表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
290/312

第288話 突撃の号令

「向かうべき次元?魂をすり減らす?」


 聞き馴染みのないシャポーの言葉に、三郎は小首を傾げる。


「霊体や精神体などを魂と総称しているのですよ。これは魔導医療学や魔導精神学、心理学、その他の研究分野における呼称に違いがあるため、一般的な呼び名として『魂』が使われることとされているのです。死んでしまった生物の魂は、物質から解き放たれて純度の高い状態となって別の次元に移るのです」


「真っさらになって次の世界に旅立つと」


 シャポーの話しに、三郎は何となく相槌を打つ。


「旅立つという表現は、少し違う感じもするのですけれど。簡単に言いますとですね、存在が変化するので在るべき次元が異なる、と言い変えれば解りやすいでしょうか」


(うん、分らん)


 難しい顔で説明するシャポーだったが、今一つぴんと来ない三郎なのであった。


「亡くなった人体から、魂って呼ばれるものが離脱して別の次元に行く。今は、そんな風に理解しておけばいいと思うわよ」


 初歩段階で蹴躓いた二人の会話に、トゥームが助け舟を出すと「あいわかった」と三郎も頷いて話が先へと進む。


 口を挟みつつも、トゥームの鋭い視線は展開されてゆく敵軍から離されることは無い。


「屍術式は、霊体のエネルギーを消費して、死せる肉体を操る操霊術そうれいじゅつに分類されるのです。魂を無理やり繋ぎとめて命令に従わせる術なので、純度が大きく損なわれてしまい、別次元へ移ることが出来なくなってしまうこともあり得るのです。お化けや彷徨う屍となり果てて、アンデッドとして残ってしまうのですよ。半霊体状態であるという研究者もいるのです」


 お化けの苦手なシャポーが、ぶるりと身を震わせながら三郎に説明をしてくれるのだった。


「彷徨うって聞くと、怨念とかを想像しちゃうけど、また違うのか」


「おおお、怨霊体などなどは、またまた別分野になりますので!魂の純度を損なうのとは違いまして、魂の濁りや澱みの類になりますので!また別の機会がありましたら、ご説明する場面も・・・なければ良いなと思うので!」


 三郎がぽつりと漏らすと、シャポーは目をぎゅっと瞑ってぷるぷると震えながら答える。


 シャポーほどの知識ある魔導師でも苦手なものがあるんだなと思い、三郎は深く聞くのをやめた。


「要するに、ゾレンの使っている魔法あれは、人族の尊厳を踏みにじる行為だってことだな」


「そうなのです。精神支配も屍術式も、倫理的観念から邪道とされているのですよ。魔導師として許せないのです」


 三郎の言葉で気持ちを取り戻したシャポーは、両手の拳を上下させて憤るのだった。


(ゾレンに殺されたのなら、恨みから怨霊になっててもおかしくないんじゃないかな。でもそうなると、ゾレンに向かって行かないのは辻褄があわないか。あれかな、こっちの世界の騎士や兵士って『覚悟』して戦いに臨んでるから、また違ってくるのかもしれないな。色々と複雑そうだし、深く考えないようにしとこう)


 当たらずとも遠からずな思考を巡らせ、三郎は馬車の進行方向へ再び意識を向けた。


(だいぶ近付いたから見えるようになって来た。やっぱり、屍兵の姿は直視できないわ。一つ救いなのは、子供らしき人影がないことかな。ゾレンっていう邪導師でも、少しばかりの良識は残ってる・・・のか?)


 兵士や国民のみならず死んだ者をも操ってくる非人道的な魔導師であれば、敵の士気を下げるために手段をえらばないはずだ。


「子供らしき姿は無さそうだな」


「同じことを考えていたわ。邪悪な魔導を用いる相手だから、私達の足を鈍らせるために何でもしてくると思っていたのだけれど」


 三郎の杞憂に、トゥームも同意を示した。


 その時、シトスの耳に先鋒をつとめているドート軍の指揮官から、指示を仰ぐ連絡が届けられる。


「ドート軍指揮官より、戦闘の陣形に移行。そのまま門へ向けての進軍で良いか、とのことです」


 深き大森林の時と同様に、ゾレンの魔法陣に踏み込んだ諸王国軍は、ゲージでの連絡がとれない状況となっていた。


 その対策として、グレータエルートの行使する大気と風の精霊を、連絡の手段として運用することと決定されているのだった。


「進軍はそのまま。ゾレンは我々を包囲するよう、陣形を動かせています。広がった左右の敵兵力を相手どらぬよう、門の突破を最優先。敵の防衛に動きがあり次第、即時連絡を入れます。現段階の目標は屍兵の一団」


 三郎の張り上げた声が、精霊魔法の助けをかりて全軍へと送られる。


 身を乗り出した三郎は、ドート軍の陣形が変化するのを目視すると、敵が両翼に展開させた軍勢を急いで確認した。


 セチュバー本国から溢れ出した敵軍は、数万にも膨れ上がっているにもかかわらず、一つの意志のもとに蠢いている。


 隊列を整え終えたであろうゾレンの軍勢は、諸王国軍を飲み込むように左右の軍を前へと押し出しはじめていた。


「敵軍に穴がありそうだったら、すぐに教えてくれ。囲まれての乱戦は、数の上で完全に不利って軍議で言われてたよな」


「わかっているわ。フォローするから心配しないで」


 トゥームは、緊張を顔に貼りつかせて戦場を見渡す三郎の肩を、手で軽く叩いて言うのだった。


「ケータソシアさんから。現在、当方に精神魔法の影響は見られず。速度を上げる準備が各部隊整えおわったって」


 ムリューが受け取った言葉を三郎に伝える。


「わかった」


 答えた三郎は大きく息を吸い込む。


(目の前が屍兵を主とした一団だから、亡くなった人には申し訳ないけど、遠慮しないで指示が出せる。ゾレンを倒して無念を晴らさせてもらいますので、どうか許してください)


 シトスとムリューは、大気と風の精霊魔法を準備して、三郎の号令を待った。


「全軍、突撃!」


 おっさんの号令が風に乗って響くと、諸王国軍はその進軍速度を上げるのだった。

次回投稿は4月2日(日曜日)の夜に予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