40勤
ほんの僅かな隙を見つけては関わりを持とうとする人間も、恐怖を持って息を詰めている人間も、普段ならばこちらの様子を窺うことに注力する暇を異常事態への確認へ向けている。ここで王のご機嫌取りに注力する人間は無能と判断されるだけだ。最低限その分別がついているのであれば、普段の煩わしさの多少は目を瞑る。
慌ただしく流れる人の声、足音、映像、文字。その中から必要なものを抜き出す行為は、そう難しいものではない。一度慣れてしまえば、瞬きのように、呼吸のように、意識せずとも行われるようになる。
ルスランは、現段階では会話の中に有力な情報がないと判断し、手元のデータに意識を向けた。
ほとんどの人間はいくつも浮かぶ巨大な画面を見ながら話をするが、ルスランは手元にある同じ情報が流れる画面を見ながら眉を寄せた。そこにはこの島の情報が表示されている。
ぐらりと世界が揺れた。小さな悲鳴が上がるも、大声となる前に揺れは消え去る。
「数値は」
横に立つブランへ問うも、男は難しい顔をした小さく首を振った。
「何も……何の乱れもないのです。ですが、島は確かに揺れている。ここが空である以上、地脈の乱れであるはずがない。しかし、魔力の変動ならば必ず数値が取れるはずです。あり得ませんが、仮に人為的なものであったとしても、これだけの規模に影響を与えるのであれば必ず何かには引っかかるはずなのですが」
「可能性として上げられるものはないのか」
「現段階では憶測と呼ぶのもおこがましいのですが……」
「構わん」
研究者としては、数値も確信も何もない、思いつきと呼べる段階にも到達せず始まりですらないものを披露するのは苦痛だ。だが、今はそんなことを言える状況ではない。
そう、異常なのだ。異常であり、異様だ。
宙にある島が、浮かべている魔力の変動なしに揺れたのだ。幽霊にでも揺られたというのか。そんな冗談が冗談にならない。何せ、何の原因も見つからないのだから。全ての理由が当てはまる可能性があり、また全ての理由が当てはまらない理由がある。
この段階が一番恐ろしいのだ。一番情報が少ない段階でありながら、舵取りを間違えれば恐ろしいほどの時間を消耗し、何の成果も得られず、見るも無惨な被害をもたらす場合がある。
初動は、手探りで進む方向を決めなければならないのに、間違えば一番被害を大きくする時間だ。だからといって時間をかけられるかどうかも分からないのだ。精査する時間があるかどうかも分からない中、進む方向を決めなければならない。
ルスランは、ここに月子がいれば「無茶ぶりやめてください!」と叫ぶだろうなと、ふと思った。
ブランは、端から見れば記憶の中でぶれる声と姿で、唸る。
「わたくしが観測出来る魔力は、現時点で全ての生命が持ち得るものであり、全ての魔術の源となるものです。生命から放出された魔力が結晶となり、黄水晶となる。その黄水晶を使い、人は魔術を発動する。そうして世界は巡ってきました。しかしそれは、全て同じ魔力の変換と言えるでしょう。同種の魔力が巡り続け、わたくし共をその魔力を魔力と定義して参りました。ここからは戯れ言として聞いて頂きたいのですが、もし、もしもそれらとは異なる魔力が存在した場合、我々がそれを関知できるとは限りません。現在一般的である魔力ですら観測できる人間は酷く少ないそれはおそらく目に見えぬものを観測するには人間は分かれすぎているのです耳や鼻がいい動物は目が悪い風を読む鳥は脳の進化を諦めた人間は目も耳も鼻も手も脳も、それなりを保ちながら進化してきました故に見えるもの触れられるもの考えつくものにだけ近づきそれ以外のものを受け入れる術を失ったのですつまり人間は感覚で扱うものに疎く弱いということになりますが魔術だけが野生の残りとも言えましょうその魔術を扱う為に必要な魔力の流れを観測できないのは魔力が血液のような存在と仮定しまして」
