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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
303/312

第301話 セチュバー本国へ

「シャ、シャポーさん。魔導師ゾレンを倒したんだよね?周りの戦いに変化が無いみたいなんだけども」


 三郎の目には、操られているセチュバーの者達と諸王国軍の戦いが、変わらず継続されているように映る。


 教会馬車は、前線に出ていたトゥーム達四人を既に拾い上げていた。


 クウィンスがシャポーの勝利を誰よりも早く察知してくれたおかげで、敵が押し寄せる前に迎えに行くことが出来たのだ。


「倒したのではなくてですね、身に着けていた物や魂も残さないように『消滅』させたのですよ。転生や憑依の魔法を準備している恐れがありましたので!」


 少しばかり鼻息の荒い調子でシャポーが言った。


「魂も……そ、それなら、安心だ」


 三郎は頭の中で『オーバーキルじゃね?』という言葉が浮かんでいたのだが、あえて口に出さずにおくのだった。


「サブローさんの言う通り、いまだに操られていて戦いを続けているように見えますね」


 馬車から周囲を確認したシトスが、冷静に戦況を分析して言う。トゥームやムリューも窓から顔をだして状況を確認していた。


「大地に仕掛けられた魔法陣は残っていますので、群体として最後に受け取った命令に従っているだけと考えられるのです。思考する頭を失ったことで暴走して、敵味方の区別なく襲い始めなかっただけ、良かったと考えることも出来るのですが」


 皆と同じように戦場を確認したシャポーが、空恐ろしい言葉を口にした。


 三郎は、見境なく周囲を攻撃する阿鼻叫喚の図を思い浮かべて「まだマシだな」と相槌を打つのだった。


「なら、軸となってる魔法陣の解除に向かう方針で、変更しなくて良いのね」


 トゥームが、シャポーと三郎に確認した。


 ゾレンとの戦闘を挟んだとはいえ、敵軍の動きが同じであるのならば、作戦を変える必要は無いだろうとの判断だ。


 だが、トゥームの言葉を受け、シャポーが一瞬考え込む。


「んっとですね。群体の状態のまま、指示を出していた個体を失ったのですから」


 シャポーは馬車前方へ身を乗り出して、敵軍の様子をうかがう。


 セチュバー本国へと延びる道には、武器を手にした者達が分厚い壁となって立ちはだかっていた。ゾレンが、戦闘の邪魔にならぬよう、待機させていたのだろう。


 今のところ戦いに参加する雰囲気こそないのだが、諸王国軍が接近すれば確実に敵とみなして襲い掛かって来ると考えられる。


「サブローさま。群体という特性から考えて導き出したのですけれど、もしかするとですね、精神魔法に対する耐性が下がっている可能性があるのですよ。あの悪い魔導師が、群体の意志を司っていたので、魔法抵抗も繋がっていた命令個体に依存していたはずなのです。もう少し解りやすく説明するとですね――」


「とっても簡単に結論を言うと?」


 どう伝えたものかと頭を捻るシャポーに、トゥームが合いの手のような一言を送る。


「んっとんっと――眠りの魔法が効くと思われるのです」


 ぱっと明るい表情となったシャポーが三郎に言う。


「試してください」


 三郎は(今まで限定的だった精神魔法が、色々効きそうだってことか)と大まかに察し、前方を指差して力強く言った。


「はいです」


 許可を得たシャポーは早速魔法の準備に取りかかる。


『シャポー・ラーネポッポの名を鍵に「快眠ベッド魔法:一号」を思考空間より展開。効果範囲の値に修正値四点五の倍率を設定。起動を許可する』


 流れるような詠唱が終わると、シャポーの魔法は効果を発揮した。


 三郎達の乗る馬車から、まだまだ距離の離れた場所に展開していた軍勢が、ばたばたと操る紐を切られた人形のように崩れ落ちた。


「眠りの魔法が効くのであれば、後方の戦闘も楽になるでしょう」


 効果の程を確認したシトスがグルミュリアに言うと、彼女は深く頷いて後方の味方へと精霊魔法で状況を伝えるのだった。


「眠りの魔法って、対象者が浮かぶものだったかしら」


 目を擦って二度見しつつ、トゥームがぼそりと呟く。


「あれは、快眠ベッド魔法だな。頭を地面に打ち付けないようにした魔法だよ」


 三郎は一度見て知っていた。高原国家テスニスの領内に入って二日目だったか、シャポーが野盗相手に使った魔法だ。


 確かあの時、三郎以外の仲間達は別々の方向の敵を相手取っていたため、シャポーの眠りの魔法の全てを見ていなかったのかもしれない。


 トゥームがあからさまに、何よそれと言いたげな表情をしていた。


「精神魔法耐性が下がっているのであれば、私達も精霊魔法を使い、前方に展開している軍勢を突破できると思います。セチュバーの門をくぐり、可能であれば門を閉鎖しても良いかもしれませんね」


 シトスの助言を受けると、三郎は軍の編成について思考を巡らせる。


 ちょうどその時、斜め前方の敵を蹴散らせてゴボリュゲンの軽騎兵団が姿を現した。


 彼らは教会馬車を発見すると、迷う事無く進路を三郎達の方向へと向けた。


「お前ら無事だったか。敵さんの事だがな、最初こそ頑丈そのものだったんだが、殴れば気を失うようになりおったぞ」


 近くまで来たゴボリュゲンが、野太い声で自軍の状況を伝える。右手側から回り込んでいたが、敵軍の様子が変化した為、諸王国軍に合流するよう進軍方向を変更したとのことであった。


 突破力に優れたドワーフ族が加わったので、三郎は編成などを悩む必要が無くなり、味方へ向けて指示を飛ばした。


「全軍に伝達。魔導罪人ゾレンの討伐は完了した。セチュバーの門を突破し町に侵入。門の封鎖と魔法陣の解除を優先。敵軍を置き去りにする」


 この声は、三名のエルート族の助けを借り、諸王国軍を鼓舞するかのように戦場へと響き渡った。

次回投稿は7月2日(日曜日)の夜に予定しています。

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