2020/07/06
衆人環視の下に行われたその行為を、世間では秋の舞踏と呼ぶらしい。
大人たちがカーテンの陰に隠れて覗いているのを、何故かしら悪い行いをしているかのように感じた幼い頃の私は、きっと正しい。それでも未だに秋の舞踏を見たことがない私は、そうした根拠を得られずに、妹と一緒になって何をしているんだろうと興味を持ち続けた。
秋の舞踏は大抵は朝焼けとともに行われる。大人たちは歓声を上げながらそれを覗いているけれど、少なくとも窓の向こう側では風の吹く音がするばかりで他には何の物音もしない。
「本当に何を見ているんだろう」
「大したことじゃないわよ」
妹はいつもそんな達観したような言い方をする。年長のはずの私は、そんな妹を頼もしく感じもすれば、疎ましく思いもするし、恐ろしい子のように見てしまうこともある。
それでもこのときは、妹だけがたった一人の味方だった。
「あなた、見たことがあるの?」
「ないけど」
「じゃあ分からないでしょう」
「友達の男の子が言っていたのよ、大したことじゃないって」
友達の、男の子。十歳の妹は、今が男の子を純粋な友達と感じられる最後の年頃であるかもしれない。その辺りの機微が多少は分かるから、私は大人たちを疑わしく感じるのだ。
「見なければ、最後は自分の目で見なければ分からないわ」
「そうね……」
しかし無力な私たちは、カーテンの向こうの光景を想像することしかできない。私は何を想像するだろう。
野を駆ける狼が逃げ回る獲物に食らいつく。震えながら命の煌きを散らしていく獲物は、次第次第に狼の牙によって解体されていく……。
あまり気持ちの良い想像ではないけれど、何かそうしたことを発展させていったような、恐ろしい出来事が起こっているのではないだろうか。
そんなあれこれを考えるうち、妹は熊のぬいぐるみを抱えたまま、私の肩に頭を預けている。眠っているときは可愛らしい、私の妹……。私もまた、眠りの中に落ち込んでいくのを感じるのだった。……
「おい、窓を開けるなと言っただろう! あっ、ああっ……!」
強い風とともに吹き込んできそうになった白い綿毛を大人たちが精一杯押し返そうとする。が、大人たちの奮闘も虚しく、綿毛は次から次へと部屋の中に侵入してくるのだった。そして奥で眠っていた背の高い方の少女の頬に、白い綿毛が着地した。胎動が、始まる。




