表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/34

優しくありたくて

 SNSにはたくさんのアカウントがある。それらのつぶやきについて、笑い、憂い、怒り、共感することはある。けれどその奥にある人格について想いを馳せるなんてことはなかった。別に自分がリテラシーを備えていると言いたいわけではない。でも、日頃からその空間に出入りして、私自身も何かしらの感情を吐き出すことで自然とそれに近いものが身についたと言えないこともない。私は現実でするのと同じように、仲の良いアカウントにも心の内を明かさなかった。

 そんなとき、ふと目についたつぶやきがある。

「自分の中の優しさに殺されそうになったこと、あなた達にはないでしょう」

 共感された数を示す数値は二桁にも満たなくて、知り合いの中にフォローしている人がいるわけでもない。今までにも時折そんなつぶやきが流れてくることはあったけれど、その一文だけのつぶやきに私は不思議と後ろ髪を引かれるような思いがした。スマートフォンの画面を一度はスクロールさせたものの、またそのつぶやきのところへ戻っていく。自分の中の優しさって、何。それを弱さと呼ぶのは間違いなの。どうして自分だけが特別だと思っているの。そんなことを考えていると、ちょうど職場の上司からの電話がかかってきた。

 十分ばかりの電話を終え、明日の段取りを頭の中で組み立てながら冷蔵庫を開ける。小さめの缶ビールでも飲もう、今はそんな気分だ。缶ビールを開け、一口飲み、再びスマートフォンに手を伸ばす。あのつぶやきをもう一度見てみよう。誰がどういった意図でつぶやいたのか、それだけでも知りたかった。けれど再びアプリを開いたとき、画面の真ん中に表示していたはずのつぶやきは情報の波に押し流されてしまっていた。

 自分の中の優しさに殺されそうになる。それは、実は分からない感じ方ではなかった。でも、今の私が共感できることではないのだろうとも思った。高校生の頃に親友がずっと憧れていた男の子と私が付き合うことになったとき、私はその優しさというものを投げ捨ててしまったのだ。だから私はあなた達の一人。

 嫌なことを思い出したせいだろうか、缶ビールはいつもよりも苦く感じる。小さめのものなら飲めるだろうと思ったけれど、もうそれ以上飲む気にはなれなかった。シンクに缶ビールを流すとき、私は本当に優しさを捨ててしまったのだと悟り、溢れ出てくる涙が少しでもビールを薄めてくれるようにと祈った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