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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
209/312

第207話 温かく見守るおじさん

 制圧した要塞の一室に、各軍勢の指揮官と三郎達が集まっていた。


「次の第五要塞は、現在我々のいる第四要塞と外観を同じくする巨壁の要塞です。内部構造が同じとは限りませんが、複雑であることは間違いないでしょう」


 大きなテーブルの上に広げられた地図を指さし、カーリアが次の目標となる要塞について説明する。


 地図には、真っ直ぐに伸びた谷が描かれており、峡谷の入り口と出口を塞ぐように第四と第五の要塞が配置されているのがわかった。


「セチュバーの大峡谷はですね、巨大クレーターであるクレタス全土に、大陸のプレートによって東と西から圧が加えられ、長年かけて楕円となってゆく過程で、深層部に断層が発生したがために谷となった場所なのです。また、人族がクレタスを発見するずっとまえの氷世期と呼ばれる時代にですね、氷河によって削られたのもありまして、幅広の谷になったということも解っている地形なのです」


「ああ、氷で削られたから他よりも崖が険しくなってるのか」


 シャポーの解説を聞いて、三郎は首を縦に振る。


 地図に描かれているだけでも違和感を感じるほど、第四要塞と第五要塞を繋ぐ谷は険しく見える。クレタスの外環を形成するクレタ山脈の峰を、ぶつりと切り離しているかの印象をうけるのだった。


「守りは堅く、攻め難くある。魔力薄き谷の噂通りといったところだな」


 ゴボリュゲンが髭面を撫でつつ、眉間に皺を寄せて言った。


「ですねですね。クレタス岩盤層が露出していることもあり、ドワーフさんやエルート族の皆さんにとっては、非常にやりにくい場所といえるかもしれないのです」


 シャポーが答えた内容に、三郎は疑問を浮かべた表情で方眉を上げる。


「風の精霊からの助力が減るので、先の戦闘よりも保護の精霊魔法が弱まってしまいますね。継続できる時間も短くなると考えておいてください」


 ケータソシアの発言を聞き、三郎は眉の形を逆にして視線を向けた。何やら、三郎の考えが及ばないところで、作戦会議が進行しているのを感じずにはいられなかったのだ。


「大気の精霊魔法については問題ないのかしら」


「問題はありません。しかし、風の精霊とは相互に高め合う関係性ですから、防衛する能力は落ちてしまいますよ」


 トゥームが質問をすると、それにシトスが静かに言葉を返した。


「懸念があるとすれば、この要塞から引き上げたセチュバー兵が第五要塞に加わっていると考えられる点でしょうか。敵兵の数は単純に計算しても倍以上といえますから」


 ケータソシアの発言は、防衛機構とは別として降り注いでいた金属製のボルトの数について言及しているのだった。


(同じ構造の砦なのに攻め難い?加えて、魔力が薄いとか、精霊魔法が弱まるだとか言ってるし。でも、大気の精霊は大丈夫なのか・・・敵兵が多くなると危険だってのは理解できるんだけど。うむ、総じて意味が分からん)


 三郎は、自分の理解できていない部分を頭の中で整理した後(一応だけどさ『総指揮官』とかなってるし、分かってなきゃだめなんだろうなぁ)との考えに至り、申し訳なさそうに口を開くのだった。


