水族館
気が付くと、私は水の中にいた。
水面に浮かぶでも、水底に沈むでもなく、クラゲのように水中を漂っている。
何故私は水中で息が出来るのだろうか。
不思議に思うが、実際に出来てしまっているのだから考えても仕方ない。
私の横を、魚が通り過ぎる。
よく見ると、周囲には色とりどりの魚達が、私の事など気にも留めず悠々と泳いでいた。
キラキラと鱗に光を反射させつつ泳ぐ姿は、眩しいまでに美しい。
目を細めつつ、その美しい光景に浸っていると、背後から水音とは異なる雑音が聞こえてきた。
引き裂くような歓声や、何を言っているかはわからない無数の囁き声。
振り返ると、全面青の世界で1面だけ黒い四角で切りとられていた。
あれはなんだろう。
不思議に思い近付いていくが、ガラス張りにでもなっているのか、冷たい板に途中で当たる。
瞬間、何故か理解する。
ここが水族館である事を。
ガラスの向こう側では、無数の生き物が蠢いていた。
ある生き物は、こちらを指さし、何が楽しいのかけたたましく笑い声をあげている。
ある生き物は、一瞬たりともこちらを見ずに通り過ぎていく。
ある生き物は、こちらを見つつ、隣に立つ生き物にしなだれかかっていた。
背後の魚にも負けないくらい色とりどりの服を着て、統一感なくガラスの向こう側を蠢いている。
それをぼんやりと見つめていると、うっすらとガラスに映る自分の姿に気が付いた。
水の中で息ができようとも、私はそちら側の生き物だったのだ。