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おじさんだって勇者したい  作者: 直 一
第九章 立ちはだかる要塞群
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第191話 ダム

 修道騎士の一団が門要塞へ到着したとの報告が入ると、時を待たずに一人の修道騎士が三郎達のいる天幕に姿を現した。


「教会評価理事サブロー殿、到着が遅れ弁明の余地もありません」


 カーリアは三郎を見るや否や、片膝をついて深く頭を垂れる。


 頭を下げた姿勢で動かなくなったカーリアに、三郎は申し訳なくなって口を開いた。


「カーリア殿、どうぞ顔を上げてください。私達が先を急ぎすぎたことでもありますし、謝る必要など―――」


「いえ、高原国家テスニスの件ではお救い頂いたうえ、要塞の攻略にまで遅参いたしました。修道騎士にあるまじき醜態ばかりをさらしており、お恥ずかしい限りです」


 冷静ともとれるカーリアの口ぶりだったが、グレータエルート達の耳には『悔しさ』の滲む響きが聴こえた。


 それもそのはず、カーリアの知り得ていたグレータエルート軍の戦力は、要塞への攻撃を開始するには不足していると理解していた。故に、教会の軍勢が到着するまで、動きは無いだろうと思ってもいた。


 カーリアは教会の軍の指揮官として、戦闘に耐えうるぎりぎりの状況を見極めつつ最速で進軍したつもりだった。戦いに合流したとしても兵士が疲れきっていては意味がないとの考えからだ。


 だが蓋を開けてみれば、ドワーフ軍が既に合流を果たし、第一番目の門要塞を攻略しているではないか。


 修道騎士のみで要塞まで来るよう伝えられた時ですら、戦闘が続いていて修道騎士団だけでも急いで参戦するように言われたと思っていたのだ。


 制圧された門要塞に到着した際、カーリアは今までに感じたことのない情けない気持ちになってしまったのだった。


(うーん、置いて行ったのを「不用心すぎる」とか怒られちゃうかと思ってたんだけど。まさか、目を合わせた途端に謝られるとは考えて無かった)


 三郎は対応に困りながらも、立ち上がるとカーリアの傍まで歩み寄る。当然ではあるが『真実の耳』を持ち合わせていない三郎には、カーリアの声に宿る悔しさなど聞き取れてはいない。


 近付く気配を感じ取ったカーリアは一層深く頭を下げた。


「先行したのも私の独断。要塞への攻撃開始を知らせなかったのも、私の判断であったとご理解いただければと思います。カーリア殿に問題など一つもありませんよ」


 迷った挙句、三郎は膝を着いて静かに語りかけた。カーリアの肩に手をそっと添えることも頭に浮かんだのだが『セクハラ』の四文字が脳裏をかすめたので出さずにおく。元中堅サラリーマンの悲しい性ともいえる。


「理事殿がご判断された・・・理事殿の作戦であった、ということでしょうか」


 カーリアは顔を上げると、僅かにけげんな表情を浮かべて聞き返した。


「作戦については皆の協力を得てつくられたものですが、教会の者として私がそれを承諾させてもらいました。結果的に、カーリア殿に頭を下げさせてしまい、私の方こそ謝らねばなりませんね」


 視線が合ったことで少しばかり安堵した三郎は、苦笑い混じりにカーリアへ答えた。


「何をおっしゃられますか。キャスールの動乱を治められ、風のようにテスニスを後にしたかと思えば、セチュバーの要塞を制圧なさってしまっている。そのような方に謝罪などされては、私の立場がございません」


 カーリアは表情を硬くして言うと、再び頭を下げてしまった。


(あー、はたから見ると、そんな風に表現できちゃったりするのか。ってか、カーリアさんのキャラってこんなに畏まってたっけ。落ち着いた余裕のある人って感じだった気がするんだけどな)


 三郎は心の中で思いつつ、妙に委縮してしまっている目の前の騎士の頭頂部をみつめる。首切りの理事というキャスールでの心証が、尾を引いてしまっているとは毛ほども考えていないおっさんなのだった。


 結局のところ、最終的な判断や承認を三郎が問われはしているものの、皆の出してくれる意見や作戦に頷いていただけとも言えなくはない。


(カーリアさんのつむじ、頭のど真ん中にあるんだ。って、そんなこと考えてる場合じゃなかった)