「そこまで。研究者というのはこれだから……王よ、現在この島に他国の王族および関係親族はおりません」
広間の入り口で何人かに指示を飛ばし、散らせたネルギーがルスランの横に立つ。ネルギーは短く報告を済ませる。
「通達は」
「はい、我が王よ。全ての島民及び島にいる他国民に、島に変動の兆しありと」
「島民の様子は」
「元々が魔力の満ち引きに左右される島。多少の動揺はあれど、普段より有事の際の備えはしております故、案じるほどではないかと。落ちたところで多少の被害はあれど大規模なものにはなりますまい。その対策の為に、保持費の予算を通しているのですから。まして今は祭りの最中。名だたる魔術士がこれだけ揃っていれば、地上からの魔力が途切れたとしても普段ほどとかいかずとも、緩やかに地上へ降下させることは充分可能です」
「いざとなれば私が出る」
「畏まりました」
高い背を少し屈め、手元の画面を見ているネルギーは、宙に流れる文字を読むのが少し苦手なのだ。だから彼は紙を重宝する。特に、機密を重要視する情報は必ず紙を使う。誰も書き換えられないよう希少な炭を使って書き上げる。または、読んだ傍から燃やしてしまう。そういった点を考えると、流れる文字を読むのが苦手だという当人の言は建前の可能性もあったが、目を細めて文字を読み取っている姿を見ると、嘘というわけでもなさそうだ。
「ブラン、貴様の戯言が現実にあると仮定した場合、その魔力は人に御せると思うか」
画面を見ながらかけられた問いに、ブランは唸った。
「我々が一般的に使用している魔力と同質のものであるならば可能と言えるでしょうが、自然と同質のものであるならば不可能であるとお答えするよりありません。現段階では、憶測であろうと言及は避けたいものですが……以前、そのような研究をしている研究者がおりました」
「その者は今どこに?」
「研究内容も研究者自身も、協会に回収されて以来、音沙汰がございません」
協会に回収される。それは、全ての自由の終わりを意味する。
自らが望んで膝元についても結果は同じだが、協会のお抱えであり後ろ盾がついたとむしろ安堵するのだ。だが、回収は違う。協会の膝元に侍ることを望まずとも強制的に抱え込まれる。全ての研究は世に放つ前に協会によって秘匿され、世に放つか否かの決断すら全て奪い取られてしまう。
金も黄水晶も道徳も倫理も、全てが無制限に解放されている協会にあれば、研究はし放題だ。何一つに制限などない。全て湯水のごとく使っても、後から後から代わりは沸いてくる。金に糸目をつけず、浴びるように黄水晶を使い、人の身体を命を尊厳を壊しても、誰にも咎められることなどない。ただ一つ、自らの意思を捨てるだけで、それら全てが手に入る。
世界との隔絶を選び研究に没頭するか、様々な制約に縛られながらも選択という名の自由を残すか。選択できた魔術士はまだ幸せだ。
かつんと、ルスランの指が椅子の手摺りを打った。さほど大きな音ではなかったが、室内中の人間の目がびくりとルスランを見る。だが、視線が自分達を向いていないことを確認し、すぐにほっと緊張を解いた。そんな人々の様子には特に反応を示さず、ブランへ問う。
「その研究者が連れ去られてからの年数は」
「……もう、三十年は昔の話でございます」
「そうか」
おそらく、既に生きてはいないだろう。だが、研究内容が全て協会の手の内にあるとするならば、誰かが引き継いでいる可能性がある。そして、協会が回収という手段をとってまで連れ去ったということは、あながち、ただの妄言ではなかったのかも知れない。
「その研究者は、研究内容に確信を持っていたのか」
