侵犯
雪は侵犯する。私はふと心に浮かんできた想念を、僅かに積もった雪道に足跡を残しながら弄ぶ。革靴に押し潰され、靴底を模した表情で以て天を仰がねばならない彼らのことを考えると申し訳ないような、それでいてどこか倒錯を感じて面白くもあるような、奇妙な気分になった。元より彼らに思念があるわけではないが、それでいて「彼ら」と呼ぶだけの親しみはある。これが北国に降る雪であれば親しいだの何だのと言っていられる余裕はないかもしれず、また見知った間柄になってしまうだろうから新鮮な眼差しを向けることもなくなるだろう。いずれにしても私は北国には住んでおらず、従って雪には慣れておらず、しんしんしんと降りしきる雪に微妙な感情を抱いている。彼の人は一体――いや、過度に内面をさらけ出したり己の思考を追いかけたりすることは好ましくはないだろう。
そうだ、とにかく、雪は侵犯するのである。己の心にも彼の人の心にも、そして君の心にも降り募る雪の、その無垢が侵犯されぬだろうかと不安になるのは何故だろうか。人の心の無垢と雪の無垢とを比べれば、そのどちらがより純粋であるかということは明瞭なことである。しかしその純粋であるということは、決して人への優しさを意味するわけではない。その中立性は、人を殺めることを望まない代わりに躊躇うこともしないだろう。そうとなれば、今日からは不用意に軒下へ立たないでおこう。車の運転も慎重にしよう。いつかどこかで私を殺めるかもしれないものは、雪である。何故なら雪は侵犯するものであるから。




