サララと目が合うオヤジ。
「言い過ぎました。」少年へ90度腰を曲げて
謝罪するオヤジ。
緊迫した場がほどけ、爆笑するギャラリー。
「すみません」もう一度謝る少年。
ギャラリーたちの視線が、少年とオヤジに
集中したところを見計らって
サララはこの場を去って行った。