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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第276話 拒絶反応

 第十番目の要塞にて、セチュバー領を取り戻す軍議が行われた明くる日早朝、総指揮官三郎率いる軍勢は第十一要塞へ向けて早々に進軍を開始していた。


 迅速に行動を開始したのは、ゾレンに時間を与えれば与える程、魔法影響下となる土地を広げられてしまう可能性が高いと考えられたからだ。現在発動している魔法陣へも手を加えられ、最悪の場合、解除不可能な深度や強度に達してしまう恐れすらある。セチュバー本国に設置された核となる法陣については、メドアズらが初めて踏み込んだ時よりも、確実に強化されているであろうことは予想するまでもない。


 だが何より、要塞出発までスムーズに事が運べたのは、セチュバー軍が総指揮官三郎の意向に従うと決定していたのが一番の理由だった。


 深き大森林の窮地を救いエルート族の軍事支援を得たことに始まり、中央王都奪還から高原国家テスニスの治安回復までをも短期間で終息せしめたのが、教会評価理事三郎の策あってのことと、セチュバー軍内部でも噂になり始めていたからだ。


 そして三郎が、大規模な軍勢を用いることなく要塞群を瞬く間に攻略してしまったがために、セチュバー軍の幹部に有無を言わせぬ圧力となっていた。


 セチュバー魔導師団長メノーツは、後に身を震わせながら語る「あれほど何を考えているのか分からない笑顔を向けられたのは、後にも先にもあの軍議の時だけだった」と。


 さて、その軍議で決められたのは、大きく分けて二つの作戦であった。


 一つは、ゾレンの行使している魔法陣の解除についてだ。


 九番目の要塞で、シャポーが勇気を振り絞って提案したのもあって、第十一要塞を中心に展開されている魔法陣をまず解析するという方向で話は即座にまとまる。


 カルバリ魔導師団の者が、魔法の解析解除についてどの国の部隊よりも優れていると名乗りを上げたため、カルバリの魔導師を中心とした少人数の部隊を編成することで話は進む。


 三郎は、今まで通りシャポーにお願いしたかったのだが、味方の内部で妙な波風を立てるのも如何なものかとの考えも同時に頭に浮かべる。それに、魔導にもスペシャリストの分野があって、元居た世界で言う所の『爆発物処理班』的な解析専門の魔導師も居るのかなとも考えた。


 それでも一抹の不安が拭えなかった三郎は、見届け役として教会魔導講師もついて行く許可を取り付けるのだった。当然のように、グレータエルートの偵察部隊がシャポーの護衛として同道することになったのは、ケータソシアの優しい配慮であった。


 小さな声で三郎から「申し訳ないけど、何かあったら彼らの手助けをお願いしたい」と言われたシャポーは「頼ってくだすって結構ですので」と同じく小声で返すのだった。


 二つ目の大きな決定は、陣営を第十一要塞へと即座に攻め込める場所に設営するというものだ。


 魔法陣の解析解除に成功した際、速やかに第十一番目の要塞を手中におさめるためである。仮に、解析に失敗した際にも、派遣した部隊の救出を即座に行えるという利点があるからだ。


 ゾレンの魔法陣が設置されているが故に、思い通りの距離まで詰め寄ることは出来ないのだが、可能な限りという条件で決着したのだった。


「俺もシャポー達と一緒に行きたかったんだけど、総指揮官がいきなり前にでるなんてとんでもない、みたいに言われちゃったからな」


 三郎は軍議での一場面を思い出しつつ、小さなため息をついた。馬車の窓から見える景色は、十番目の要塞に向かっていた時とほぼほぼ代り映えのしないものだ。


「ま、常識的に考えれば、総指揮官だからそうなるわよ」


 トゥームが諦めなさいと諭すような声で返す。


「サブローはさ、どっしりと後ろから全軍に目を光らせておいてくれればいいから。シャポーには、私が付いて行くんだから安心して」


 にこりと微笑んだムリューが、トゥームの言葉に続けて言った。


「ムリューに加えて、ロドさん達も一緒だから心配こそしてないんだけど、つくづく仲間にお願いしてばかりだなと。申し訳ないやら情けないやらって感じでさ」


「頼ってもらえるのは嬉しいことなのです。カルバリ魔導師団の魔法を間近で見られるのですから、後学のためにもなるのですよ」


 頬を紅潮させて嬉しそうにシャポーが言うと、フードから顔を出したほのかが「ぱぁぁ、ぱぁ!」と拳を突き上げた。


「ほのかもシャポーを護ってくれるってさ。・・・う、逆にカルバリ魔導師団の方が大丈夫か心配になってきた。あの場で決定したってことは、俺が送り出したことになるんだもんな」


 胃の辺りを押さえた三郎が、目を瞑って身悶える。


「あのね、いろいろ考えるのは良いのだけれど、悩みすぎはどうかと思うわよ。『戦いに身を投じられる者は、覚悟ある者』って人族では誰もが教わるのだから、命を落としてもやむを得ないの。サブローが、誰に対しても怪我すらしてほしくないって思っているのは、解ってるつもりだけれどね」


 トゥームがそっと三郎の背中に当てた手から、温もりがじんとしみてくるような気がして、三郎は胃に入っていた力が緩やかになる思いがした。


「ですです。一応ではありますが、カルバリの方々の使いそうな解析魔法を考えて、思考空間内に補助となる術式を幾つか準備してみたのです。いざともなれば、シャポーの遠方知覚魔法最新版の発動もできますので、ご安心してくださって結構ですので」


 ふんふんと鼻息も荒く、シャポーが元気づけるように言った。


「サブローのこのような様子を見たら、セチュバー魔導師団の団長さんはさぞかし驚かれることでしょう」


「えっと、メノーツさんだったかな。なんであの人が驚いたりするんだ」


 笑顔のシトスに三郎は、訳が分からないと言った表情で聞き返した。


「彼女の軍議での発言には、サブローにすさまじい畏怖の念を抱いている音が含まれていました。ある種、拒絶反応に近い響きだったかもしれません。サブローに作り笑いを向けられた時など、こちらが驚くほどでしたよ。気付きませんでしたか」


「初対面の人から・・・しかも笑顔で拒絶反応が強くなったとか、傷つくな」


 シトスがひょうひょうと言うのに対し、三郎は肩をがくりと落として答えた。


「サブローの作り笑いって、心の中とかけ離れすぎてて怖いもんね」


 ムリューがけらけらと笑って三郎のハートに軽く止めを刺す。


 おっさんの気持ちが心配から落ち込みへと変わった頃、軍勢は設営予定地に到着するのだった。

次回投稿は1月8日(日曜日)の夜に予定しています。

元旦の更新はお休みとさせて頂きます。皆さま、良いお年をお迎えください。

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― 新着の感想 ―
[一言] カルバリの解析専門の魔道士全員がかりでも規模も精度も速度もシャポー以下でも驚かない
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