「はい……人が扱える、第二の魔力は存在する。彼はそう確信したようです。…………物が物ですので、数値や証拠、証明になる物は何もありませんでした。当然、笑い話でした。誰も信じず、馬鹿にされ、彼はどんどん意固地になっていきました。まるで取り憑かれたかのように研究にのめり込んでいきました。その末に至った証明の出来ぬ確信を、確信と呼んでいいのかは、分かりませんが」
「今の段階では一情報となればそれでいい」
再び世界が揺れる。先程より少し大きな揺れで、棚の上に置かれていた花瓶の位置がずれる。近くにいた男が慌てて抱きかかえるように支えた。壁に手を、床に膝をつけ身体を支える人間も複数見られる。ネルギーもブランも壁に片手をつき、万が一の備えを獲らなければならないほどの揺れの中、座っているルスランはともかく、マクシムは支えもないはずなのに何の反応も見せない。どこまでの揺れならば自立できるのか、ルスランは少し気になった。
「彼は、月光石こそがその証明だと言っておりました」
「――何?」
予想だにしない返答に、反応が一拍遅れた。長年の、癖とも呼べる無表情は崩れず、声音に動揺は何一つ出なかったが、その一拍の遅れにネルギーの眉がぴくりと動く。その遅れに気づいたのはネルギーとマクシムだけで、彼らを除けば一番王の傍に立つブランも気づかぬまま話を続けた。
「月光石の無尽蔵の魔力は、本来ならばあり得ない。ですが、それは我々が使用する魔力と照らし合わせた結果、あり得ないというだけなのです。もし、まったく違った魔力形態をしているのならば、無尽蔵に沸き続ける魔力も不可能と断じることは出来ません。何を通し、何を巡った末に結晶化した石なのかは見当もつきませんが、もしもまったく違う形態の魔力がこの世に存在していると仮定すれば、当てはまる事例は月光石しかあり得ない、と、彼は言いました。そして、まったく違う形態であるならば、我々の常識は悉く覆されます」
「つまり、他者の、または自然界の魔力の流れに介入することが可能である、という可能性があるということか」
「はい、あくまで可能性の話ですが。そう出来る証明も出来ぬ証明も不可能故の仮説の中で成り立つ可能性です。かつて月光石を所持していた魔術士は、協会の創設に手を貸したと言われています。世界を統一させたと言っても過言ではない事態を成し得たのは、やはり月光石の力があったことが大きいでしょう。ですが我々では関与出来ない魔力に関与出来ると仮定した場合その魔力を扱うことは可能なのでしょうかその魔力に我々は触れられるのかまたはその魔力で我々に触れられるのか月光石を使用する為には何か条件があるのか月光石と黄水晶の相似性はどれほどの物で黄水晶の品質のどの程度であれば月光石に近しいのか月光石に黄水晶のような品質の差はあり得るのかそもそも何の魔力の結晶なのか」
表情はぴくりとも動かず、口元だけが異様な速度で回り始めるいつもの癖がでた段階で、ネルギーが手を打ち鳴らした。
「可能性の話、ご苦労。頭には止めておくとしよう。貴様は早々に現場へと戻り、引き続き計測を続けろ。異変があろうがなかろうが、逐一報告は入れろ。以上だ。下がれ」
自分でも自覚している悪い癖を直せないブランは、他者からはぶれて定まらない顔にそれでも困ったような表情を浮かべた。
一礼し、慌ただしく動き回る人々の間を縫うように擦り抜けて出て行った後は、さっきまで会っていた男の顔も声も、年齢も体型も、全てが曖昧にぼやける。何度体験しても慣れぬ心地悪さを切り替え、ルスランは深く背もたれに体重を預けた。
「……厄介だな」
「あくまで可能性の話ではございますが、厄介でございますね。貴方様の王妃と同じほど、厄介で頭の痛いお話でございます」
視線だけを向けたルスランを、背の高い男が見下ろしてくる。手足だけが伸びたのではないかと思えるひょろ長い男は、よく見れば端整な顔立ちをしているものの、まずこの風体に目がいってしまう。立ったルスランより高い男を、座ったまま見上げているのだ。男の顔は酷くお遠い。
