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2020/07/20

 自分が川面に投げ捨てたものが何であったのか、彼女はとうとう分からないまま自宅の近くまで帰ってきてしまった。このブロック塀を曲がればいつかの台風で捻くれてしまった赤いポストが見える。それが彼女の家の目印だ。それだけ捻じ曲げられていると郵便も届くだろうかと心配になるくらいだが、少なくとも家族への便りは届いているらしい。しかし、彼からの手紙はやってこない。

 そこまで考えたところで彼女は歩を止めた。石切りをする子供たちに混じって投げ捨てたものは、ポストの鍵だったのだろう。それさえなければ、現実から目を背けていられるから。

 キジバトが鳴いている。泣きたいのは自分だ、と彼女は思った。

 諦めて歩み始めたとき、近所の気の良いおばさんとすれ違った。市民活動をしていると聞いたことがあって、シミンカツドウが何なのかも分からないまま飲み込んだものだった。得体の知れない活動をしているけれど、気の良いおばさんは嫌いではないから、彼女は会釈をした。ところが、ちょうど彼女が歩いてきた方向に世間話の相方を見つけたものだから、気の良いおばさんは会釈をしたかしないかのところで声を張り上げた。半ば無視されたような形になってしまい、彼女はキジバトが懲りずに鳴いているのを聞こえないふりをして、家に帰ったら思い切り泣いてやろうと思った。

 少女は自宅の鍵を忘れてしまっていた。ベルを鳴らしても誰も出ない。祖母は出かけているのだろう。まさかのときのために、合鍵はポストの中に入れているのだ。そうした取り決めをした母に向かって、不用心だなあと笑ったあの日の彼女はどこかに消えた。彼女は鬱屈した気持ちを抱えつつ、ようやく解放されたような思いでポストに手をかけた。

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