第281話 息まく魔導師少女
シャポーからエルダジッタの者達へ説明された解除の手順は、あたかも簡単な作業であるかのような口調で伝えられた。
まず始めに、魔法陣を解除する際の障害となる、二つのトラップ魔法を分解する必要がある。魔法陣全体の防衛用に設置された物ではあるが、トラップとして仕掛けられていると露呈していれば、効果を発揮せぬように分解するのは不可能なことではない。
エルダジッタの精鋭たちは、様々なトラップ魔法を解除する訓練を積んでいるため、構成術式の判明しているトラップ魔法の解除など物の数に入らないといえよう。
次に、末端となる同位体質量の少ない点を有する魔法陣から、順次解除することが説明された。
外部から来る魔力エネルギーは、パッケージ魔法の基盤となる法陣へと入力され、その直下にある魔法陣へと流れている。唐突に基盤魔法陣の制御を失った下位の魔法陣が、暴発して魔力溜まりを形成するのを防ぐため、末端の方陣から解除する必要があるのだ。
また、パッケージ魔法の全術式を解析した結果が、解除の順番として正しいことを示していたのも裏付けとなっていた。
最後にシャポーの口から語られたのは、パッケージ魔法の位置を固定している座標魔法陣には、物理的にも魔力的にも刺激を与えぬようにとの注意だった。
深き大森林のパッケージ魔法を解除した際に、シャポーは位置座標固定の魔法を解除することで、術者に魔力ごと全てをリターンさせる方法をとった。その対策をゾレンが施したのであろうか。第十一要塞を中心とするパッケージ魔法には、位置座標の法陣を解除した際に他の魔法陣がエネルギー体へと転化される術式が仕込まれている。集約された魔力は、解除の術式を使った者へと向かうよう、設計されているのが判明したのだ。
よって、座標固定の魔法陣は、他の魔法陣を全て解除してから安全を確保した上で解除した方が良いだろうと、シャポーは皆に伝えた。
「確かに、純粋な位置座標の魔法とは違う術式が組み込まれてますね」
女性の魔導師は険しい表情でゲージを睨みつけて呟く。
「同一平面上に存在する術式だ。影響を与えずに他の魔法陣を解除するともなると、精密な魔導操作が求められる。精神の集中を切らさぬように気を引き締めねばな。それに、パッケージ全体の消費エネルギー量を計算して、我々が魔法の解除に取り掛かっていることをゾレンに気付かれないように偽装する必要もある。末端の方陣は、余剰魔力を送り返す際に、状態フィードバックも返して供給魔力の最適化を行っているようだ。解除作業を行っていると感づかれれば、攻撃を仕掛けられるのは当たり前だろう」
シャポーの説明を聞くと同時に、整合性チェックや魔法陣一つ一つの機能を確認していたエルダジッタのリーダーが顔を上げて言う。
難しい作戦になるだろうと付け加え、覚悟を決めた表情で一人一人と視線を交わしてゆく。そこに、右手を上げている少女が紛れ込んでいるのに気付く。
「シャポーさん、他にも何か?」
リーダーは真剣な表情で問いかけた。残る四人も、シャポーが何を言うのか興味深げな視線を向ける。
「お邪魔でなければ、消費エネルギーの偽装とダミーフィードバックの術式を、お手伝いさせていただければと思いまして」
「はい?」
シャポーの提案に、リーダーは危うく自分のゲージを取り落としそうになった。
「えっとですね。解除については、皆様が日ごろから訓練されている手順やチームワークがあるのですよね。私がお手伝いできるとすれば、セチュバー本国の母体となる魔法陣と繋がっているルート周りの偽装信号関係かと思いまして」
「う、請け負っていただけるのならば、解除魔法の深度を一名分上げることが可能となるので、我々としては大いに助かりますが。本当に、よろしいのですか?」
リーダーは驚きの表情のまま、シャポーへと確認するように言った。
「はい。教会評価理事サブローさまから、手伝うよう指示を受けていますので」
笑顔で返すシャポーを見て、エルダジッタの者達は互いに顔を見つめ合う。
「そ、そうですか。では、お願いさせてもらいます」
「はいです」
動揺しきったリーダーの返事に、シャポーは元気よく答えた。
(解除も難しいのは間違いないが、シャポーさんが簡単に『やる』と言った内容の方が、どちらかと言えば難易度は高いと思うのだが。第十一要塞を越えて、セチュバー本国側に魔法を飛ばさねばならないんだぞ。何か簡単に実行できる術式があるのだろうか。お手伝いなどというレベルではないんだがな・・・)
リーダーの脳内シミュレーションでは、非常に難しい術式が必要だとでている。その上、解除作業の進行に合わせた調整も要求されるはずだ。
だがしかし、ここに居る魔導師の誰よりも術式計算が早いのは、先程目の前で実演されたばかりだった。パッケージ魔法のデータ分析においても、驚異の速度で図面まで完成させたのは、やはり彼女なのだ。そのシャポーに対しリーダーが『本当に任せて大丈夫なのか』と再確認する行為は、どう首を捻っても失礼なことように思えて仕方なかった。
もしも、シャポーの見た目が老練な魔導師で、腰から下げている印が『見習い魔導師』を表していなければ、リーダーの迷いも多少なりとも減ったことだろう。
「うおほんっ!では、シャポーさんが消費エネルギー量を算出し、フィードバックの要素を割り出した後に、解除作業に入るとする」
彼は大きな咳払いで先入観を捨て去ることに成功した。シャポーの見せた実力だけを信じることにしたのだ。
エルダジッタの面々に、真面目な表情となって命令を飛ばす。
「消費エネルギーの計算も終わっています。フィードバック術式も組み上がっていますので、何時でも大丈夫ですので」
鼻息をふんと吐いてシャポーは力強く答えた。
リーダーはとうとう自分のゲージを地面に落下させてしまうのだった。
次回投稿は2月12日(日曜日)の夜に予定しています。