こんな妖怪いそうだなと、昔からルスランが思っているとは露とも知らぬ男は、淡々と続ける。
「品もなければ教養もない。美しさもなければ学もない。さらにこの国への愛着もなく機転も利かず、ただ遠い昔にレミアムを去った至宝の血をうっすら引いているだけの価値しかない小娘を王妃に迎える余裕は、レミアムにはございません。先程の可能性を仮定として、この島を揺らすのに何人の魔術士が必要と思われますか?」
「レミアムの宰相が、人の妻にたちの悪い令嬢のような嫌がらせを手ずから行う余裕はあるようだがな。オレン家当主は、よほど暇を持て余していると見える。ただ一時揺らすだけというのなら、二十名は必要ないだろう」
「レミアムの一大事でございますれば。たちの悪いご令嬢のような嫌がらせにとどめたのは温情でございますが、レミアム宰相として腕を振るわせて頂けるのならば喜んで。命を懸ければもう少し減らせるでしょうが……これが実験段階と見るか、何か目的あっての事と見るかによって見解が分かれますね」
「レミアムの宰相は女をなぶることに長けているなどと不名誉な噂を立てられそうだな。実験ならば既にどこかで済ませているだろう。わざわざこの時期にレミアムで行う理由がない。条件に合う島なら世界中にあるだろう」
「あの程度のことで傷つき立ち上がれないような小娘は、王妃どころか貴族の娘としても論外でございましょう。そうですね。ならばやはりそれなりの人数は考えておいた方が宜しいかと。少人数で島を揺らしたのであれば、逆に厄介ですが」
「それは当人が心構えとして持つものであって、傷つける側が己の行為の正当性を主張する為にあるものではないな。少人数でも大規模な変動を引き起こせる『石』となると、確かに厄介だ」
お互いに目も合わせず、矢継ぎ早に繰り広げられる和やかさの欠片もない応酬に、ただでさえ距離を取っていた周囲の人間がまた一歩下がった。
「こんな馬鹿げた事態、よりにもよってマクシムが許すとは思いも寄らなかった。王のご意志以外で一番の障壁はマクシムだと思っていたが、とんだ誤算だ」
置物のように身じろぎ一つせず立っていたマクシムは、突如自分へと会話を振った相手をゆっくりと見る。
「……先程まで、お二人は揉めておられた」
ネルギーは呆れた顔を見せた。
「あの程度のことで?」
「ネルギー殿の件はきっかけではあっただろうが直接の関係はないと判断する。さらに程度の判断はご当人同士でつけて頂く。それはさておき、今回の件については、俺はルスラン様ではなく月子様につかせて頂く」
「……は?」
優秀な頭脳でも処理しきれなかったのであろうネルギーの珍しい声と顔に、ルスランは思わず笑いそうになった。それはそうだろう。マクシムは常にルスラン側の人間だった。ルスランが遠ざけようと苦心していた間も、冷遇していた間も、マクシムは一度だってルスラン側にいたのだ。
マクシムは、視線をネルギーからルスランへと下ろした。
「今回の件に関しては、ルスラン様、貴方が悪い」
「ああ、そうだな」
「月子様のほうが余程腹と覚悟が決まっているではありませんか。何をなさっておいでです。成長しようとするものを無理に塞いでは、ただ歪むだけです。塞ぐのではなく、伸びやすい環境を整えて差し上げるべきではないのですか」
「……ああ、そうだな」
ぐうの音も出ない。何一つ反論出来ず、またするつもりもなかった。
月子が宝箱に収まっていることで幸福を感じる人間ではないことを分かっていた。分かっていながら出さなかった。その結果が、怒らせるよりも傷つけた。そうと分かっていて、出さなかった。その理由は分かっている。己の弱さだ。
ルスランは息を吐きながら軽く俯いた。長い髪は表情を隠すのに適していて、こんな時は便利だ。
