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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第232話 はいにゃいまよく

 大きな四角いテーブルを挟み、三郎と勇者テルキは正面に向かい合わせて座っていた。


 三郎の右手側の椅子にはトゥームとシャポー、左手にはケータソシアやゴボリュゲンらが腰を下ろしている。


 対するテルキ側は、トゥームの正面に王国の剣騎士団や軍幹部が並び、ケータソシアの正面に『あの男』ことシュカッハーレ長官や為政者とおぼしき者達が顔を並べていた。


 三郎の心に驚きが先行していなければ、テーブルの右側面を埋める諸王国の面々にもすぐに目を向けていただろう。商業王国ドートや技研国カルバリの者達に続いてナディルタ女王とトリア要塞国の幹部が腰を落ち着けており、緊張しているシャポーの一番傍にカムライエがいるのを確認してほっとするはずだった。だが、先にテルキのどや顔と美女騎士団に唖然としてしまったのだから、後になって気付くことになるのも仕方がない。


 そして、それら諸国王等の正面には、ドワーフ軍本隊の面々が陣取っているのも確認したはずだ。ドワーフ軍の指揮官らが、ゴボリュゲンと二言三言挨拶を交わしていた言葉も聞こえたであろう。何より、その中に毛むくじゃらの者が混ざっているのも、三郎は気づいていなかった。


 毛むくじゃらの人物が、獲物を狩る肉食獣のように気配を殺していたのも要因ではあるのだが。


「総指揮官である勇者様にかわり、参謀長シュカッハーレ・オルホーソがこの場を取り仕切らせてもらいま・・・」


 立ち上がったシュカッハーレが、軍議の開催を告げている途中で口を閉じた。勇者テルキが右手を上げてその言葉を制したからだ。


「失礼しました、シュカッハーレ卿。先に理事殿へ紹介しておかなければいけないことがありました」


「ご随意に」


 テルキに割り込まれる形となったシュカッハーレだが、にんまりとした笑顔を浮かべて再び席に着いた。


 彼らの様子から、この流れは元から決まっていたのだなと三郎は察する。その証拠に、諸王国の為政者らは一言も声を上げず、スビルバナンに至っては額をおさえるそぶりを見せたからだ。


(あっぶな。口をぽかんと開けちゃうところだった。紹介っていうのは、当然後ろの人達をってことなんだろうけども。ってか、俺は何を見せられてるんだ)


 我に返った三郎は、瞬きを何度か繰り返して、次に来るであろうテルキの言葉を少しでも冷静に受け止められるようにと心づもりをした。


(びっくりしすぎて視野が狭くなってたわ。俺達の正面って、スビルバナンも含めた中央王都の幹部が並んでるんだな。それにしても結構人数多いし。おや、スビルバナンの後ろに控えてる前髪立ててる子、あの子は美女騎士団に引っ張られなかったんだ。奇抜な髪型のせいか、王国の剣騎士団だからか・・・)


 少し気持ちを取り戻した三郎は、目の前に居並ぶ面々に素早く視線を走らせた。遅ればせながら現状把握を開始するのだった。


「オレの後ろに並んでいる騎士達のことですけど、理事殿が気になっているみたいなので紹介しますよ」


 にこりと微笑んで言うと、テルキは騎士の隊列に歩み寄って片手を広げた。


「彼女たちは『勇者近衛騎士団』っていいます。勇者であるオレのところに集まってくれた、家柄も良くて剣の腕もたつ騎士達です」


 紹介された彼女たちは、ざっと足を鳴らせて直立の姿勢をさらに正した。


(あー、えっと。座ったままだと失礼なのか。ほ、褒め称えた方がいいんかね。こんな場で突然さ『美女いっぱい連れてるんだぜ』ってマウント取りにこられても。・・・どうされたいんだよテルキ君、おじさんには分かりません。なんなら同郷のよしみで、こっぴどく恥ずかしいです)


 どや顔を再び向けて来たテルキに、三郎は即座に返す言葉が出てこなかった。その時、ケータソシアの声がそっと耳に届けられる。


『彼女達の呼吸音から、諦めや悲しみといった感情が聴こえてきます。あの男の鼻息に、自慢をする者特有の響きが混ざっていますので、騎士団を集めたのはあの者かと』


 ケータソシアに『あの男』と示唆され、三郎がシュカッハーレをちらりと見やれば、満足そうな笑顔で小さく頷いている姿が映った。


(・・・)


 三郎は、己の慌てていた心が、すっと落ち着いて行くのを感じる。


(利用しようとしてる周りが悪いのは事実だよ。でもな『勇者』という肩書が、どれほどこの世界の人達に良くも悪くも影響するか、考えなかったか。ちやほやされてて気付くのは難しいだろうけどさ。トゥームが自分の所に来てくれなかったから、騎士団が出来て自慢したかったってところかなぁ)


 剣として仕えると決意してくれたトゥームに、三郎は『自分が迷い人だからか』と問いかけたことがある。迷い人に対して『大切にすべき』といった義務感や、まして頭に血がのぼって決断してしまったのなら、早まるなと諭さなければならないと思ったからだ。


 三郎は当時の自分が、トゥームの答えを聞いて深く安心したのを思い出す。三郎が決断を誤った際には、もろとも命を絶つと言われたのは、ぞわりとするので心の隅にそっと追いやっておく。


(テルキ君についてきてくれてるなら文句もいえないけど、これは明らかに違う。勇者って肩書に、ある意味で強制させられてしまってるからな)


 ふうと息を吐き、三郎は頭の中がクリアになるよう、結論を端的に整理した。呼吸から響いた感情を読み取り、ケータソシアは己の役割を果たすために、天幕内にいるすべての者に意識を向けた。当然エルート族である副官も、二人のやり取りから同様の心構えをみせる。


 三郎が、ふむと唸って机に肘をつき口元に手を当てた。


『トゥーム、あの騎士達の剣の腕は、勇者君がいうように達者なのか。俺にはそうは見えないんだけど』


 腹話術の出来ない三郎は、口を隠してひそひそと話し合っているのがばれないようにしたのだ。


『眼が良くなったのね。サブローの感じた通り、貴族の手習い程度だと思うわ』


 姿勢よく座ったまま、トゥームが微動だにせず答えた。三郎の胸中に(トゥームさん腹話術うまっ)という別の動揺が発生してしまったのは語るまでもない。


『で、えっと、なんだっけ。勇者テルキ君はさ、彼女達を戦場で守れるだけ強くなってると思うか』


『思わないわ。体内魔力は増えているようだけれどね』


 三郎はトゥームの言葉に『そうか』と短く返して姿勢を元に戻した。


 不意に、仲間内の耳元に不思議な声が響く。


『はいにゃいまよくは、はしかにふえつうのれう。ひゃふーもうなひひへふにゃのれう』


 声からシャポーだとすぐに理解できたのだが、仲間全員が破顔してしまうのを必死にこらえる事態にみまわれる。


 三郎とトゥームは、長い付き合いもあって「体内魔力は、確かに増えているのです。シャポーも同じ意見なのです」とぎりぎり理解することが出来た。エルート族の二人も、音に含まれる感情の響きからトゥームに同意しているのだと解釈する。


 問題なのはゴボリュゲンだった。


 ドワーフ族の副官は、ただただ困ってしまっただけで済んだ。だがゴボリュゲンは、両手で顔面を強く押さえなければ大声で笑いだしそうになるところであった。

次回投稿は2月27日(日曜日)の夜に予定しています。

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