表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 柚樹
7/30

スプレー缶

気が付くと、私は白い壁の前に立っていた。

汚れひとつ無い白い壁。

何の色もない白い壁。

空っぽな白い壁。

そっと、私は右手に持ったスプレー缶を壁に向ける。

スプレー缶にはラベルがなく、何色のものかは分からない。

だが、この白を塗り潰してくれるならなんでもよかった。


まずはひと吹き。

白い壁に、黄色の線が広がった。

もうひと吹き。

黄色の線と交差するように、赤い線が広がった。

それを見て、私は驚く。

同じスプレー缶のはずなのに、使う度に色を変えるのだ。

楽しくなってもうひと吹き。

赤い線と平行に緑の線が広がった。

長めに引くとどうなるのか。

そんな事が気になって長めにひと吹き。

蛇行しながら引いた線は、ある程度の長さになると色が勝手に変わっていった。

青、紫、橙、黄緑、水色、ピンク。

色が切り替わる長さはバラバラ。

長い時もあれば短い時もあった。

楽しくなって、線を引き続ける。

赤、ピンク、青、橙、茶色、紺色、金色、銀色。

引き続ける中で同じ色が何度も出る時もあったが、新しい色がたまに出てきて感動する。


どれくらい線を引き続けたのだろうか。

元の白い部分がほとんど見えなくなったところで手を止める。

少し離れて壁を見ると、重なり合った線と線が絶妙な色彩を生み出し、まるで色とりどりの花を並べたようだった。

我ながら美しい出来に感動する。

しかし、ある程度眺めると、だんだんもっと綺麗に出来る気がしてきた。

あそこを、赤にした方がよかったのではないか。

あれは青の方がいいはずだ。

全体に途中で見た金色をもう少し散りばめたい。

見ているうちに我慢が出来ず、もう一度私はスプレー缶を壁に向けた。



まずはひと吹き。

赤くしたかった場所に黄色の線が広がった。

もうひと吹き。

今度は青くしたかったところに赤い線が広がった。

それを見て、私は嘆く。

どうして、同じスプレー缶のはずなのに、使う度に色を変えてしまうんだ。

やり直したくてもうひと吹き。

赤い線と平行に緑の線が広がった。

長めに引いて思い通りの色を出せないだろうか。

そんな事を考えて長めにひと吹き。

蛇行しながら引いた線は、ある程度の長さになると色が勝手に変わっていった。

青、紫、橙、黄緑、水色、ピンク。

色が切り替わる長さはバラバラ。

長い時もあれば短い時もあった。

思い通り色が出なくて、線を引き続ける。

赤、ピンク、青、橙、茶色、紺色、金色、銀色。

引き続ける中で同じ色が何度も出る時もあったが、思い通り色には何故かたどり着かない。


どれくらい線を引き続けたのだろうか。

元の白い部分が一切見えなくなったところで手を止める。

少し離れて壁を見ると、重なり合った線と線が不快な色彩を生み出し、まるで色とりどりの花を踏み潰したようだった。

我ながらおぞましい出来に嫌悪する。

どうして、こうなるんだ。

あそこは、赤にしなければならないんだ。

あれは青の方がいいに決まっている。

全体に途中で見た金色をもっと散りばめないと。

見ているうちに我慢が出来ず、もう一度私はスプレー缶を壁に向けた。

次は間違えない。



まずはひと吹き。

赤くすべき場所に黄色の線が広がった。

もうひと吹き。

今度は青の方がいい場所に赤い線が広がった。

それを見て、私は苛立つ。

どうして、このスプレー缶は、使う度に色を変えてしまうんだ。

間違いを塗り潰したくてもうひと吹き。

赤い線と平行に緑の線が広がった。

長めに引いて気に入らない場所を塗りつぶしてしまおう。

そんな事を考えて長めにひと吹き。

蛇行しながら引いた線は、ある程度の長さになると色が勝手に変わっていった。

青、紫、橙、黄緑、水色、ピンク。

色が切り替わる長さはバラバラ。

長い時もあれば短い時もあった。

線を引いて塗り潰しても苛立ちが消せなくて、線を引き続ける。

赤、ピンク、青、橙、茶色、紺色、金色、銀色。

引き続ける中で同じ色が何度も出ては苛立ち、その度に全てを塗り潰していく。


どれくらい線を引き続けたのだろうか。

今まで無くなる気配すら無かったスプレー缶から色が出なくなった。

いくら振っても、スプレー缶はカラカラと音をたてるだけで一切色が出ない。

呆然としながら少し離れて壁を見ると、重なり合った線と線がお互いの色を塗り潰して混ざり合い、全体が淀んだ黒色になっていた。


それを見て、ようやく考える。

私は、いったい何がしたかったんだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