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白銀王と日帰り王妃  作者: 守野伊音
第三章
59/69

58勤







 散々泣いて泣いて泣いて、全てがぐずぐずになった頃、一度大きな欠伸が出た。

 それを見たルスランは、ずっと穏やかにしていた表情をほっと崩した。ルスランはいつもそうだ。私が本気で大泣きしたら、穏やかな顔を維持しようと努める。そうすれば私が安心して落ち着くからだ。その分、泣き止んだときは本当にほっとした顔になった。


「よし、泣き止むな」


 そう、私は昔からどんなに大泣きしていても、何故か欠伸が出たら涙が止まるのである。どんなに悲しくても、怒っていても、やりきれなくても、不謹慎にも思える欠伸が出たらぴたりと止まる。

 今も目尻に堪っていた滴が行ってき零れたら、後続はなかった。しゃくり上げもいつの間にか止まっている。




「月子」

「……うん」

「何があったか、話せるか?」


 そっと問われ、喉がひくついた。言葉を出そうとすると、さっきまでの恐怖がまた形になろうとしているのが分かる。俯いた私の頭に、ぽんっと掌が乗せられた。


「分かった。じゃあ後でいい。どうせここから休憩に入るからな。朝はどっちで食べるんだ? 戻るか? ここにいてもいいし、戻ってもいい。ただその前にブラン達を回収したいんだが、いいか?」


 ぽんぽんといつも通りと変わらない口調で話が進んでいくから、頷くしか出来ない。

 ルスランはよしっと笑い、鏡台の中に消えた。あっと声が出てしまった。行かないでと無意識に伸ばしていた手を慌てて引き戻す。ルスランは忙しいのだ。べそをかく役立たずの相手なんてしている暇はない。


 ルスランがいなくなって普通の鏡に戻っている鏡台には、自嘲気味に笑う自分の姿が映っていた。酷い顔だなと自嘲が酷くなっていく自分の顔が揺れた。ルスランが戻ってくるのかと思ったら、寝室の扉が勢いよく開く。誰か来たのかと慌てて視線を向ける。




 扉の向こうには、ロベリアとマクシムさんの姿が見えた。ただし、扉から少し離れた場所にあるソファーに座っている。皆で会議をするときに使っているソファーだけれど、驚いてこっちを見ている二人の手は扉に届かないはずだ。魔力0の私には知るよしもないが、魔術的な何かで開けることは可能だろう。だが、それにしては二人とも非常に驚いている。



「お」


 うひさま、と続くはずだったと思われるロベリアの言葉は、私の目の前をすぽーんと吹っ飛んでいった謎の物体により遮られた。

 鏡台から何かが飛び出してきた。それが直立不動のブランさんだと気づくのに一拍を要する。

 直立不動のブランさんが横倒しになった状態で、鏡台から扉を通り、隣の部屋へと滑り込んでいく。次いで、知らない男の人達が全部で六人次から次へと通過していく。

 隣の部屋の床で一列に並んで横たわる姿は、まさに市場に並ぶ競り中の冷凍マグロ。

 出荷準備中。





 唖然としている私の前にルスランが戻ってきた。

 六匹の冷凍マグロ、もとい六人の冷凍ブランさん達は、ルスランが戻ってきた途端、直立不動の体勢がかくんと解けた。しかし、彼らが起き上がる前に寝室の扉は閉まった。へたすると、彼らは鏡台すら見ていないのではなかろうか。


「安心しろ、月子。奴らには一瞬も向こうの様子を見せてない」


 出荷されたブランさん達が扉の向こうで目覚めたらしく、おいおい嘆いている声が聞こえてくる。それをすっぱり無視するルスランは凄い。ブランさん達には申し訳ないが、私も彼らの研究精神より家族と我が家が大切なので、ここはルスランを支持したいと思う。


