10月
都会の街角は行き交う人が絶えないけれど、三階建ての建物の二階にあるパーラーから眺めていると、人の往来にも流行り廃りがあるというか、人の少なくなる時間帯があるらしいことが分かる。午後三時はちょうど人の疎らになってくる時間だ。この時間に人々はどこへ消えるのだろう? 映画を見るには遅すぎるし、夕食をとるには早すぎる。女の子たちはセレクトショップにでも入って、男の子たちは古書店にでも入って、次の楽しみを待ちながらそれぞれ楽しんでいるのだろうか。たとえ午後三時が中途半端な時間であるとしても、私にとっては待ち合わせにぴったりの時間なのだ。午後三時といえば、おやつの時間だ。
私は月に二度くらいはこのパーラーで過ごす。多くはないけれど、決して少なくはない頻度。店主のおじさんは顔を覚えてくれていて、会計のときに一言か二言は言葉を交わす。たまにおまけの洋菓子を付けてくれることもあるけれど、それ以上はお互いに踏み込まないし、そうしようともしない。その距離感が心地良いのだ。ただ、私がこのパーラーを好んでいるのは、雰囲気の良さだけが理由ではないし、日当たりの良い窓際の席があるからというだけでもない。絶品のクリームソーダがあるからなのだ。
待ち合わせの相手はまだ来ない。私はずっと待ち続けているのだけれど、注文もせずに居座るのもさすがに気が引けるので、とうとうクリームソーダを頼んだ。
お待ちかねのクリームソーダはずんぐりとしたグラスで運ばれてくる。澄んだ緑色のメロンソーダの中には色鮮やかなキューブ状のゼリーが整列していて、天辺にはホイップクリームが乗っている。そこにやさしく添えられているのは、たくさんの甘味とほのかな酸味の詰まった小ぶりのさくらんぼ。少し長めのスプーンを駆使して、私はいよいよこの小宇宙の均衡を破っていく。まずはホイップクリームを切り取り、ふんわりとした甘みをまずは確かめて、次にソーダとゼリーをすくい取る。ソーダの刺激とゼリーの柔らかさがよく絡み合って心地良い。さて、ここからが難しいのだけれど、私はホイップクリームとソーダとの溶け具合を勘案しながら、少しずつ、少しずつ……。
緑色の小宇宙を攻略し始めてふと時計を見れば三十分も経っていた。いつまでも待ち合わせの相手は来ない。
窓際に置かれたクリームソーダは、少しずつ溶けていく。私もその中に溶けてしまいたいと、そう思った。