 我に返った三郎は真面目な表情を作り直した。


「カーリア殿に来てもらったのは、今後の作戦について打ち合わせを行いたいがためなのですよ。会議に加わっていただけると助かるのですが」


 三郎は腫れ物に触るかのように声をかける。下手に会話をすると、更なる萎縮を生んでしまうのではと感じたのだ。


 だがしかし、カーリアは即座に三郎へ顔を向けると、鋭い視線で答えを返した。


「はっ!修道騎士カーリア・アーディ、汚名を返上すべく命を捧げさせていただきます。次に生き恥を晒すようなことあらば、理事殿の手でこの首をお切りください」


「いやいや、切らないです。切らないですからね」


 カーリアの言葉を聞いて、三郎が慌てた様子で否定を返す。カーリアは「お好きなようにしてください」と騎士の礼をとった。


「ほう、根性の座った騎士もいるものだな」


 ゴボリュゲンが方眉を上げて、感嘆の呟きをもらした。


 当然、トゥーム達は小さいため息をついており、ムリューなぞ笑いをこらえるのに必死になっていた。


(カーリアという騎士は本気で言っているのですね。しかも、サブローさんが好んで首を斬るかのような口ぶり。サブローさんも、隠し事がある声の響きをさせて否定されていますが・・・まさか、そんな)


 ケータソシアは、指揮官という立場もあるため無表情を保ちながら、心の内なる葛藤を隠し通した。


 会議の後の話しだが、ケータソシアの誤解は無事に解けることとなる。だが、眼が飛び出るほどに驚いているグレータエルート副官の誤解を、仲間の誰もが解くのを失念してしまうのだった。


***


 三郎達は、なぜか教会馬車に乗って次の要塞へ向けて移動している。


 門要塞での戦闘が終わったのを敏感に察知していたクウィンスが、ミケッタとホルニを馬車に押し込み、修道騎士の後方から勝手に着いて来ていたのだ。三郎は、当然のようにクウィンスを褒め称え、クウィンスはいつものように三郎の頭をガジガジと噛むのだった。


 馬車の布窓からのぞく景色には、灰色の岩のむき出しになっている険しい山々が迫っている。


 ケータソシアの作戦に従い、次なる要塞に向けてグレータエルートとドワーフ軍、それに修道騎士の加わった軍勢が、山の谷間に舗装された道を疾風のごとく進軍していた。


 教会の兵団は、元の野営地を防衛するという名目で残されることとなった。その者らには、第二の要塞攻めについての情報は伏せられている。


 門要塞に駐留するのは、グレータエルートの一部隊とされた。捕虜としたセチュバー兵からの情報収集もあるためだ。


 グレータエルート一部隊を戦線から外すことは、戦力の大きな低下を意味する。その穴を埋めるように、修道騎士が合流できたのは、ある意味幸運だったのかもしれない。


「次の第二要塞って、半円状にえぐられた形してるんだっけ」


「谷にあるという立地から小さめの要塞なのですが、その形状がとても特徴的なのです。セチュバー側も中央王都側も、半円状に設計された要塞なのです。その名も『挟撃要塞』と呼ばれるのです。半円の底の部分に門があると書物にはあったのです」


 シャポーは馬車の床を指でなぞって、挟撃要塞の形を三郎に伝える。


 正方形の対となる二面が、半円状に削り取られたような図に見て取れた。


「挟撃?ああ、半円の先端から挟み撃ちで攻撃されるって意味か」


「それもありますが、もっと恐ろしいのはですね、門へと攻撃をする際に背後から敵の遠距離攻撃を無防備に受けることになる、という点なのですよ」


 三郎が納得すると、シャポーは人差し指を立てて低い声で、さも恐ろし気に付け加えた。


「門の攻撃を始めたら、背中をみせることになるもんな」


「ですです」


「でもそれだったら、こんな形でも良かったんじゃないか」


 シャポーの真似をして、三郎も指で床をなぞりながらアルファベットでいう大文字の「H」を表せて見せた。


「面よりも、湾曲している方が力の分散が可能なので、防衛には向いているのです。それに、門に向かって敵兵が自然と集まってしまうという、心理的効果も備えているのです」


「確かに、お椀の底みたいになってると、そこに集まりそうだってのは、何となく分る気がするな」


 シャポーの答えに、三郎もしたり顔で頷くのだった。


「そうこう話している間に、目的地に到着するわよ」


 トゥームの声が二人の会話に割って入る。


「え、時間的にもっとかかるのかと思ってた。日も傾きかけたくらいだし」


 三郎は拍子抜けした声を上げつつ、馬車の外を確認する。三郎の体感として、二から三時間は移動していたが、その程度ともいえる。


「セチュバーまで十一の要塞があるのよ。一つ一つが宿場町ほども離れてる分けないじゃない」


 トゥームが半笑いを浮かべて三郎に返した。


 その時、行く先の谷あいに建造物らしき物が見えて来る。


「シャポーさん、さっき『小さめの要塞』とか言ってなかったっけか」


 遠目に映る『挟撃要塞』は、谷間を塞いでそびえる巨大なダムのように、三郎の目に飛び込んできたのだった。

次回投稿は5月9日(日曜日)の夜に予定しています。

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