「さて、これで家は静かになった。どうする? 帰るか? 報告はまた後でいいから。疲れたな。もう休もうか」


 まるで小さな子どもに伺いを立てるような、柔らかいルスランの言葉と声音に、この人本当に甘いなと思う。

 私が傷つけば、真綿でもまだ有り余る柔らかさで包み、甘さで宥め賺し、優しさで閉ざそうとする。この人は私をどうしようもなく甘やかす。

 でも本当は、彼が深く傷ついたときに必要だった物なんじゃないかと最近気がついた。それくらい丁寧に丁寧に守らなければ耐えきれない傷を負ったのに、世界は彼を守るどころか追い詰めていく。







「…………コレットに、会ってくる」


 このまま戻っても、うまく休めない気がした。いま見たことを話さないまま帰ったところで気なんて休まらない。だからといって自分でもまだうまく飲み込めてないことを今すぐ話すことも出来ない。だったら、こっちにいるほうがいい。

 どちらにしても、戻ってきたらコレットに会って次へのパワーを充電するのが大事な儀式になっていた。


「そうか。じゃあ、準備するか」


 ルスランの手が伸びてきて、私の視界を覆った。片手で私の顔半分を悠々と覆ってしまえる手が、何だかひんやりしてきた。


「腫れを冷やしてからじゃないと、目を覚ましたオレン嬢をびっくりさせるぞ」


 いつでもどこでも使用できるルスラン印の高級アイマスク(冷)が、熱を持った目蓋をじんわり冷やしていく。視界は覆われて何も見えない。だけど、指の隙間から見える赤い光は分かる。この赤は、平気だ。だってこれは、ルスランの身体を流れる命の色だ。私の大事な人が生きている証だから、怖くない。


「気持ちいい」

「そうか」

「うん」


 何かを言いたかった。だけど、自分の中で何一つ落ち着いていない感情を口にすることは出来ず黙ってされるがままの私に、ルスランは何も言わない。私は、目元を冷やしてくれる手が温かいなと、矛盾したことを考えていた。






 ルスランが聞かない以上、自分も聞かない。ロベリアはそう決めているようで、ルスランを見送り二人でコレットの元へ向かっていても何も聞いてはこなかった。

 夢の内容も泣いた理由も、大丈夫かの言葉さえなく、何事もなく過ごす彼に感謝する。放っておくという優しさもあるのだとこういうとき実感する。



 ルスランはまだ仕事がある。夜の間に増えた仕事と朝になって戻ってきた通常業務に取りかかった。事件があろうがなかろうが、変わらない営みがある以上、日常の仕事は巡り続ける。事件のことは、私達が先に話し合った内容を他の人に回さなければならないらしく、その為にまた時間を割くらしい。

 私が眠っている間、ルスランも寝ていない。ルスランもそろそろ一旦休憩しないと倒れてしまう。私が泣き止んだとき、ほっと力を抜いた顔は、酷くやつれていた。身体的な疲労と精神的な疲労が折り重なれば、単体で受けるより疲労度は跳ね上がる。

 コレットの部屋に辿り着いたが、ロベリアは「あ」と声を上げた。


「駄目だ、先客。ちょっと時間潰してこようぜ」

「先客?」

「そ。生命維持石交換に来てる」


 扉を開ける前からそれに気づけたロベリアに今更驚きはしないけれど、毎度凄いなと感心する。最初にお見舞いに来た時にも同じことがあった。あれから一晩経っただけなのに、もう交換しなければならないのか。


「その石って、頻繁に変えなきゃ駄目なの?」

「毎日四度交換が基本。消耗が激しなければもっと頻繁に変えなきゃ保たねぇな。けど石はそう簡単に作れるもんじゃねぇし、使われてなくても時間と共に使える時間は削れてく。だから地方にはあまり配布されてないんだ。今回の被害者達も、そういうこともあって城に集められてるからな」


