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白銀王と日帰り王妃  作者: 守野伊音
第一章
13/69

13勤





 私達が東屋をお暇する段階になっても、リーメイはまだ立ち上がろうとしなかった。

 症状は今一よく分からないけれど、身体の内側から切り裂かれるような激痛をもたらす症状を持っている人を流石に人気のない場所で一人にはできないので、一緒に移動してもらった。人気どころか人の目のある場所まで移動して、無理はしないことと、何かあったらすぐ医務室に行くことを念押しして別れた。






 彼は人目のある場所に置いてきたけれど、私達は人気のない場所を目指す。元々人気のない場所でまったりする予定だったのだ。次はどんな隠れスポットを教えてくれるのかなとわくわくしながら歩いていると、ロベリアはぴたりと足を止めた。




「なあ、王妃様」

「ん?」

「王妃様の知らない王様、見たくない?」


 急に周囲の音が遠ざかった気がした。

 ざぁっと流れた風の音だけが鮮明で、全ての喧騒はどこか遠くで膜の中にしまわれてしまったみたいだ。風は私とロベリアの髪も纏めて巻き上げ、どこかに流れていった。

 その風は追わず、視線はロベリアに固定する。さっきの言葉以降黙ったままのロベリアは、真剣な顔でも、無表情でもない。でも、へらへら笑っているわけでも、怒っているわけでもない。強いていうなら笑みだけれど、笑っていると判断するにはとても静かな表情だ。


 それだけで、ふざけているわけではないと分かった。そもそも、ふざけてするには少々危険な質問だったから、最初からふざけているとは思っていない。


 ちょっと考えて、言葉を選ぶ。



「なんで、って、聞いていい?」

「知ったほうがいいと思ったからじゃ理由にならねぇ?」


 考えて言葉を選ぶ私に対し、ロベリアはほとんど沈黙しない。最初から選んできているからだ。ということは、つまり。

 静かな表情を浮かべているロベリアに対し、私はいつものへらりとした笑顔を向けた。ロベリアの眉毛がちょびっと動く。




「私のこと、試してたでしょ」


 ちょくちょくそういう気配はあった。私に選ばせるときとか、ルスランのことを話してくれたときとか、大人しい瞳がじぃっと私を見ていた。


「見極めてたって言ってくれ。……まあ、これは俺だけの判断じゃないとだけ」

「ふーん」

「怒るなよ。あの方は俺達の唯一の王であり、世界で唯一の独立国家レミアムを統べる方なんだ。あの方が討たれれば、世界は協会の支配から逃れる術を永久に失うってことだ。一の騎士であり……乳兄弟である方でさえ側には置かず追い出してしまう方が、傍に置くと言い出したんだ。それがあの方を傷つける結果にならないよう、見極めるのは当たり前だ」

「怒ったりしないよ。お眼鏡に叶ったから教えてくれたんでしょう? 試すのは当たり前だよ。だって私、得体の知れない日帰り王妃だし! ……それに」

「それに?」


 やっといつもの動きのある表情に戻ったロベリアに、今度は私がちょっとだけ表情を作るのを失敗した。笑みになろうとして失敗したそれは、大体泣き出しそうな顔になっちゃうからあんまり好きじゃないのに。


「得体の知れない私を傍に置くルスランを、心配してくれる人がいなかったらどうしようって思ってた」


 ルスランは一人だ。一人なのだ。

 王は孤独な仕事だと、そう言ってしまえばそれまでだけど、それだけじゃなくて、ルスランは誰も傍には置かない。置くことができない。だってあの人は。



「ルスランは、誰も信じられないから」



 そして多分、()()()()意味では私のことも……いや、誰より私を信じていない。

 だから、私がこの世界に来る方法を探すことを止めてしまったのだと、本当は知っていた。







「だからロベリア、私につけられちゃったんでしょう? 優秀なのに貧乏くじだ……」

「自分で貧乏くじって言うのかよ……」


 なんて貧乏くじを……可哀相に……と憐れんでいたはずが、物凄く哀れな者を見る目で見返された。


「でも、ルスランからよっぽど信頼されてるんだね」

「……まあな。俺とルスラン様は、目的が同じだから」

「そうなんだ」

「……聞かねぇの?」


 歩き始めた私の後ろで、ロベリアは困った顔をしたまま一歩も動かない。ロベリアのこんな顔初めて見た。なんだか、叱られた子どもみたいだ。

 そんなに困った顔をされては、私は何かとても酷いことをこの子にしてしまった気持ちになって、困ってしまう。


「話せる時とか話したい時とか、タイミング……機会……時期? が合った時でいいよ。そもそも、話せないとか話したくないとかなら話さなくていいんだよ。別に、全部知ってるのが友達じゃないし、全部教えてくれなきゃ一緒にいられないんなら、家族とだって一緒にいられないじゃん。私、女友達になら言えても、お父さんには言いたくない話とか普通にあるし」


 つまり、お父さんとは一緒にいられないということだろうか。私がお父さんが涙目になる結論に至っている間に、ロベリアは歩を進めて私に近づいた。そして、くしゃっと笑った。


「……こりゃ参ったね。王妃様が王妃に見える」

「え!? これでいいの!? 王妃の基準分っかんないなー」


 異世界の王妃事情が複雑なのか、それともただ私の感性が庶民すぎるだけなのか、はたまたその両方か。なかなかに悩ましい問題である。




 今度は先に立って案内してくれるロベリアの背中を見て、そっと呟く。


「それに多分……私、その目的知ってるんだ」

「──そう」


 独り言のつもりだった小さな声に、ロベリアは同じくらい小さな声でぽつりと答えた。











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