第9軍異世界にて。
初めての投稿です。
序章。
ドイツ軍第9軍が異世界へ来て2ヶ月…。
「コマンダンテ(司令官)、敵は真っ直ぐこちらに向けて北上中。貴方の予想通りです」
伝令の言葉を聞くと第9軍司令官テオドーア・ブッセ大将はニヤリと笑った。
「ベルリンとは違い良い報告だダイク少尉。こちらもそろそろ迎え撃つ準備だ。ショルツ少将の第20装甲擲弾兵師団に攻撃の指示を。ペターゼン親衛隊大将の第18装甲擲弾兵師団、SS第18戦車大隊にもだ。」
「了解です、コマンダンテ。我らが祖国に勝利を、ハイルヒトラー!」
ナチ式の敬礼をするとダイク少尉はすぐにテントを出た。だが、この世界にきて数ヶ月が経つがまだ頭が理解しきれていない。なんだこのおとぎ話の世界は。剣と魔法、エルフにドワーフや魔族。そしてオークやドラゴン…。まるで絵本の中の世界だ。私がいた世界とは比べ物にならないぐらい有り得ないのだ。数ヶ月前に我々は、ベルリンを死守する為ソ連軍と戦い続けていた。そして今ではどこか知らない世界で騎士どもやこの世界の住民どもと対峙している。どこに来ても安息はないようだ。…だがこの世界に来た以上、我々は生き残るために武器を取るしかないだろう。幸いこちらには、ベルリン防衛の為に補給した弾薬や装備品、この世界にはない銃火器もある。奴らの剣や鎧や魔法とは違うのだよ。将兵10万の命は私にある。目の前にいる邪魔なものは消し去るだけだ。
第18装甲擲弾兵師団
ペーター・クルッヘン
父さんから本当に戦に出る覚悟はあるのかと聞かれた。良い兵士は、敵が人間だと認識することがなく、敵を殺せるらしい。奴らを人間だと認識してしまった瞬間、良い兵士ではなくなると。どうやら私はよい兵士だったようだ。
良い兵士の条件とは、賢さか、優しさか。7歳の時に夕食のテーブルで父さんにされた質問だ。答えを聞かなかったため、質問の内容はよく覚えている。父さんはとても頭の良い人だった。そのため、自分が馬鹿だとよく感じていた。
この数年間、俺達は至る所、至る状況で戦った。夢にもしなかった武器を持って。だが死は死でしかない。どの言葉で叫ぼうと、痛みは痛みでしかないのだ。
いい兵士の条件とは、賢さか、優しさか。ペーターは戦車のハッチから身を乗り出し叫んだ。
「進め、シュルツ!」
何十輌ものドイツ軍戦車が轟音を上げ、夕日のオレンジ色染まる草原を走りだす。
「正面二時の方向!騎馬隊だ!」
ペーターが指差した方向には、数人の魔道士の他に凛々しい顔に槍を装備し鎧に身を固めた騎士が馬にのり、四つの蹄に砂埃を巻き上げながらこちらに走り続けていた。先頭の馬に乗っていた魔道士が空高く杖を振り上げる。するとどこからか現れた炎がこちらに向けて射出される。炎は隣の地面に直撃し爆発した。落雷にも似た胸が潰れるような音が轟き、砂利と石が宙に舞う。ペーターはハッチを閉め中に入る。それと同時に無線から中隊長の声が車内に響き渡った。
『各車輌このまま進み、隊形を維持!我らがSS親衛隊に誇りある勝利を!』
どうやら中隊長は騎馬隊など眼中にないらしい。だが黙って走り続ける訳にはいかない。ペーターは砲手の肩に手をやり叫んだ。
「マルク、撃ち方用意!」
砲手は頷く。そして車内に爆音が鳴り響いた。落雷にも似た胸が潰れるような音が轟き、砲弾は騎馬隊の中心に命中し爆発した。榴弾が直撃し辺りに真っ赤な血と肉片が飛び散った。車内に喜びの声が上がる。だが喜びはつかの間、煙の中から敵の新たな増援が現れた。
「中隊長、右翼に敵の増援視認!」
そうペーターは無線局に叫んだ。まさか罠か?
『騎馬隊が何だ、気にするな!今は作戦に集中しろ!』
ペーターは歯を食いしばる。そして冷静にシュルツに言う。
「止まるなよ。敵は魔術師付きだ、的を絞らせるな!生きてドイツの地を踏むぞ!」
シュルツは操縦桿を握りしめる。敵魔道士から爆裂魔法が何発も何発も、弧を描きながらまっすぐこちらへ飛んできた。何発かは戦車の隣に着弾し爆発した。それをみてシュルツが叫ぶ。
「爆裂魔法確認!」
「大丈夫だ!ティーガーの装甲を信じろ!」
良い兵士の条件は、賢さか、優しさか。私にはまだ分からない、父さん。
第一章へ続く…。