 魔術は色々便利だなと思っていたけれど、やっぱりままならないことはあるらしい。邪魔するつもりはないので大人しく廊下で待とうと壁に背中をつけて、はたと気づく。


「他の人達もお城にいるの? 二百人以上いるって聞いたけど」

「いるさ。でかい場所の壁抜いて一カ所に纏めてる。意識ないんなら二百人程度城ん中に収容できるけど、見舞いの奴らを通すとなると身元証明の手間がかかるから、あんま広範囲解放しなくていい場所に纏めてるの」


 成程。だから、身元がはっきりしている上に身分が高いコレットの部屋周辺は静かなままだったのか。

 確かに寝ている人なら機密とか考えなくてよさそうだから少々奥まった場所に部屋を用意しても構わないだろうけど、お見舞いの人が来るとなるとそうはいかない。面会謝絶となると余計な心配や軋轢を生むことになるかもしれず、部屋を分けすぎると維持管理だけで手間が倍増することも分かる。


 そうは言ってもすぐに全員集めることは難しかっただろうから、事件が発覚して数日経ったいまようやく集まり始めたのかもしれない。それなら、一度見てみたい。コレット含むお城にいた数人は見たけれど、沢山見たら何か分かるかもしれない。


 駄目元で頼んでみたら、ロベリアはちょっと悩み、ルスランに指示を仰ぐことになった。

 ルスランからは、無理はしないことを条件に許可が出た。実はルスランはルスランでちょっと悩んでいたけれど、幸か不幸か、今は甘やかしモードに入っているおかげで許可が出たと私は思っている。






 辿り着いたのは、とても広い建物だった。巨大な体育館みたいだ。壁を抜いていると言っていたので、普段はもっと細かく区切られているのだろう。

 急遽用意したとは思えない数のベッドがずらりと並んでいる。それらを個別に囲うカーテンがついているものもあったが、大半のベッドがそのままだ。ただし、宙に四角く覆うためのレーンは浮いていたので、単にカーテンが届いていないだけのようである。病院の大部屋が巨大になったみたいだ。その中を人がひっきりなしに往復している。同じ服を着ている人は制服だろうから職員さんで。いろいろ自由な服装はお見舞いの人達だろうと予測を立てる。

 入り口から中を覗いていたら、端に立っている衛兵の男の人がこっちに気づいた。それまで話していた相手に何かを書き込んだボードを渡し、こっちを向いた。


「お見舞いかな? 相手の名前は?」


 懐からもう一枚ボードが出てきて、ちょっとびっくりする。どうやらそっちにこの場にいる人の名簿が書かれているようだ。どう答えたものかと悩んだ私に変わり、おどおどびくびくしながらロベリアが進み出た。


「わ、私達……今回の事件の、ちょ、調査を、しておりまして……」

「おっと、そうだったのか。許可証はあるかい?」

「は、はい」


 わたわたと取り出されたのは、カードくらいの大きさの四角い、板……ガラス……宝石……プラスチック……カードくらいの大きさの四角い何かだった。材質不明のカードを受け取った衛兵さんは、表と裏にざっと目を通す。


「よし、入っていいよ。中、まだ設営済んでない物もあって散らばってるから、足下気をつけてね」

「あ、ありがとうございます……」


 返してもらったカードをしまい直しながら、おどおどと頭を下げるロベリアに習って、ぺこぺこと頭を下げながら衛兵さんの前を通る。

 中はごちゃごちゃしているように見えたけれど、それは見舞客の服の色が統一されていないからそう思っただけのようで、物は思っていたよりずっと整然としていた。少なくとも、箱から転がり出た物がそのまま散らばっているということはない。



 ベッドに寄り添う人々は、ベッドで眠り続ける人々と同じくらい様々だった。性別も年齢も服装も、見舞う態度も人それぞれだ。ずっと泣いている人もいた。笑いながら話しかける人もいた。ただ黙って見つめている人もいた。椅子に座って本を読んでいる人もいた。手を繋ぎ、ベッドの突っ伏して眠っている人もいた。一人で眠り続ける人もいる。


