狼ちゃんの告白と羊くんの狼狽。2
「知ってたんだ……」
私の呟きに彼はコクリと頷いた。彼と違い私は目立たないその他大勢の一人だ。名前を知っていてくれるだけで奇跡みたいなものだ。私の顔に熱が集まっていく。
「まさか、名前を知っていてくれるなんて……嬉しい」
私はニコリと微笑んだ。顔はきっと真っ赤だろう。それでも、出来るだけ堂々と、彼の方を見た。振られても笑顔が可愛いと思われたい。純粋な乙女心だ。
………………
…………
……
「お前……、歯―――!!!」
私の耳に、またもや予想外の絶叫が飛び込んできた。
彼は謎の叫びと共に、震えだした。顔色も血の気が引いていく。明らかに恐怖を感じている。
ちょっと、待て。
ここは、私の切ない笑顔に、彼が動揺して、頭から離れなくなる……そういうパターンのはずだ。
それなのに、彼の思考の中心は(歯)。
なんでやねん。
私は、口角をぴくぴくしながら、口を開いた。
「あのさ、仮にも告白してきた女の子の健気な笑顔見て、歯はないでしょ。八重歯気にしてるんですけど」
私の八重歯は鋭い。それはそれは、鋭い。もちろんコンプレックスの一つだ。
「あ、いや、ごめん」
彼はまだ震えている。