「えー・・・会議の流れを止めてしまって非常に恐縮なのですが、第五要塞が攻めづらいというのを教えてもらっても?」


 各々で話し合っていた視線が、三郎に全て集まる。その内の一つだけは、妙な輝きを放っているのが三郎の眼の端に映り込むのだった。


「どこから説明すると、分かりやすいでしょうか」


 口元に手を当てて、悩むようにケータソシアが呟く。三郎の声からは、全く理解できてませんという響きが聴きとれてしまったからだ。


 迷い人である三郎に対し、クレタスの成り立ちから説明した方が良いのだろうかと、ケータソシアは悩んでしまっていた。


 説明の下手なゴボリュゲンなど、完全に役目を放棄した顔をして顎髭に手櫛をあてている。


「ふふふふ、サブローさまの知恵袋を担当している、このシャポーがご説明いたしますですよ」


 瞳を妙に輝かせていた人物が、さも嬉しそうな笑いを含んだ声で言った。


「短めにね」


「はいです」


 トゥームの一言に、シャポーは両拳を握って元気に答えた。


「前にお話ししたことがあるのですが、クレタスの地下には硬い岩盤層がひろがっていてですね、クレタスを囲むクレタ山脈もその一部なのです」


「ああ、ぶつかった隕石と地表が溶け合って、硬い岩盤になったって話だったっけ」


「ですです」


 三郎の相槌に、シャポーが笑顔で返す。教えた内容を覚えてもらっていたことに、ちょっとした嬉しさがあったのだ。


「隕石は魔力を受け付けない性質があるので、岩盤層も魔力エネルギーの影響を受けにくい地質になっているのですよ」


「中央王都にあった、ミソナファルタとか呼ばれてた大きな岩が隕石と同じだったような」


 三郎は天井に視線を泳がせると、エルート族とともに中央王都へと侵入した断層洞を思い出して言った。


「ではここでサブローさまに問題なのです。セチュバーへと続いている峡谷は、どんな性質といえるのでしょうか」


「問題にしなくていいわ」


「クレタ山脈や岩盤層と同じ『魔力を寄せ付けにくい』性質なのですよ」


 トゥームの素早い合いの手に、シャポーは流れるように答えを口にする。


「異様に硬くて、魔力を寄せ付けない峡谷ってことでいいのかな」


 三郎はふむふむと唸りながら、理解できたところまでを繰り返して言った。


「わしらが使っておる大地の精霊魔法が、ほぼ使えなくなるような場所ということだ」


 ゴボリュゲンが鼻息を一つふんと吹いて説明を付け加えた。三郎はゴボリュゲンに顔を向けて「なるほど」と言いかけて、はたと疑問に行き当たる。


「ドワーフ軍は、壁を出現させたりしてませんでしたっけ」


 第二の要塞を攻めた時、軍勢の姿を隠す為に道幅いっぱいに壁を築いていたのは記憶に新しい。


 ゴボリュゲンは眼を半開きにして、さも面倒くさそうな顔を作ると「ほれほれ」と手を振ってシャポーを促がした。


「クレタスが海底であった時期や、その後に堆積たいせきした自然の物質が地表を覆っているので、動植物が生息できているのです。精霊さん達もいきいきとしていられるのですよ。しかし、第四要塞と第五要塞の間の峡谷は、海底時代の堆積物は削って流されて、周囲の環境のせいで降り積もる物質もほとんどない状態だったのです」


「あー、氷河が削り取って、残ったのは岩盤層だけってことか。確かに草木も生えなかったら、土なんてできる分けないもんな」


「ですので、薄魔峡とも呼ばれているセチュバーのこの谷は、魔人族の侵攻があった場合、防衛に最適の場所だとも評されているのです。魔力を寄せ付けない壁が、両側にそそり立ってるので」


 合点がいったという表情で手を打ち鳴らした三郎に、余談ともいえる説明をシャポーが加えた。


「皮肉なことではありますが、クレタスの住人であるエルート族や土族にも、苦手な戦場といえるのですけれどね」


 微かに困り顔を作ったケータソシアが、シャポーの言葉に続けた。


「風の精霊も弱まってしまうと、さきほど言っていましたよね」


「ええ、深い峡谷の入り口と出口を大きな壁で塞がれてしまっていますから、人族の街中で戦うのと同等か、それ以下の状況になってしまいます」


 ケータソシアの答えに、三郎は中央王都での戦いを思い出していた。


 あの時は、ほのかが精霊達に『気合を入れる何か』をしてくれたのだが、今回も同じように行くとは安易に考えない方が良いだろうと、三郎は内心で思うのだった。常に最悪の状況を想定しておかなければ、命のやり取りの戦場では仲間を危険にさらしてしまうのを肌で覚えたためだ。


「この要塞を落とした作戦では、無理ということでしょうか」


 三郎は表情を硬くしてケータソシアに向き直る。だが、答えを返してきたのはゴボリュゲンだった。


「いや『その方法しか無い』というのが正解だろうの」


「ゴボリュゲン殿のおっしゃる通りですね。門を打ち破る時間を短縮し、把握しているトラップは精霊魔法で作動させてしまうのがよいでしょう。シャポーさんには、別の術や崩壊の魔法の有無を優先し、探索してもらうのにご協力を願えればと思います」


 ケータソシアの言葉に、シャポーが力強く頷いた。


「要塞内の入口付近に、安全な場所を確保。並行して精霊による偵察を行いたいと考えています。要塞内に入ってしまえば、防衛機構や高度からの攻撃へ私達の兵力を割く必要がなくなりますから」


「それにな、門の強度も分析できておる。多少強化されたとしても、次は半分程度の時間で破壊してみせるわい」


 真剣な表情のケータソシアの隣で、ゴボリュゲンが髭を揺らしつつ太い笑い声をあげる。


「修道騎士以下、教会の兵は戦況に応じて防衛行動を優先し、ケータソシア殿の判断で突入に移行させてもらいます」


「了承いたしました。ただし、不測の事態があれば『撤退』もあると頭に入れておいてくださいね」


 カーリアの申し出に、ケータソシアは敬意のこもった笑顔で答えた。


(種族を越えた信頼関係って感じになってるな。そりゃ、後から追いついてくる諸国の軍が加わるよりも、今の方が作戦も上手くいくってもんか。相手の優秀な所が見えると、打ち解けるのがはやいってのは、どの世界も同じ感じなんだろうなぁ。いいことだ、うんうん)


 おっさんは、その信頼関係の中心に自分がいるのをすっかり忘れた様子で、皆を温かく見守るのだった。

次回投稿は8月29日(日曜日)の夜に予定しています。

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