 静かな部屋で一人眠り続けるコレットの姿を思い出し、服を握りしめる。

 別に、お見舞いの数が多いからいい、少ないから悪いなんてことはない。どうしても抜けられない仕事や、遠方にいてすぐ来られない人もいるだろう。今は偶然席を外しているだけの人もいるだろう。家族がいない人もいるだろう。ずっといてくれなきゃつらい人もいるだろう。一度も来なくても平気な人もいるだろう。

 それぞれがどんな関係をよしとしているかなんて様々で、他人の私が何がいいか悪いかなんて判断するのは傲慢だ。



 考えるのは、誰かと比べるんじゃなくて、じゃあその人はどうなのかなからだ。コレットは、どうなのだろう。ネルギーさんはどうして、一度もコレットを見舞わないのだろう。見舞えない理由があるのだろうか。見舞わない理由があるのだろうか。あるとしたら、それはどんなものだろう。







「お、奥様……混雑して参りましたので、す、少し場所を」


 ぼそぼそと教えてくれた言葉にいつの間にか俯いていた顔を上げると、確かにさっきより人が増えている。沢山のベッドを置くために通路の幅は狭く設定されているようで、お見舞いの人々が腰を押しつけようと移動している間はどうしたって混み合う。誰か特定のお見舞いの相手がいるわけではない私は、少し寄っていたほうが無難だろうと壁を目指して歩き出す。

 しかし、元気よく響く声が私の裾を握ったことで足を止めた。


「お兄ちゃん!」


 振り向けば厳ついおじさんがいた。びっくりした。無言でつっついてくるロベリアに視線を向ける。ロベリアの指は地面を指さしていた。指先を追いかけて視線を落とせば、目をまん丸にした女の子が私を見上げていた。あんまり小さな子と関わりがなかったので年齢当てクイズに自信はないけれど、大雑把に見て幼稚園児くらいの年齢だろう。たぶん。女の子は、大きくまん丸な目で私を見上げ、ぷっくりと膨れた唇を震わせた。


「お兄ちゃんじゃ、ない」


 大変申し訳ない。何も悪いことはしてないはずなのに、凄まじい勢いで罪悪感が襲いかかってくる。声か身長か髪型か動きやすい格好か、一緒にいるロベリアの姿がお兄ちゃんの同伴者に似ていたのか、はたまた現れたタイミングか、そのどれかが紛らわしくて本当にごめんね!

 心の中で必死に謝っている間に、さっきまでの元気な声が一気に萎れ、顔面まで萎れていく。


「うわぁああああ! お兄さーん! 迷子ですー! お兄さーん! 黄色のワンピースをお召しの可愛らしい女の子の妹さんが泣き出す三秒前のお顔でお待ちです! ただちに一階ベッド前にお越しください! またのお越しを従業員一同心よりお待ち申し上げております!」

「奥様、ここ全部一階で、全部ベッド前。あと、基本的に年下の女だと妹。それと平たく言えばこの場であんただけが従業員じゃない。更に、泣き出す三秒前っていうか、もう泣いてる」


 何だって!? 

 ぼそぼそと全方向にツッコミを入れてくるロベリアの言葉に慌てて視線を落とせば、ぼったぼったと大粒の涙が落ちている。私は、子どもがふぐふぐと呻くような声で泣いている事実を目の当たりにした。静かに盛大に泣く子だ。慌てて袖口を押しつけて涙を拭く。袖を離したら彼女との間にてろんとした透明の橋ができていた。うむ、致し方なし。勢いがあって大変宜しい。