「ネルギー。私の妃が、コレット・オレン嬢を講師として招きたいそうだ」
「はい? 当主として謹んでお断りさせて頂きます。嫁入り前の大切な身。王妃様が貧相な御身を嘆き、我が妹を傷つける恐れがございます故」
「魔力を一切持たない王妃に傷つけられる心配をされては、コレット・オレン嬢も立つ瀬がないだろうな。是か否か、当人の意思を確認した上で返答しろ」
言葉を切ると同時に、部屋の中へ大量の黄水晶が運び込まれてくる。本格的にこの場を会議室兼観測所へと整えるためだ。
「……その王妃を、何故全国にふれを出してまで協会が欲しているのです」
「先日報告してきたお前自身が出した結論を忘れたのか」
城外の任務に追い出されていたネルギーが持ち帰った、協会絡みでレミアムを対象にした報告の。協会が最近世界に下した命令の中では群を抜いて大規模なものでありながら、ネルギーからすれば一番意味が分からなかった命令が『レミアムの王妃を協会に差し出せ』というものだ。毎度毎度お決まりの、協会の願いを叶えたものには莫大な金と黄水晶、魔術士には研究環境の優遇がつけられた、世界規模の命令だ。
それを聞いた王の反応を、ネルギーは思い出す。驚きも、怒りもしなかった。ただ一言「そうだろうな」と言ったきりだ。何か心当たりがあるのか問うても、返答はなかった。
「リュスティナ様の血を欲して、というには、ふれの規模が大きすぎましょうと申し上げたはずですが」
「では、ロベリアの出した結論だろう」
「協会の関係者が見初めて……? あのお飾りの王妃のどこに見初める要素があるというのです」
その答えが月光石だからであると知っている主従は、何一つ表情に出さぬまま飲み込んだ。だが、このままではネルギーが引き下がらないことも知っていた。突発的な事態が起こりでもしない限りこの話題を続けると分かり、ルスランは正直に話すことにした。
「私の正気の在処を知ったからだろう」
「……ご冗談を」
滅多に笑わぬ王がうっすらと笑みを浮かべた。
「――そう思うか?」
ネルギーは口を閉ざした。この笑い方を、見たことがあった。彼が王に就任してから、笑った顔を目にした回数を数える際、両手は必要なかった。その中でも、その笑みは群を抜いて異質だ。うっすらと浮かべているにしては、怖気が走るほどに破壊的な笑みだった。
風が吹いていた。凄まじい量の魔力が集まった故に起こった、自然風とも人工的な風とも呼べる魔力の風は、まるで少女のような美しさを持った少年王の髪を靡かせていた。
レミアムに侵略してきた、ずらりと列を成す敵兵の大群を見下ろし、少年王は抜き身の剣を地面に突き刺した。身体の前に突き刺した剣に両手を乗せ、ゆっくりと口角を吊り上げていく。地面を埋め尽くす一面の敵兵を見て、彼は確かに笑った。うっそりと、まるで喜びを表したかのようでいながら蠱惑的な、人を喰らい尽くす悪魔の笑みだ。
人はこの王を、白銀の悪魔と呼んだ。最近は必要がなく鳴りを潜めているとはいえ、その名にふさわしい所業を躊躇いなく行った、かつて子どもだった王。
口を閉ざしたネルギーを見ることなく、ルスランは部屋の中に視線を戻した。宙に浮く画面が繋ぎ直され、より頑強となって表示されている。ルスランの頭の中には、まるでヴァーチャルだなと、故郷の見慣れた光景を見ながらこの世界では通用しない単語が浮かぶ。ゲームが好きな月子が喜びそうな光景だ。
そこまで考えて、ふと記憶を辿る。順次記憶を辿り、月子と交わした会話の内容も反芻し、頭を抱えた。
「…………ルスラン様?」
「…………気にするな」
さすがに怪訝な顔をしたマクシムに手を振り、なんとか持ち直したルスランは、この世界で生活を送る上で欠かせない基盤である黄水晶すら月子に見せたことがない事実に気づき、もう一度深く溜息を吐いた。