 橋が架かった部分は折り込んで隠す。洗濯当番の人に心の中で深く詫びる。




「ロベリア!」

「は、はい、奥様……」

「お嬢ちゃん持ち上げて、そう、それで私に乗せて。完璧、ありがとう!」


 ぼったぼったと静かに盛大に泣く女の子を肩に乗せてもらう。私とロベリアの今の身長はさほど変わらないため、どっちが肩車しても大した違いはない。ならばやかましいほうに乗せたほうが目立つはずだ。女の子には適当な場所を掴んでもらう。女の子はふぐふぐ泣きながら、両手でしっかりと私の髪を掴んだ。掴みやすいよね。分かるー。


「迷子です! 迷子のお知らせでーす!」


 ここが病院なら大声厳禁だけど、患者の皆様は深い眠りの中にいるので、多少の大声は大目に見てもらおう。むしろこのやかましさで目覚めて頂きたい。

 私は女の子と二本のアンテナを装備し、人混みの中に繰り出した。子どもといえど、何キロもある物体が肩の上で動いていると、たまによろけてしまう。その拍子に、杖をついた小柄お婆さんにぶつかりそうになってしまった。


「あ、すみません!」

「気にせんでええ。年寄りは動きが鈍いけえ、すまんかったね。はよう、お嬢ちゃんのご両親探してあげんさい」


 優しいおばさんはこれでも食べなさいと蜜柑を三つもくれた。こっちの世界では蜜柑じゃないかもしれないけれど、少なくとも蜜柑のような果物だ。小ぶりだけど皮が薄い。若木じゃなくてそれなりに年を取った木から取れた蜜柑のようだ。こういう蜜柑は甘いのよと、曾お婆ちゃんが教えてくれたのを思い出す。その曾お婆ちゃんの故郷で、迷子背負ってアンテナ作ってるんだから、世の中何があるか分からないものである。


 お婆さんにお礼を言って別れ、人混みを縫って歩いたら、女の子が両手のアンテナを引っ張った。


「あいたぁ!」

「あっち! いた! いた! いたぁ!」

「いたの!? いた、いたいたいたいたいたい! ごめんちょっと力緩めてもらえると嬉しいかな! 掴んでる部分全部抜けて五百円玉ハゲができ、いったぁ!?」


 女の子渾身の舵取りで悶える私の肩を、ロベリアがそっと叩いた。


「……どんな奥様でも、旦那様なら受け止めてくださいますよ」


 どうやら助ける気はないらしい。私は五百円玉ハゲ×2を覚悟した。




「スイ!」


 何度も名前を呼ぶ大きな声がだんだん近づいてくる。しかし、ロベリアは首を傾げた。


「ありゃどう見ても兄貴じゃねぇなぁ」


 私にだけ聞こえる声でぽそっと呟きながら、私の前に移動する。人混みをかき分けて飛び出してきたのは、ごっつい男の人だった。岩。岩だ。岩が私の目の前で泣き出しそうな顔になっている。え? 私この人と間違われたの? 私こんなにごつい? これならルスランを守れる? だったらいいか。

 腕の太さが私の太股以上ありそうな男の人の後ろから、繊細な水のような雰囲気を持った女性が現れた。


「ああ、スイ。よかった! 一人で走っていったら駄目でしょう!」

「お母さん、ごめんなさい……」


 スイと呼ばれた女の子は、お母さんに叱られ、しょんぼりと男の人に手を伸ばした。


「お父さんも、ごめんなさい……」

「後で叱るからな。それにしても、無事でよかった」


 危険はないと判断したのか、ロベリアがそっと私の横に移動した。私の頭から女の子を抱き上げ、男の人に渡す。男の人はほっと表情を緩める。優しそうな岩だ。

 手放されてへにょりと落ちたアンテナを周囲に馴染ませている私に、スイのご両親はそれぞれお礼を言ってくれた。


「ご迷惑をおかけしました。ありがとうございます」

「本当に何てお礼を申し上げればいいのか……手を繋いでいたんですが、振り払って走って行ってしまって」


 そりゃあ大変だ。子どもの力といえど、突然全力で手をすっぽぬかれたら逃げられるだろう。スイちゃん、なかなかやるな。











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